水中花少年、項垂れ、俯き
第41話 言葉の無花果
幸福を妬む、思想犯の下手糞な犯行声明文と、どこから吹く宛てもない葉擦れが伴う風の音のように虚ろな僕だった。
ここに書かれてある、言葉は全て嘘。
失われていく言葉の端々は傲慢な鋏で切り裂かれ、砕かれ、消されていく。
僕の言葉は僕の言葉じゃない。
結局は、結ばれぬままの、季節外れの無花果の実と同じ。
どんなに高価な商品として、店頭に華々しく、並んである言葉も武器商人に売られ、抹殺され、隷属された僕は仕方がなく、この穢土に生きていく。
つむじ風が吹き荒ぶ、架空に潜むテニスコート。
張りぼてのボールで繰り返される相槌とポンポンと跳ねる札束のだらしのない物音。
言葉の値段は微少だったのか。
僕が望む、言葉の値段は果たして、いくらだろうか?
モノがモノならモノはモノだろうに紛い物はどこへ行っても嫌われる。
言葉が言葉なら、僕は澪標を行く一艘の小舟だろうか。
いや、言葉だけは違う。
紙切れのインクとお金になる言葉は違う。
僕はどの言葉から買っていけばいいのだろう。
使い古された辞書と日々変わる、ソーシャルメディアに天秤をかけて、僕が平凡以下に蹴落とされる、掲示板に死にたい、と書き込んでも、僕が死ぬわけじゃない、公共の場。
希死念慮だけは明白なのに歳月だけは流れ、大事な荒々しい過程を奪っていく。
米良の地で入水したはずの、醜悪な容貌を持つ、磐長姫に東京で出会ったのは、その上京した年の真夏のとある熱風が小うるさい週の半ばだった。
最高気温が過去最高を更新し、溽暑が一向に収まらない、炎帝の夜に姫と遭遇した。
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