第12話 ルナティック・ボーイ


 虚栄心が彼女をこの現世に居座らせている、と僕はとっさに判断した。


 命令された通り、シャワー室へ入り、東京の生活で疲れた背中に、生温い水道水を浴びせさせ、設置された鏡に映った僕はとても、疲弊し切っているように感じられた。


 


 どれだけ、彼女から金銭を援助してもらえるか、その都度、エレガントを気取る、彼女へ純潔を捧げられるか、不誠実な愛の契約を訴えられるか、幾度もなく、もやもやする。


 ルナティックな僕の振る舞いを彼女が如何にして、満足できるか、勝負してやるんだ、と固く誓う。


 


 シャワーを浴び終えると、さすがに気まずい緊張感を覚え、屈辱でどうかなりそうになる。


 屈辱感なんて、一過性の麻疹みたいなものさ、と僕は濡れた白い姿態を、タオルで拭きながら思う。


 


 相変わらず、日焼けをしないなよなよしい、中性的な身体に違和感さえ、拭えない。


 彼女はどんな種類の僕の欠点に惹かれて、僕を買おうとしたのだろう。


 


 服を着る暇もなく、タオルを腰に巻いただけの簡素な出で立ちで、寝室へ向かうと、彼女は赫々とした下着姿で、惨めな囚人の僕を待ち構えていた。


 その高級な真赭のランジェリーも、滑稽な代物に僕には見えた。


 


 彼女なりに若い燕を可愛がるための、偏愛の儀式なのだろう。


 妙齢の彼女の素顔に初めて、会ったばかりなのに対面されると、さすがに陰間のように、世間体からはレッテルを張られる、僕でさえも困惑は抑えきれなかった。


 

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