第31話 果てしない渇望


 この前、代々木公園で会ったあの少女だ。


 リストカットを深夜にこっそり行い、権力を掌握している、母親の偉業をよそに少女はこの時間帯でさえ、自らを悲しみに打ちひしがれながら、傷つけているのだろうか。


 未婚の母となり、娘の父親である、相手の男性から散々、傷つかれ、その結果、リベラルアーツを崇め奉るようになった、とそう言えば、書いてあったか。


 


 今、僕の目の前にいる一人の女性は、まさしく、僕の母さんと同じような境遇なのだろう。


 もちろん、母さんの人生のステージと、彼女の人生のステージとは、世間一般からすれば、あまりにも雲泥の差があるけれども。


 運のない男に引っ掛かり、己の人生において多大な失敗をしたという点では共通している。



「あなたは一晩、抱くごとに精力を増している。相変わらず、初心な少年のように可愛らしい表情で世の中を憂いているのに、私の手にかかれば、その顔色ではあり得ないくらい、大胆になるんだから」


 彼女の興味対象はすぐさま、チェンジしたようだった。


 単純なのだ。


 知性を生業としている彼女も、色欲に限っては掌握に駆られる、自己顕示欲の強い人間なのだ、と冷静に分析する。


 そんな縮こまった僕も人一倍、ただひたすらに果てしない、普遍的な向上心を求める、自己顕示欲の強い、ただの小利口ぶりたい少年なのだ、と彼女の言動を鑑みて即断する。



「僕は母から常に疎まれていたんです」


 自己身辺を彼女に話そうとしたのは、これが初めてだった。

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