第38話 余計なお世話?

「……死ぬ」

「もういいだろ。おばさんもからかってるだけだって」

「せやけど……」

「それより今日はどうする? せっかくこっちいるんだしどっか行く?」

「どっかいうてもなあ。あっくんは今日は?」

「昼から夕方まで塾だって。京香は会いたいやついないのか?」

「うーん、おらんなあ……ん? りこぴんから連絡や」


 昨日返事をせんまま放置しとったリコピンからラインが来た。


 それを見て思わず「え?」と声が出てまう。


「どうした?」

「りこぴん、今こっちおるんやって。うちらがここ地元やっていうことは知らんはずやから偶然みたいやけど」

「へー。それなら会ってみるか? 彰のこともあるし」

「……せやな。善は急げっていうもんなあ。よっしゃ、連絡してみる」


 うちらも実は地元が一緒で、偶然かえってきとると返信したらすぐにりこぴんからびっくりってスタンプが返ってきた。


 そんでこっちで会わへんかって聞いたら、「いいよ」って返事がきたので早速待ち合わせ場所と時間を決めた。


「昼に昨日の喫茶店にしたで。ユウもくるやろ?」

「行っていいのか? 篠宮さん、気まずくないかな」

「もう和解したんやからかまんて。それに勝手にぶらぶらするんはうちが嫌や」

「はいはい。それじゃ昼までゆっくりするか」

「うん」


 ちゅうわけで昼までだらだら。


 さすがに朝からイチャイチャな雰囲気にはならんかったけど、うちはずっとユウの膝枕でテレビをみとった。


 そんで昼。


 二人で家を出て昨日の喫茶店へ行くと、白いワンピースに身を包んでで店前で携帯を触っとるりこぴんの姿が見えた。


「おーりこぴん」

「もう、その呼び方はやめてっていってるでしょ。あ、黒木君もこんにちは」

「どうも。なんか急でごめんよ」

「んーん、地元が一緒だったとかびっくり。ね、ここってよく来るの?」

「中学ん時はよー使ったで。りこぴんは?」

「……さあ。こっちかえってきたの久々だし覚えてないわ」


 店の看板を見上げながら懐かしそうにするりこぴんは、そんまま中へ入っていく。


 そんでなんも言わずにうちらがいつも座っとった席へ先に座るりこぴんを見て、うちはなんや勘が働く。


 多分、あっくんとここに来たことがあるんやろ。


 でも、それがいい思い出になっとるんかどうかまではわからん。

 慎重に、話題を探さなあかんな。


「なありこぴん、こっちに連れとかおらんのん?」

「うーん、まあこっちにいたのは小学校までだからそんなに、かな」

「そっかあ。でも、幼馴染とかはおるんちゃう?」

「そうそうあんたらみたいな都合のいいことはないわよ。それに、いたところでそれがなに? って話。昔っから仲良くて今もずっと仲良しなんて、普通ないわよ」


 冷めた様子で淡々と話すりこぴんは、最近の彼女というより少し前のいじわるだった彼女を思い出させる態度。


 その様子を見てユウもまずいと思ったんか、話題を変える。


「なあ篠宮さん、小学校は俺たちは隣の地区だから違うけど、ここまで遠くなかった?」

「ん、まあちょうど境目くらいが家だから歩いてこれる距離だったわよ。結構こっちの方も遊びに来てたし」

「ふーん。それじゃどっかで会ったこととかあったかもな」

「だね。でも橘さんとそのころから一緒だったんでしょ? いいわよねえ、ほんと。幼馴染で両思い、か」


 また、りこぴんは物思いにふけるように。

 はあっとため息をはいたので思わず「やっぱそういう人、おるん?」と聞いてしまう。


「……なによ、私の過去がそんなに気になる?」

「そ、そないことないけど。でもうちら付き合い浅いし、りこぴんのこと知りたいなあって思うんは普通やろ?」

「そんなもんかしら。ま、私も幼馴染というか、いい感じの人はいたかな。とは言っても何年も前の話だし、結局うまくいかなかったんだけどね」


 ようやく、話題があっくんとの話になりそうやと。

 この機会を逃したらあかんと、うちは畳みかける。


「そん人ってどんな人やったん?」

「そうねえ。男前だし優しいし、私みたいなわがまま女のことを大事に思ってくれてたのは確かだけど。でも、最後は全部私がぐちゃぐちゃにしちゃったかな。困らせたし、多分あのままいても彼を困らせるだけだったし。それに、向こうが悪いんだってことにして好き勝手やってたりもしたし嫌な思いはさんざんさせたから。とっくに嫌われてるわよ、私なんか」


 りこぴんは笑っていたけど悲しそうやった。

 でも、そない顔をするっちゅうことはまだ脈があるんちゃうかって。


 うちは勝手に前のめりになる。


「そ、そないことないと思うで? ほら、向こうかて自分が悪かったって思ってるかもやん。話してみたら案外仲直りできるかも」

「なんでそんなこと橘さんがわかるのよ。ありえないわ」

「あ、ありえんかどうかなんてあっくんに話してみんとわからんやん」

「あっくん?」

「あ」

「……彰とあんたたち、知り合いなの? あー、そういうこと。彰になんか言われたんだ」

「え、あ、いや、それは」


 思わず口が滑ってしもた。

 慌ててユウも「し、知り合いだけどそんな話はしてないよ」ってフォローしてももう遅い。


 がたっと席を立って、りこぴんは荷物を手に取る。


「あいつ、まだそんな女々しいことしてたんだ。あの時無視したくせに」

「ま、待ってえなりこぴん、それは」

「もういい。それじゃまた学校で。あと、あいつの話はもうしないで」


 千円札を机に置いてりこぴんはかえってしまった。


 慌てて追いかけようとしたけど、さっさと出ていくりこぴんはあっという間に姿を消してしもた。


「あー、やってもうた」


 慣れんことはするもんやないなと。


 がっくりと肩を落として席に着くと、横にいたユウが「京香は悪くないよ」と慰めてくれる。


「でも……あっくんにも悪いことしたんやないかな」

「そうでもないさ。篠宮さんが本当に彰に関心がなかったらあんなに怒らないだろ」

「それはそうやけど」

「とにかく二人の様子はこれ以上つつけないし見守るしかないだろ。あとで彰には正直に今日のこと話しておくよ」

「……かんにんやで」


 ちょっとテンション低めに店を出て。


 昼飯も食べんとふらふらと家に戻る。


 ほんで家に着いたあと、一旦それぞれの部屋に戻って。


 うちはふさぎ込むようにベッドに寝転んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る