第37話 バレた
「ただいま」
まだ、おばさんは帰ってきていなかった。
まあ、日をまたいでるわけでもないし大人なら普通なんだろうけど、いつか俺たちもこうして朝まで酒を飲むなんてことをするのかなって。
思いながら京香の部屋をノックしてみると。
「お、遅かった!」
京香が飛び出してきた。
「ご、ごめん。すぐ戻ったつもりだけど」
「……すんすん」
「な、なににおってるんだよ」
「女の匂いせえへんかチェックしとんねん」
「しないだろ」
「……せえへんな。よし、許しちゃる」
「何をだよ。いや、遅くなってごめん」
「んーん、かまへん。いじわるいうてごめん。なあ、あっくんは何の話やったん?」
「ああ、そのことだけど。部屋、いい?」
「あ、ええよ。ほなお茶持ってくる」
一度京香の部屋に入り、二人でベッドに座って話をすることに。
「彰のやつ、やっぱり篠宮さんのことがまだ好きみたい」
「まあ、せやろな。でも多分りこぴんもあっくんのことそーとー意識しとる思うで?」
「なんでわかるんだよ」
「さっきな、こんなラインしてみてん」
京香が見せてくれたのは篠宮さんとのやりとり。
京香が「りこぴんは昔好きやった人とかおらんの?」と質問していて、それに対して篠宮さんは「いない。絶対いない。男子なんかみんなクズだし」と。
「重症だな、これは」
「なー。でもこんだけ引きずってるっちゅうことはりこぴんもやっぱりあっくんのこと、かなり意識しとるはずやねんなあ」
「まあ、それが好きだから故にとかだといいけど」
「うーん。とりあえず連休明けやな」
なんて話をしていて時計を見ると随分遅い時間になっていた。
慌てて部屋に戻ろうとベッドから立ち上がる。
すると、
「も、もうちょいええやん」
きゅっと袖をつかんできて、京香が俺を引き留める。
「い、いいけど寝ないと明日しんどいぞ」
「……おかんは部屋まではこんやろ?」
「そう、だけど。一緒に寝るのはさすがに」
「……いやや。一緒やないとあかん。さっき一人でおっただけでさみしかった」
「京香……うん、それじゃ一緒に寝るか。ごめん、寂しい思いさせて」
「ううん、うちって重い?」
「はは、嬉しい重みだよ」
「ほんま? じゃあもっと甘えるで?」
「いいよ。そうしてくれる方が嬉しいし」
「えへへ、ほなお布団いこ?」
「う、うん」
甘えたくてしょうがない様子の京香が可愛くて仕方ない。
嬉しそうに俺の横に寝そべって手を握ってくる京香がそばにいていらぬ妄想も働いたけど、灯りを消すとすぐに京香の寝息が聞こえてくる。
眠いのを我慢してずっと俺を待っていたのだろう。
でも、そういうのは嫌いじゃない。
ちゃんと俺を好きでいてくれてるんだって思えるから。
俺も、もっと自分の気持ちに正直にならないと。
恋人として、前に進むために。
明日は俺も、男らしいところを見せよう。
♥
「……ん、寝てた?」
ユウと一緒に布団に入ってすぐ記憶がない。
夜更かしなんて久々やったから眠かったんやろう。
でも、目が覚めた時ユウがぎゅっと手を繋いでくれとったからそれが嬉しかった。
「まだ、ぐっすりやな」
横ですやすや眠るユウの綺麗な顔がそこにある。
それを見ておれるだけで幸せがうちのなかに充満する。
「……ユウ、大好き」
聞こえてないのをいいことに大胆にそんなことを言ってみる。
そして、じっとユウの顔を見つめていると胸がだんだんドキドキしてくるんがわかる。
「……キスとか、今やったら反則やろか」
言いながら顔を近づけてみる。
こんままうちがもう半身体を前に出せば届く距離。
してみたい。
でも、
「やっぱ、ユウからされてみたいな」
そこで止まる。
初めては全部、ユウからもらいたい。
うちはビビりやからユウから気持ちを示してくれんとなんもかも不安になる。
うちを好いてくれとるってわかっとっても。
ユウがほんまにうちを女として見てくれてるって、確信したい。
夏休みのうちには、なんや進展あるやろか。
「……うん。待ってるで、ユウ」
ユウのおでこにちょんと指を置いてから。
うちは先に布団を出る。
で、飲み物を取りに行こうと部屋を出て。
静まり返ったキッチンの冷蔵庫を開けて牛乳をグイっと一飲みして部屋に戻ると。
「……にゃーっ!」
「ど、どうした京香!?」
部屋の前で思わず大きな声が出た。
で、ユウも飛び起きてきた。
「こ、これ……」
「ん? あ……」
部屋の扉に張り紙。
『次かえって来る前にはダブルベッド買っとくね 母より』
と。
「……い、一緒に寝てたんバレた」
「みたいだな……でもまあ、いいだろ別に」
「よ、よーない! 絶対いじられる!」
「落ち着けって」
「や、やー!」
急に恥ずかしゅうなって一人で布団にくるまる。
ユウはそんなうちを懸命に慰めてくれてたけど。
案の定起きてきたおかんはにやにやしながら「すけべ」「京香も女やなあ」と。
散々うちをいじり倒してから出かけていきよった。
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