第12話 ルナティック・ボーイ
虚栄心が彼女をこの現世に居座らせている、と僕はとっさに判断した。
命令された通り、シャワー室へ入り、東京の生活で疲れた背中に、生温い水道水を浴びせさせ、設置された鏡に映った僕はとても、疲弊し切っているように感じられた。
どれだけ、彼女から金銭を援助してもらえるか、その都度、エレガントを気取る、彼女へ純潔を捧げられるか、不誠実な愛の契約を訴えられるか、幾度もなく、もやもやする。
ルナティックな僕の振る舞いを彼女が如何にして、満足できるか、勝負してやるんだ、と固く誓う。
シャワーを浴び終えると、さすがに気まずい緊張感を覚え、屈辱でどうかなりそうになる。
屈辱感なんて、一過性の麻疹みたいなものさ、と僕は濡れた白い姿態を、タオルで拭きながら思う。
相変わらず、日焼けをしないなよなよしい、中性的な身体に違和感さえ、拭えない。
彼女はどんな種類の僕の欠点に惹かれて、僕を買おうとしたのだろう。
服を着る暇もなく、タオルを腰に巻いただけの簡素な出で立ちで、寝室へ向かうと、彼女は赫々とした下着姿で、惨めな囚人の僕を待ち構えていた。
その高級な真赭のランジェリーも、滑稽な代物に僕には見えた。
彼女なりに若い燕を可愛がるための、偏愛の儀式なのだろう。
妙齢の彼女の素顔に初めて、会ったばかりなのに対面されると、さすがに陰間のように、世間体からはレッテルを張られる、僕でさえも困惑は抑えきれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます