第24話 花信風


 東屋の山藤の花がその高潔な房を花信風が雅やかに包み込むように吹き渡った。



「ママが学校にお金をたくさん贈って入れたんだもん。大学だってママのいる大学ならばママの力でどの学部にも入れるから」


 口調や語彙力がまどろっこしく拙い、見た目よりも幼く見える少女には底抜けのような空虚感だけが漂っていた。


 要するに賄賂を贈って入学したというわけか。


 


 僕は内心、呆れてしまった。


 あのベストセラーになった合格体験記は真っ赤な嘘だったということになる。


 そんな嘘で固めたような虚構の書にしがみ付くしかなかった、多くの受験生の親御さんが哀れでしょうがなかった。



「羨ましいよ。素敵なお母さまだね。僕の親は高校に進学させる資金もなかったから、僕は働いているんだ。君のお母さまには感謝したらいいよ。世の中には僕の親みたいに我が子の教育への投資を渋る親もいるから」


 僕のささやかな願望だった。


 


 語彙力が少ない、定型的なお嬢様育ちの彼女と僕のように親ガチャから外れた少年と神様は、白黒をはっきりさせるように運命の分岐点を判然とさせる。



「あたし、ママのいる大学に行って留学するのが夢なんだ。ママの手にかかれば、邪魔な奴らはすぐに消えるんだよ。前も口を挟んだ、ゼミ生が退学処分になっていたもん」


 融通の効かない、少女の会話も一度、咀嚼しないと噛み砕けない。


 


 僕と同年代の少女とはこんな微妙すぎる知的加減なのか。


 名門女子校に通っている話が本当ならば、この少ない語彙力ならば、お金の力で入学できても相当、苦労するだろうな、と僕は余計な心配をしてしまった。


 


 この少女に『君のママと僕は寝ているんだよ。それも、何度も淫らに交わっているんだ』と真実を告げられたら、どんな際どい展開が待ち侘びているか、卑しい展開図を想像してしまい、僕は思わず苦笑した。



「この花って何?」


 

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