第38話 梅雨の月
半ば、花の舞を舞うのが日課のようになっていたから、彼女のうるさい耳にも入るかもしれない。
金髪頭の青年も僕と同様に家庭内に居場所がなく、そうかと言って、社会的に素晴らしい、ポジションに確保されているわけでなく、寸胴な毎日を無為に過ごしているのだろう。
「じゃあ、さよなら」
青年はしばらくの間、黙って僕の舞の習いを注視し、僕を非難しに来たはずなのに、何か考え事があったのか、帰途へ向かった。
負け組は負け組なりの道義というものがある。
相変わらず、彼女との密会と、孤月書房での勤務時間以外は、読書生活に勤しんでいたけれど、それが何だっていうんだろう。
彼女を待ち合わせている小休憩も僕が文庫本を片手に読んでいるから、大学教授を本業とする彼女が覗き込み、感心されたことは一度や二度ではない。
この前も、遠藤周作の『海と毒薬』を読んでいると、彼女は決まりきったように僕に対して、不平不満を嘆くのだった。
『こんな有望な青年が勉学の機会を奪われているなんて。もう、日本も終わったのね』
彼女の憤りは的を射ている、とこの期に及んで妙に納得する。
青ざめたような月面が見えない梅雨の月が僕の脇元まで、その秀逸な月の暈がかかった微光を与えていた。
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