第33話 大雨の音響


「そう。男どもはだから、嫌なのよ。そういうケースを腐るほど見たわ。うちの学生も同じように、田舎から上京した小娘に手を出していないか、心配」


 彼女のご都合主義の調子の良さは、今に始まったわけじゃないから、僕は必然に迫られて沈黙する。


 彼女が僕を愛人にしている事実関係そのものが、彼女の学問的な主張から、酷く離反するのだが、僕自身も彼女の懐の余裕さを搾り取るように悪用しているから、どっちもどっちだった。



「あなたはお父様についてどう思うの」


 彼女の上調子な質問に挙措するしかない。


「僕は父について何の思い入れもありません。それが真実です」


 彼女には女性活動家としての誇らしさにプラスして、強気な目線が生まれていた。


「絵に描いたような不遇な子。私に媚びるくらいしか、能がないなんて」


 彼女は僕を通して、男社会への不満や憤懣を晴らしているのだろうか。


 僕はプライドのお粗末な彼女のゲートキーパーのような存在か。


 それはそれで歪み切っているけれど。


 インテリジェンスな彼女にとって、僕は傀儡人形のような代物なのだろう。



「先生は今夜、満足されましたか」


 これ以上、僕の秘密に詮索されても困るので僕はそれとなく、話題を変更した。


「満足するわけがないじゃない!」


 彼女のけたたましい怒号が狭い房室へと反響する。


 僕は呆気に取られて、ひたすら謝った。


 


 というのも彼女の不機嫌さは常套句だったから、とにかく謝罪すれば、彼女の優位性は保たれるのだ。


 彼女は押し付けかがましい男性性への酷評と、男性社会への不平等さを僕に当たることで、溜まった膿を浄化しているのだ、と僕は沸き出す怒りを堪えながら謝り続ける。


 


 さっきまではあんなに可愛い子ね、と気でも変わったように愛撫していたのに、彼女の気まぐれには一向に慣れない。


 


 まあ、こうして、ホテル代も込みで負担してもらっているのだから文句は気安くは忠告できない。


 


 窓の外から土砂降りのような、繁吹き雨の音響が聞こえる。


 入梅のニュースが流れてから始まった五月雨はここ半月、延々と続くからか、彼女の不機嫌さに比例するかのように、大雨も加速して陰鬱さを増している。


 

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