第15話 両思い、だけど


「……ん、今何時や?」


 目が覚めた時、窓の外は明るかった。


 ふとスマホを手に取って時間を見ると、


「げっ」


 朝の十時過ぎ。

 ぐっすり寝るにしても寝すぎだった。


「やっば……ユウ、待たせてもうた」


 慌てて部屋を飛び出して、スウェット姿のままユウの部屋に。


 すると玄関の鍵は開いていた。


「……ユウ!」

「あ、おはよう京香。ゆっくりだったな」

「……おこってへんの?」


 せっかくの休みやから早く寝て早く出かけようって約束してたのに寝坊したうちは焦ってたけど。

 ユウはなんのことってくらいけろっとしていた。


「怒るかよ。疲れてたんだろ、昨日銭湯まで歩いていったりもしたし」

「せ、せやけど……ええと、今から出かけたんでええの?」

「別に昼飯食ってからでもいいよ。天気も、案外曇りだしさ」


 窓の外を見ると、少し空が暗い。

 昨日までは快晴の予報だったのに、なぜか今日は曇っていた。


「そ、それやったら昼はラーメン、どない? ほんで、買いもん行って帰るっちゅう感じで」

「そんなに慌てなくていいって。それより、着替えてきたら?」

「……うん。ほな十分後、下で」

「おけー」


 一度部屋に戻って、着替えながらもやもや。


 寝坊のせいだけやない。

 昨日、照れくさい告白までされたせいもあって、うちはユウの顔を見るだけであたふたしてまう。


 やのにユウのあの落ち着きようはなんやねん。

 これやったらまるでうちが片思いでおろおろしてるみたいやんか。


 ……両想い、やねんな。

 ユウも、うちのこと、好きやねんな。


 それに、ユウはうちへの気持ちをちゃんと言うてくれてる。

 

 ……はあ。やっぱりちゃんと答えへんかったらあかんよな。


 こんなにしどろもどろなうちを見て、わかってくれへんかなあ。


「……お待たせ」


 考えてるうちに結局むくれる。

 うちの悪い癖。

 考えがまとまらなくなったら拗ねる。


「なんだよ、機嫌悪そうだな」

「せやないもん。お腹へった」

「でも、今日は買い物で電車乗るから駅まで歩きな。駅前、駐輪場ないし」

「ま、今日は曇っとるしええんやない? いこか」


 一緒に駅を目指す。

 

 いつものラーメン屋にいくばっかりじゃ芸がないからと、今日は行った先で店を探そうという話になった。


 特に何か話すわけでもなく淡々と歩く中でも、ユウは時々うちの方を見ながら「しんどくないか?」って気遣ってくれる。


 しんどいって言ったら、おんぶでもしてくれるんやろか。


 ……ユウのことやから、ほんまにやってくれそうやけど。

 白昼堂々、男子におんぶされる女子高生なんてさすがに無理やわ……。


 我慢しよ。

 でも、ちょっとくらいならええんかな。


「……足、疲れたかも」

「はは、京香も衰えたな。昔は散々壁蹴ってたのに」

「そ、そないしょっちゅうやないわ。でも、駅までまだもうちょいあるやんな?」

「まあ、あと十分くらいか。ん、手貸せよ」

「……ええのん? 汗かいとるよ?」

「俺も手汗くらいかいてるって。嫌じゃないならほら、手引いてやるから」

「うん……」


 思惑通りになったんはええけど、いざユウに手を握られるとこっぱずかしゅうて死にそうになる。


 自爆や。

 手引かれてる間も、汗が止まらへん。


「……も、もうええで?」

「いいってもうすぐなんだし。多少は楽だろ?」

「まあ……ほな、このまま」

「ああ」


 うちよりおとなしいくせに、こういう時だけ男らしいとこ見せてくるんは卑怯や。

 卑怯やねん、ほんま。


 好きな人おるっていうてうちを惑わせといて、それが実はお前だったって急に言うて。

 ほんでしゃれたこと言うて、ちゃんと気持ちを伝えてきよって。


 こうやって、うちのわがままにいっつも付き合ってくれて。


 ……好きや。

 好きすぎて死にそうなくらい好きや。


 でも、好きすぎて言葉がでえへん。


「さてと、着いたな」

「あ」

「どうしたんだよぼーっとして。切符買うぞ」

「う、うん」


 隣町までの一番安い切符を二枚、ユウが買ってくれて。


 二人で改札をくぐる時には、自然とその手は離れていた。


「お、ちょうど電車来たな。京香、空いてるっぽいし座る?」

「一駅やから別にかまへんで」

「じゃあ、そうするか。足腰弱ってるからな」

「も、もうからかわんといてえや」

「はは、ごめんごめん」


 ガラガラの車両に乗って、二人でつり革を持つ。

 すぐそばにユウが立っているだけで、ドキドキする。

 ひっついてなくてもうちの心臓の音が聞こえるんちゃうかってくらい、緊張してる。


「そういや、駅前にラーメン屋あったぞ」

「ユウ、隣町行ったことあんの?」

「ないって言ったろ。さっきネットで見たんだよ」

「そ、そっか。うん、ほなそこでええよ」


 ユウの些細な会話にも、敏感に反応してまう。

 誰かと、うちの知らん景色を一緒に見たりしとんやないかって、勝手に嫉妬したり。

 好きやって言うてくれても付き合おうって言うてくれへんのは、やっぱりあの告白がなんかの間違いやったからやないんかとか思ってしもたり。


 柄にもなく、ネガティブになってまう。

 でも、そんなうちの気なんて知らんと、電車はすぐ隣駅に着いてしまった。

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