第29話 ぎゅっと充電
「なあ、何か食べたいもんある?」
作れるものがあるのかも怪しいうちが、まるで料理上手な人間のようにそんな質問をスーパーに向かう道中でしてみる。
すると、
「じゃあ、京香の好きなラーメンで」
と。
「ラーメン? いやいや、そんなん手料理ちゃうやん」
「ふーん、だったらラーメンなら作れると?」
「す、スープあっためて麺ゆでるだけやろ? 余裕やん」
「じゃあやってみてよ。家でラーメン食べるのって結構斬新だし」
ユウが少し悪い顔してる。
からかってるつもりなんやろうけど、ちょっとばかしうちのことバカにしすぎや。
うちかて、ラーメンくらい作れる。
そう思って、スーパーに入ってまず袋麵のある方へ向かうと。
「おいおい、インスタントはなしだろ」
「え?」
ユウに止められた。
「いや、スープも作ろうよせっかくだったら。鶏ガラとるくらいでいいからさ」
「と、鶏がら? なんやそれ、どうやってとるんや?」
昔、がりがりの男に対して「おい、トリガラ!」って言うてたことはあるけどあれのことなんか?
え、痩せた男を鍋で煮るんか?
「はは、やっぱり京香は料理音痴だな。じゃあ一緒に作ろう」
「あ、あかん。今日はユウの為にうちが」
「嬉しいけど、一緒に作りたいんだよ。ほら、せっかく付き合ったんだからなんでも一緒にやってみたいし」
「ユウ……うん、ほなしゃーなしで一緒に作ったる」
なんて言いながらちょっと複雑やったけど。
食材選びすらままならんうちに代わって買い物を済ませてくれるユウは嬉しそうに「彼女と料理なんて、夢みたいだよ」って。
そんなユウがレジを済ませて食材を袋に詰めてる時にも、うちは意地の悪いことを言うてしまう。
「……彼女と、ちゅうことは付き合ってくれたら誰でもええんか」
「はいはい。京香と一緒に料理したかったんだよ」
「そ、そーいういなすような言い方いやや」
「ったく、そういうとこ、女の子だよな京香って」
「だって……」
「ごめん、ちょっと意地悪したな。京香とさ、一緒になんでもしたいんだ。二人で作って、二人で食べて、二人で片付けしようよ。俺、それだけでめっちゃ嬉しいからさ」
こういう、うちが言うてほしいこともなんでも察してユウは話してくれる。
で、思わず気持ちが溢れそうになってうちは、スーパーを出たところで手を握ってからユウにもたれる。
「……大好きや」
「うん。俺も」
「ほんま? めんどくさい女って思てへん?」
「可愛いとしか思ってないよ」
「……あほ」
もう、そっからはなんも言えへんかった。
黙って暑苦しくユウにもたれたまま一緒に部屋に戻って。
そん後もちょっと離れとうなくて。
台所に立つユウの手を離さんでおると、「料理できないぞ」って。
また、頭をポンポンされてようやく渋々その手を離す。
「……なんでそない冷静なんや」
「冷静なもんか。俺だって、今は死ぬほど浮かれてるんだよ」
と、ユウが言った言葉は嘘やないってわかる。
珍しく目も合わさんと、顔も真っ赤でちょっと手も震えとる。
そんな姿が可愛い。
かっこええのに、なんや可愛いってなって。
後ろから思わず抱きついてしまう。
「ユウ、好き」
「お、おい……うん、ほんと大好きだよ。それに、ずっと一緒なんだから焦らなくていいだろ?」
「うん。離れたい言うても離さへん。逃げたら許さへんからな」
「俺だって、逃してやんないから」
「うん。離したらあかんで……」
そんまま、気がすむまでしばらくユウにしがみついたまま。
ユウも、うちの気が済むまで黙ってうちの手を握ってくれてて。
幸せをぎゅっと充電できたところでようやく、ユウからゆっくり離れた。
「……うん。ほな、ラーメン作ろや」
「ああ。まず鍋でお湯沸かすぞ。京香、包丁使える?」
「ほ、包丁くらいざっくざくやで。何刺したらええんや?」
「切るんだよ。鶏ガラ、荒めに切って鍋に入れてくれ」
「う、うん」
ユウが主導でやってくれて。
うちは言われるまま食材を切ったりして手伝う程度やったけど。
一緒に台所に並んで料理するんがこんなに幸せやなんて、思ってもみいひんかった。
めっちゃ楽しい。
ほんで、ずっとユウが近い。
ぐつぐつと煮える鍋のせいやなくって。
ユウが焼いてくれる焼き豚のせいでもなくって。
ずっと、顔が熱かった。
ほんで、二人で初めて一緒に作った料理が、完成した。
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