第40話 もうすぐ夏休み
「お、ここか。京香、ここでいい?」
「……」
「京香?」
「え、ああかまへんで。きれいな店やなあ」
ずっと上の空っちゅうかキスのことばっか考えてふわふわしとるうちに気づいたら商店街におった。
で、目当ての店へ。
チェーン店ではないファミレスは今時珍しいせいか、夕方だが多くの客が店内で賑わっとる。
うちらは運よく空いとったボックス席に案内されて、慌ただしく動き回る店員が水を置いていくと、また忙しそうに去っていく。
「混んでるな」
「うん。でも、流行っとるってことはいい店なんちゃう?」
「だな。このセットとかうまそうだ」
「えー、うちはオムライスとかがええなあ」
結局ユウはハンバーグのセット、うちはオムライスにしてから料理を待つ。
その間、うちはずっとユウの唇が気になってまう。
「……」
「さっきからどうしたんだよ」
「な、なんでも……っちゅうかなんでユウはそない普通なんよ」
「別にいつもこうだろ」
「せやけど……あ、あほ。すけべ、ぼけ」
「だからなんなんだよ。全く」
「……」
ユウの顔が見れへん。
もじもじしながらはよ料理こいと願っても、混んでるせいかなかなか来る気配がない。
「はあ……」
「京香、もしかしてだけどさっきのこと、気にしてる?」
「え、さ、さっきのっていつのなにや?」
「わかりやすいなほんと。うん、急にごめんな」
と、なぜか謝られた。
謝ってほしいわけやないのに。
「あ、謝らんといて。そ、そない言われたらなんか遊びみたいでいやや」
「遊びなもんか。俺はずっとそうしたかったし」
「うちかてそうやもん。せやけど、照れくさいやん?」
「俺だって死ぬほど恥ずかしいよ。今でも手が震えてる」
「あ、ほんまや。ユウも、ドキドキしとるん?」
「当たり前だろ。だって、ほら、好きな子と、ええと、キス、したんだし」
ユウが珍しく戸惑っていた。
そんな様子を見て、ようやくうちは笑いがこぼれる。
「ふふっ、ユウもてんぱったりするんや」
「そりゃするって。顔に出にくいだけだよ」
「せやな。でも、またユウの方からしてな?」
「……今言われると恥ずかしいから」
またユウが照れて、それを見たくてもう少しこの話題を続けようと思ってたら料理が来た。
「お、来たぞ」
「ちぇー、ユウがあたふたすんのおもろかったのに」
「趣味悪いぞ。さっ、食べよ」
「うん」
一緒に食事をする間、今度はユウの方が照れたのかずっと無言やった。
そんなユウが可愛い。
可愛いから、オムライスを一口食べるたびにユウを見てまう。
「ん、なんだよ」
「んーん。ユウ、かわええな」
「な、なんだよそれ」
「ふふっ、そういうとこやで」
「……ったく」
いつも子ども扱いされるんはうちやから、たまにはええやろと。
つい調子に乗るうちやったけど、食べ終わった後でユウは、
「京香が楽しそうでよかった」
って。
ほんま、なんやそのイケメン発言。
浮かれとるうちがやっぱ子供みたいやん。
「……なんや余裕なん腹立つ」
「なんでだよ。俺も毎日いっぱいいっぱいだって」
「うちの方がそうやもん。ふーんだ」
「おい、怒るなよ」
「じゃあ帰ったら慰めてくれる?」
「うん。帰ろっか」
「……ん」
結局ユウのことが好きやから。
ユウが照れてても笑っててもなんでもええんや。
怒ったら不安なるけど、うちの為に怒ってるユウはかっこええし。
……あっくんも、きっとりこぴんがどんな態度でも好きな気持ちに変わりはないんやろな。
やけど気持ちが通じんって、やっぱ辛いな。
そいや、二人は会えたんやろか?
「なあ、あっくんから連絡きた?」
店を出て薄暗くなった帰り道を歩きながらふと。
「いや、なんも。そっちは?」
「りこぴんも既読ならへん。まあ、向こう戻ったら学校で会うやろし」
「今はそっとしとこう。彰も色々考えてたみたいだから」
「せやな」
そんあと、あっくんからもりこぴんからも連絡がくることはなかった。
◇
で、うちらのバタバタしたプチ帰省は終わって。
連休最終日の夜、うちらが住むアパートまで帰ってきた。
「やれやれ、おばさんも結局出かけてばっかだったな」
「元々ぶらぶらするんが好きなんやおかんは。おとんとも二人で昔はよー飲みにいってたいうし」
「ふーん。俺らも、大学生とかになったらそうなるのかな」
「お酒飲めるかどうかしらんけどな」
「京香は強そうだよ」
「はは、ユウは案外グーグー寝てるかもな」
地元もよかったけど、やっぱりこうして二人っきりの空間がいい。
部屋に帰るとなんや普段通りに戻れた気がする。
「じゃあ、明日から学校だから今日は早く寝るか」
「やな。明日はりこぴんの様子も探りたいし早めに学校いこや」
「ああ、おやすみ京香」
「うん、おやすみ」
こうしてうちらの連休は終わった。
まあ、もうすぐ夏休みやし。
ずっと隣にはユウがおるし。
キス、したし。
「また、したいな」
隣で眠るユウの寝顔を見ながら。
キスを感触を思い出しながら眠る。
そして朝。
りこぴんから連絡があった。
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