第22話 サボタージュ、皐月少女
藤の花が咲き乱れる初夏の代々木公園で、気まぐれにも出会ったのは不登校気味の少女だった。
制服から見て、都内の女子名門校だと気付いたが、こんな皐月の平日の昼下がりにサボタージュした少女がうろつくのも、不審に思われないのか、気に留めなかったものの、僕は東屋で彼女をもてなした。
もてなした、というのも語弊があったかもしれない。
彼女が同じように落ちぶれた同年代の少年を嗅ぎつけて寄ってきたというほうがしっくりくる。
藍藤と白藤が交互に咲き乱れるように藤棚の東屋の屋根に絡まり、若葉風がその藤浪が漣のように零れ落ちていく。
薫風が都内であっても広大な敷地の代々木公園では感じられるから僕は好きなスポットだった。
公園内にはこの時期になると瑞々しい、青い芝生の広場には白詰草や捩じり花、蒲公英が咲き、公園内にある青池には杜若や菖蒲の花が隆盛を極めていた。
都心であっても青い草原に吹く翠風を感じられるから、僕は心身の健康を保つために代々木公園にはよく、出向いていた。
晴天の五月晴れ、少女は平日だという事実を忘れ去るように、見ず知らずの僕に馴れ馴れしく話しかけてきた。少女は押しなべてお喋りだった。
自分が名門女子校に在籍していることや学校では裕福な子弟に囲まれ、優雅な学校生活を送っていることや、普段ならば三つも名門塾に梯子して、多忙を極めていることや、口から出まかせに自慢の種子を吐いていた。
彼女の多彩なお喋りには、簡単には埋められない、空虚感が隠れている因果をちゃんと僕は見抜いていた。
「あたしのお母さんは大学の教授なの。すごいんだよ。本も何冊も出してベストセラーにもたくさんなっている」
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