第30話 まだまだ、だけど

「ほら、出来たぞ。たべよっか」

「ほわあ、ラーメンやん! ほんまにラーメンや!」


 自家製ラーメン。

 

 透き通った出汁に、野菜や肉をバラバラと乗っけたちょっと盛り付けの雑なもんやけど。


 ええ匂いがする。


「いただきます」

「いただきまー……ん、うまいでこれ」

「ほんとだ。案外イケるな」


 ほいで味もちょうどええ。

 店のもんよりうまい、なんていうのは言い過ぎやけど、二人で作ったもんにしては十分っちゅうか。


 いや、二人で作ったもんやからうまいんやろな。


「なんや家で食べるんもええなあ」

「だな。明日から色々やってみるか」

「うん。毎日楽しみやわ。ユウ、ほんまうちのこと好きでおってくれてありがとうな」


 興奮して、ついそんなことを言ってまう。

 するとユウも、少し照れながら。


「京香こそ。ずっと一緒にいてくれてありがと」


 優しく言ってくれた。

 で、お決まりのように二人で照れる。


 ちょっとはずかしなって無言でラーメンをすすって。


 スープもちゃんと全部飲んで。


 余すことなく堪能してからユウを見ると、目が合う。


「……京香」

「な、なんや?」


 ユウがじっとうちを見てる。

 で、ちょっと顔が近づく。


 これってもしかして。


 ちゅうされる?


 そう思うと、急に汗が。


 あかん、まだそないこと早いのに。


 ど、どないしよ……。

 い、いや、ユウとやからええっか。

 うん、かまへんでユウ。うち……。


「京香」

「ん、ん?」

「鼻にニンジンついてる」

「……へ?」

「ほら。ほんと、そういうとこ、可愛いよな」

「……」


 覚悟を決めて、なんなら目をつぶって迎え入れようとしてたところで拍子抜け。


 ちょっとがっかりもしたけど。

 こんなんもうちららしいかなって思うと、ちょっとおかしかった。


「ぷっ」

「なんだよ。笑うとこあったか?」

「んーん、なんでもあらへん。なんや幸せすぎておかしいなって」

「そう、だな。でも、おばさんにはどう報告する? 実家に帰った時でもいいけど」

「あー、まあどっちゃでもええやろ」

「よくねえよ。一応おばさんからは京香の保護者役を任命されてるんだから」

「ほな今度の休みに一回帰る? おかんも喜ぶやろし」

「そうだな。連休あるし、そうしてみるか」

「うん」


 ちゅうわけで、来週の予定も決まった。


 久々に田舎に帰省。

 別に地元に帰ることはどうって話でもないけど、ユウと恋人同士になって初めての帰省となれば話は違う。


 まるで結婚の挨拶にでもいくみたいで、ちょっと緊張する。


「……おかん、なんて言うかな」

「おいおい、緊張するのは普通おれの方だろ」

「せ、せやかてユウはおかんに信用されとるし。うちの方が全然怒られてばっかやから。勉強もせえへんと遊びよんかって怒られへんかな」

「怒られるなら俺も同罪だろ。大丈夫だって、ちゃんと喜んでくれるだろ」

「かなあ」


 なんでここまでうちが心配になるかって理由については、別にユウとうちが付き合ったことを怒られるからって思とるからやない。


 むしろユウのことをほんまの息子同然に可愛がってて、なんならほんまの娘であるうちより信用しとるおかんのことやから、それ自体は喜んでくれるはず。


 せやけど、うちがユウに迷惑かけてへんかって。

 そういう説教をずっとされそうなんが憂鬱っちゅうか。


 絶対言われる。

 彼女らしいことちゃんとやっとんかとか、料理も家事も出来へんくせにユウの彼女になんかなって迷惑ちゃうんかとか。


 ……帰るまでになんか一個くらいできるようになっとこ。



「さてと、風呂行くか」

「あ、もうこんな時間? うん、ほないこか」


 地元に帰るって話題から話に花が咲いて。

 

 昔はあーだったこうだったって盛り上がってるうちに夜になった。


 で、いつものように風呂へ行く。


 でも、今日は自転車には乗らへん。


「なあ、手繋いで歩いていかん?」

「いいけど、帰りに汗かかないか?」

「夜は涼しいから大丈夫やって。ゆっくり、手繋いで歩きたいんや」

「そっか。うん、俺もだよ。もう、慌てる必要も隠すこともないんだもんな」


 そっと、どちらからともなく手を繋いで。


 二人でいつもの道を歩く。


 ゆっくり、でも確実に。

 街灯の灯りだけの暗い夜道を二人で並んで歩く。


 チャリでニケツっていうのも青春っぽくて好きやけど。


 こうやって、噛みしめるように同じ道を行くんも、なんか満たされる。


「ユウ、ずっと手繋いでくれなうち、嫌やで?」

「俺だって。恥ずかしいとかならいいけど、冷めたとか慣れたとか、なしだからな」

「あほ、うちのセリフじゃいそれは。絶対うちは離れへんから覚悟しときいや」

「はは、京香が言うなら覚悟しないとだな。でも、そんな覚悟はとっくにできてるよ」

「……なんや、プロポーズみたいなこと言いなやはずかしいから」

「言わせたくせに。でも、その時はちゃんと、今度は俺の方から言うよ」

「……うん。待ってるで」


 夜道を二人で歩く間。


 段々、肩が近づいて手を握る力も強くなって。


 もうすぐ夏で、暑苦しいはずやのに。


 もっと、アツうなれって思う。


 多分、いや、絶対。


 こっからもっと熱く、暑くなるんやろうなあ。


 今日も月が綺麗や。


「ユウ、月が綺麗やで」

「京香、月が綺麗だな」

「……ぷっ、やっぱ似合わんなこんなセリフ」

「だな。好きだよ、京香」

「うちも。大好きや」


 

 おしらせ


 第一章『両片思い編』終了しました。

 ここまでご愛読いただき、たくさん応援いただきありがとうございます。


 引き続き、第二章『地元編』がはじまります。


 よろしくお願いいたします。

 

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