第32話 話がある


「電車、案外空いててよかったな」

「せやな。それに今日は曇りやし涼しゅうてええわ」


 電車に乗りながらユウと二人で地元へ向かい間、ずっと手を繋いだまま。


 途中で乗ってくる人らにじろじろ見られたりもしたけど、関係あらへん。

 

 むしろ堂々とユウの隣におれることがこない嬉しいことなんやなって実感させられる。


 ほんま、勇気だしてよかったで。


「なあ、もうちょいしたら到着やな」

「おばさんに連絡は?」

「しとるで。駅まで迎えきてくれるって」

「そっか。なんか緊張するな」


 シャツの襟もとを気にするユウは、大きく深呼吸してから「よし」と気合を入れる。

 うちも真似して大きく息をすうてみたけど。


 全然楽にならん。


 ドキドキしながらも電車は待ってくれへん。


 無言でユウの手を握ったまま、地元に帰ってきた。



「ええと、あ、おったおった! おかーん」


 改札を出てロータリーに止まっている車から自分ちの車を見つけて声をかける。


 車のそばにはうちのおかんがおった。


「京香、それにユウも久しいやーん! ん-、あれー?」


 うちと年が二十違うおかんが、ニヤッとしながらこっちに寄ってくる。


 何やろって思った瞬間、気づく。


 手、繋いだままやった。


「あー!」

「なーんや、向こうでくっついたんや。よかったなあ京香」

「え、いや、これは……ユウ、なんかいうてえ」

「え、ええと、おばさん、これはですね」

「はいはいええわよもう。二人とも、おめでとう」


 あわてるうちらに呆れるようにおかんが一言。


 で、すんなり車に乗り込んでいくのをみて、うちらも後部座席に。


「な、なんや拍子抜けやな」


 後ろの席でひそひそとユウに言うと、「だな」と。


 ただ、そんなあっさりした話なわけはない。


「二人とも、ちゃんと学校で問題起こさずに過ごしとる? 休みのたんびに遊びいったり、外食ばっかしとらん? 特に京香、あんたユウにまずい飯食わせてへんやろな。ユウも京香に甘いばっかじゃあかんのやで? んん?」


 車が発進した途端質問攻め。


 で、何からどう話せばいいのかと戸惑っていると、バックミラー越しに目が合ったオカンが笑う。


「ま、二人とも順調そうでよかったわ。てっきり京香の方がユウにフラれて生きていけんとか言うて半べそかいて帰省するもんやと思てたから」

「そ、そないことで半べそなんか……いや、そうなったら死ぬわな」

「京香、愛が深い女はええけど重いやつは嫌われんで。ちゃんと踏ん張りや」

「う、うん」


 いつもの調子でおかんにびしっと言われてタジタジ。

 そんなうちを見ながら隣でユウは笑ってる。


 でも、ちゃんと手繋いだまんま。

 安心、させてくれてるんやろな。


 嬉しい。


「とりあえず帰ったら今日は予定あるから二人で好きにやっとき。部屋、二人ともそのまんまやけど、こうなったら一個の部屋でええんかいなあ?」

「お、おかんそないうちら不健全ちゃうもん!」

「はいはい、京香はその辺まだおこちゃまやもんなあ。ま、急に孫でけた言われても困るし、ゆっくりやりい」

「お、おかんやめてえなはずいやん……」

「あはは、やっぱ京香は京香ね。で、ユウ。誰かこっちで会うん?」

「え、ええ。彰と会おうかなって」

「あー、あっくんも時々スーパーで会うけど相変わらずやで。ただ、最近はちょっと元気ないんかなあ」

「彰が?」

「ん-、なんかぼーっとしとるような。ま、あんたらがおらんなって寂しいだけかもな。よーに遊んできいや」


 なんて話をしていると車はわが家の前へ。


 で、二人で車を降りると、「うち、こんまま出かけてくるさかい、ほななー」と、おかんはそのまま車を走らせて出かけて行った。


「ほんま久々に娘が帰ってきても相変わらずやな」

「おばさんらしいよ。それじゃ彰に連絡してみるから、連絡くるまで部屋でゆっくりするか」

「せやな。ほなうちの部屋くる?」

「そうしよっか」


 久々の実家も、案外かえってくれば感無量とかはなく。


 まるで毎日ここに帰ってきてるようなそんな感覚のまま、自然に部屋へと上がっていく。

 実家っちゅうもんの安心感は不思議や。

 

「ほな、お茶入れてくるわ」

「ああ、ありがと」


 ユウを部屋に通してから一度リビングへ。


 そんで勝手に冷蔵庫開けてお茶を注いでから部屋に戻る。


 すると、


「……」

「どないしてん? 険しい顔して」

「いや、彰から連絡きたんだけど」

「お、ええやん。いつ会うの?」

「いや、それがさ」


 ユウがパッとラインのメッセージ画面を見せる。


 するとそこには、短い文面で一言。


『話がある』


 と。


 普段、どんな時でも明るく楽しくがモットーやったあっくんからは考えられへんような、そんな文面やった。

 

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