第31話 地元の連れ
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「ふああ、眠いなあ」
「京香、早く準備しないと向こうに着くのが遅くなるぞ」
「わかっとるって。ちょっと待ちいや」
京香と付き合ってから最初の一週間が過ぎた。
とはいってもほんと以前とはなんらやってることは変わらず、互いの家で飯食ってゲームして、夜に銭湯に出かけて。
でも、手を繋いだり京香が昔より甘えてくれるようになったから、やっぱり付き合ってよかったって毎日実感して充実した日々を送っている。
そして今日は連休初日。
夏休みを目前に控えたこの時期だけど、一足先に地元へプチ帰省。
部屋でゴロゴロしてる京香を起こしにきたところ。
これから京香の実家に行く。
京香の母親に、付き合ったことを報告するために。
「さてと、長居はしないから荷物はちょっとでいいだろ」
「ええと、挨拶っちゅうたらうちもなんかいわなあかんの?」
「自分の親だろ。それに、俺から言うから京香は無理しなくていいよ」
「……頼りっきりなんもいややもん」
「はは、それじゃ向こう帰ったら京香に飯作ってもらおうかな」
「そ、それはあかんて! おかんに何言われるかわからんやん」
「いいじゃんか別に。おばさんも京香が料理始めたって聞いたら驚くぞ」
「……ほんまそういうとこいじわるやな」
京香と京香の母はまるで姉妹のように仲がいい。
でも、仲が良すぎてしょっちゅう喧嘩もしてる。
それに、京香と違って器用でなんでもこなすさばさばした性格のおばさんはいつも京香をコテンパンにして。
母娘だからそういう力関係でちょうど釣り合ってる感じもするんだけど、肝心の当人からすればそうもいかない。
「うちかて、おかんを見返したいんや」
いつか母のように。
これが京香の口癖。
そんな、自分の上位互換みたいな存在の母親に会うのがやっぱり緊張はするようだ。
「はあ……うちとユウが付き合ったなんて、どういじられるんやろ」
「まあ尋問は覚悟だな。俺も考えたら緊張してきた」
「ふふっ、せやけどほんまに結婚の挨拶みたいやな。そいや、地元の連れらには会う?」
「まあ、夏休みに帰ったらゆっくりって思ってたけど。彰くらいには会おうかなって」
「あー、あっくんな。仲良かったもんな」
「全然連絡とってなかったけど最近。京香は?」
「んー、別に無理に会う人はおらんかな。うちも一緒にあっくんと会おうかな」
「じゃあそうするか、報告もかねて」
「ほなあっくんにもいじられるん覚悟やな」
「はは、そっちの方が恥ずかしいな」
俺の中学時代の親友で、いつも京香との仲を気にかけてくれていた存在だ。
俺や京香と違って優等生な上に、運動神経も抜群。
野球でもサッカーでも、どの部活に入ってもエース間違いなしの身体能力と器用さを持つ、俺が見てきた限りでは間違いなくナンバーワンのパーフェクト人間。
で、パーフェクトっていうくらいだから当然男前。
アイドル顔負けの甘いマスクで、中学の時にすでにファンクラブ的なものができていたほど。
そんな彰だが、しかし特定の部活に所属することもなく、俺たちとフラフラ遊んでいたのはほんと不思議だった。
本人曰く「青春は今だけでも、友達は一生だろ」って。
それとこれがどう関係するんだって思ったりもしていたが、とにかく欲のない奴だった。
まあ、真面目なことに変わりはないからそのまま地元の進学校に進学して。
高校に入ってからはあまり連絡もとってなかったんだけど。
「お、さっそく彰から返事きたぞ」
久々にラインを送ってみたらすぐに連絡が帰ってきた。
なんてことはなく、帰ったら連絡くれよってだけで。
玄関で靴を履きながらそれに返事をしてると、京香がじっと俺を俺を見てくる。
「な、なんだよ」
「ユウ、あっくんから連絡きて嬉しそうやん」
「そりゃあ久々だし」
「うちと喋ってる時より、嬉しそう」
「はあ? そんなわけないだろ」
「むう。あっくんに嫉妬するわ。ふーんだ」
「お、おい」
よくわからない拗ねを見せられて先に玄関から外へ行く京香をすぐに追いかけると、出たところに立ったまま後ろで手をもじもじさせていた。
「……ユウのあほ」
「どうしたんだよ。緊張してるのか?」
「それもあるけど……もっと甘やかしてくれんといややもん」
「京香……うん、大丈夫だって。俺は言われなくてもお前に甘いから」
「そ、それは当然や。でも、あっくんの前でもちゃんと、手繋いでくれる?」
「もちろんだって。恥ずかしくても、かっこ悪いとか思わないからそういうの」
「……ん。ならええ。ほな、いこか」
付き合っても変わらない空気感に俺は勝手に安心していたけど。
京香はどうも、ずっとこのままがいいってわけでもないようだ。
恋人なんだから恋人らしく。
幼馴染という関係からの進展を望んでるんだろう。
俺だって。
もっと京香と恋人らしい関係になりたい。
まあ、告白すらままならなかった俺たちだからすぐには難しいんだろうけど。
その辺も地元に帰って何か空気が変わるかな。
なんて期待を込めて駅に向かって。
電車に乗って、中学卒業までを過ごした地元を目指す。
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