最終話


「……で、なんや元さやってやつかいな」

「あはは、そうなのよ。なんかあっさりというかさ」

「ま、そない所やと思ってたけど。おめでとさん、りこぴん」

「うん、ありがとね橘さん」


 しばらくして、カラオケを終えて部屋を出たところにあっくんとりこぴんが帰ってきて。


 今、四人で店の外でだべってるとこ。

 あっくんも嬉しそうにユウにしゃべってる。


「まあ、しばらくは遠距離だけど寂しくないわ。あと、夏休み中は今までの分を取り返すように遊ぶつもりだし」

「うちらよりじれったい恋愛しとるなあ」

「あはは、どっちこっちないって。でも、今日も早速彰の家に行くんだ」

「そ、そうなん? なんや偉いはやいなあ」

「ふふっ、うかうかしてたら私たちに先こされるわよー」

「な、なんの話やねん」

「まあまあ、そういうことだから。でも、ほんとにありがとね、橘さん」

「もう、京香でええっちゅうねんりこぴん」

「だね。京ちゃん」

「そ、それはちょっとはずいがな」

「あはは、それもお互い様だよ。じゃあね、また連絡する」

「うん」


 りこぴんは嬉しそうにあっくんと消えていった。

 腕組んで、肩並べてべたべたしながら。

 まるでずっと連れ添ってきたような雰囲気や。


 ええなあ。

 ほんま、先越されるまであるなあ……。


「なあユウ」

「ん、どうした京香?」

「……今日、夜はおかん、おらんらしいねん」

「そっか。また飲み会?」

「やろうな。なあユウ」

「どうしたんだよさっきから」

「……今日は夜、誰もおらんで?」

「う、うん?」

「これ以上、うちに言わさんといて……」

「京香……うん、帰ったら部屋、行っていい?」

「聞くなボケ……あかんわけないやろ」


 こんあと、りこぴんとあっくんがどこに行ったのかまでは聞かんかったけど。


 うちとユウは、家に戻って一緒の部屋に帰ってから、すぐに一緒のベッドに入った。


 なんしたか、なんて下世話な話はせえへんけど。

 りこぴんに先越される前にってわけやないけど。

 

 うちらはうちらで、順調に愛をはぐくんだ。

 ちょっと前まではなんも進まんかった仲が、どんどん深まっていく。


 でも、最後の一押しはいっつもユウとか、あっくんとか、他人まかせや。


 いつかうちらがほんまに一緒になる日がくるんやったら、そん時くらいはうちから……いや、でもやっぱりユウからいうてほしいかな。



「んー、今日は登校日か」

「せやで。はよ起きて支度しいやユウ」

「はいはい。京香、ん」

「ん。おはようのチュウなんてもう、結婚したみたいやな」

「はは。大学卒業したら結婚しようよ。俺、頑張るから」

「あ、あほ。プロポーズが雑やねん」

「ごめんごめん。ほら、急ごう」


 盆前。

 夏休みの途中にある登校日のためうちらは一旦アパートへ戻ってきて、今日は朝だけ学校へ行く。

 

 夏休み中の学生の過ごし方とか二学期のこととか、あれこれ説明があるんはめんどくさいところやけど、学校に行くと友達に会えるんがええ。


 まあ、言うて友達なんてりこぴんくらいやけど。


「おはよーりこぴん」

「あ、おはよう京ちゃん。今朝も相変わらず一緒ね」

「へへ。りこぴんもあっくんと変わらず?」

「うん。でも、ここ数日バタバタしとるっていうて会ってくれなかったのよ。浮気じゃないよね?」

「あっくんに限ってそらないて。りこぴんの誕生日のサプライズとか計画しとるんちゃう?」

「私、誕生日は十二月なんだけど」

「んー、と、とにかく大丈夫やて。まあ、もし怪しいっちゅうならうちがあっくん張り倒したる」

「あはは、その時はお願いね」


 なあんて言いながら教室へ。


 そんで少しして先生がやってくると。


 その後ろから、男の子がやってきた。


「ええっ!?」

 

 思わず声が出てもうた。


「加納彰です。二学期から転校してくる予定なのでよろしくお願いします」


 あっくんやった。


 なんのサプライズやと思ってユウを見たら目を丸くして口開けてびっくりしてたし、りこぴんも知らん様子で思わず立ち上がってしもてた。


「ねえ、かっこいいね加納君」

「わー、背高いしタイプ。彼女いるのかなあ」

「転校してきたってことはいても遠距離よ。チャンスじゃない?」


 

 で、早速モテてた。

 ユウはひそかにモテるタイプやけどあっくんは明らかにアイドルみたいなからこうやって騒がれるんはしょっちゅう。


 ホームルームが終わってすぐ。

 女子に囲まれてた。


「ねえ加納君、この後街を案内してあげよっか」

「どこ住むの? もしかして一人暮らし?」


 囲まれてキャーキャー言われるあっくんを見るのは久々やけど、しかしあっくんは笑いながらさわやかに、女の子らに言うた。


「ごめん、俺すっごく大好きな彼女がいるから他の子とは遊べないよ」


 そう言って、りこぴんのところへ向かっていく。


「りこ、帰ろうぜ」

「あ、彰あんたねえ! なんで転校なんか」

「お前がいるからだろ。もう、俺は間違わないから」

「ば、ばか……ていうかみんなの前であんな恥ずかしいこと言わないで」

「はっきりしといたほうがいいだろ。それに、またお前に別の男らと遊ばれるのも嫌だし」

「う、浮気女みたいな言い方しないで。わかったから帰るわよ」

「はいはい。うちでいい?」

「いいわよ。ほんと、なんなのよ」


 とか言いながら、りこぴんはずっと髪をいじいじして照れてた。

 んで、二人はうちらの方を向いて手を振りながら先に教室を出て行った。


「……あっくん、さすがやな」

「高校で転校って……簡単じゃないだろうに」

「ああいうのをさらっとやるんがあっくんのかっこええとこよなあ」

「はは、間違いない。俺にはできないな」

「ふーん。うちがもし離れてしもたら、ユウはおっかけてこんのや」

「バカ。そもそも離れさせないよ」

「うん。なあ、帰ろっかうちらも」

「ああ」


 あっくんが引っ越したんはうちらの住んでるとこのすぐ近くのアパートやったらしい。

 あとで聞いた話やけど、前々から実は転校するつもりで動いててりこぴんとの一件があってそれを決めたとかなんとか。


 でも、これでまた二学期から楽しなりそう。


「なあ、お盆は帰らんとこっちでみんなと遊ぼうや」

「だな。それこそ海、いくとか」

「こっち海ないやん」

「そうだった。プールだな」

「うん。なあ、今日ラーメン食べたい」

「あいつらも誘う?」

「……今日は二人がええ」

「うん。俺もだよ」


 まだ日が高い。

 今日はまだまだこれから。

 そんで、夏休みも。

 うちらの青春もこれからや。


 また同じ日々の繰り返しなんやろうけど、でも、好きな人と心が通じ合った今の景色は昔と全然ちゃう。


 りこぴんもあっくんも、きっと見えてる景色が違うはず。


「ユウ、大好きやで」

「京香、大好きだよ」


 うちらの青春はこれから。


 今日も自転車で風呂に行ってラーメン食って。


 そんな日々が待ってると思うと、胸が熱くなる。



 完




 あとがき


 ここまで本作品をご愛読いただきありがとうございました。


 関西弁の彼女、いいなあって思って書き始めた作品をここまで書ききれたのは皆さまの応援のおかげです。


 両片思い、いいですよね。

 これからもそういう作品をお届けできたらと思います。

 

 この作品はここまでですが京香たちの日々は続きます。


 また、どこかでお会いできることを楽しみにしていてください。


 今後とも、明石龍之介をよろしくお願いいたします。

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元ヤンの幼馴染にある日突然好きな人がいるかと聞かれて、「いるよ」と答えたらなぜか様子がおかしいんだが。 明石龍之介 @daikibarbara1988

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