第25話 木工薔薇、花言葉


 少女が唐突に自慢話に終止符を打ったので僕はその花のほうへ目線をやった。



「木工薔薇だよ。この初夏の時期になると藤の花と共に咲くんだ」


 淡いイエローの木工薔薇は藤棚の木立の茂みに颯爽と天空を覆うように生えていた。



「綺麗な花。あたし、この花好き」


 少女も一皮むけば、至って、ごくありふれた普通の少女であることには変わりはない。


 木工薔薇は薫風に吹かれながら、青空の白雲と照り映えながらゆっくりと揺られていた。


 銀鏡にも咲いていた、木工薔薇は僕の郷愁をくすぐった。


 


 伯父さんの家の前の庭に葉桜になった時候には、たくさん咲いていた。


 木工薔薇の花言葉は何だったか、忘れた。


 都会の生活にまみれると、四季折々の唄について考える余地がなくなってしまう。


 後でネットでも検索エンジンにかければいいのだ。



「君のお母さまの本を僕は読んだことがあるよ。教育者としても名高いし、社会運動家としても熱心だね。特に自殺対策のプロジェクトのリーダーとして世間からの羨望も厚い」


 言いながら、裏の顔の北崎ゆかり女史とベトベトと癒着している、僕にとってはこの発言ほど、言いがかりだとは思えなかった。


 


 自殺対策のプロジェクトのリーダーなんて僕こそ、死にたくなるのに、北崎ゆかり女史は素知らぬ顔で、この数秒の間もそのプロジェクトのリーダーとして参加しているのだ。



「そうでしょう! ママはすごい人なの! 女性の憧れだって、学校の友達もよく褒めてくれるの。澪ちゃんのママってカッコいいよねって、クラス中の女の子たちがあたしを褒めてくれる」


 

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