第13話 帰ってきたいから
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「ええと、これとこれ頼んでええか?」
「まあ、先月の仕送りの余りがあるからいいよ。でも、案外高いよなあ」
「ええやんか。次からうちが弁当つくっちゃるんやから昼飯代浮くやろ?」
「確かにな。よーし、今日は食うかあ」
羽目を外す、というには少々可愛いかもしれないけど。
今日は俺の部屋でピザパーティだ。
京香と二人でこうして出前を取るのは一人暮らしを初めてすぐの時に一度だけ。
その時も京香が「やってみたいことあってん」と言って、やったっけな。
「電話しといたよ。でも、三十分くらいかかるって」
「ほなその間ゲームしよってええ?」
「ああ、いいよ。俺はゆっくりしとく」
せっせとゲームを始める京香を見ながら、少しほっとする。
ずっとこんな感じで二人だった。
で、いつまでもこんな風に二人でいられたらって、やっぱり思う。
ただ、京香の気持ちがわからない。
好きな人がいるっていうくらいだから俺のことを好きとかじゃないんだろうけど。
どういうつもりで今ここにいるのか、それすらも最近はよくわからない。
幼馴染って、みんなこんなふうにずっと一緒なのか。
これが普通の関係なのか特別なのか。
それもわからない。
あんまり他人に興味を持ったことがないから知らない。
ほんと、京香は何考えてんだろ。
「うりゃ、わっ、やられてもーた! なあユウ、このボス倒してえな」
「ほんとゲーム好きなくせに下手だな。貸してみろよ」
「へへっ、ユウはほんま昔っから器用やもんな」
「京香が昔っから不器用すぎるんだよ」
「うっさいなあ。はよやってえ」
「はいはい」
たかがゲームだけど。
こうやって京香が頼ってくれるのはなんでも嬉しい。
昔からゲームでもスポーツでもやってみれば人並み以上にはできた。
でも、突き詰めない。
やる気がない、というかやる必要がないというか。
部活でも、やったらやったで楽しいんだろうけど。
こうして京香といる道を選んだ。
……ほんと、京香に振り回される人生だな。
「ほら、倒したぞ」
「ほええ、やるやん。また困ったら言うわ」
「全く……あ、ピザ来たかな?」
「うち取ってくる」
「あ、待てよお金」
コントローラーを放り投げて玄関へ走る京香を追いかける。
そして京香が急いで玄関を開くと、帽子をかぶった若い女の子がいた。
「あ。ま、毎度ありがとうございます」
「おお、来たでユウ」
「ほら、配達の人がびっくりしてるだろ。はい、お金ちょうどです」
「あ、ありがとうございます。では」
京香が前のめりに対応するせいか、ピザの入った箱を京香に渡すと、慌てて店員は去っていった。
そして部屋にピザを持ち帰ると、いい匂いがそこら中に。
「んー、腹減ってきたな」
「今日はユウの奢りやし、パーッとやるでー」
ジュースをコップに注いで乾杯。
で、ピザを出して切り分けているとまた腹が減ってくる。
「はは、これで酒でも飲めたらいいのにな」
「大人んなったらやりたいなあ。ユウ、酒弱そうやけど」
「そういう京香は酒豪っぽいな。ま、そのころには何してるんだろうな俺たち」
「……大学、行くんやろか」
「多分な。でも、案外何も変わってないかも」
「確かに。ずっとこんままかもな」
ずっとこのまま。
それは、俺にとっては嬉しい未来だ。
でも、いつか京香は俺の元からいなくなるかもしれない。
そんなネガティブなことを想像すると、少しだけさっきまでの食欲が引いていく。
「……」
「どないしてん? コーン嫌いなんか?」
「い、いや。よし、食べよう食べよう。熱いうちがうまいんだから」
でも、余計なことを考えて楽しい時間を台無しにしたくない。
気を取り直して、ピザを分けて二人で食べる。
「んー、んまいなあ。うち幸せや」
「これで幸せ感じるならほんとコスパいいなお前」
「なんや、贅沢な女が好きなんかユウは」
「んなやついないだろ。でも、確かにうまい」
「な、ここの店はこれがええんや。あー、なんやいっぱい食べてまう」
「今日くらいいいだろ。好きなだけ食べろよ」
「ほんま? ほな遠慮せんと食べるでー」
ピザのおかげか、いつもより京香はテンションが高く。
銭湯に迎えに来た時のような悲壮感はもう、そこにはなかった。
♥
ユウのやつ、なんや元気ないなあ。
ピザ、うちが無理やり買わせたからやろか?
……好きな女に甘えられるんが男は嬉しいって、さっき見よったサイトに書いとったけど、嘘なんか?
いや、やっぱりうちみたいながさつな女が言うたら、ただのゆすりにしか見えへんのやろか。
……ほんまはピザなんかどうでもええっちゅうに。
ただ、ユウの部屋にくる口実が欲しかっただけやっちゅうに。
なんでわからんかな。
言わなわからんのかな。
ユウの部屋におりたいねん!
……って、言えるかいなボケ!
「はあ……」
「どうしたんだよ? ピザがもうないから辛いのか?」
「そ、そない強欲やあらへんて! お、おなかいっぱいなったから一息ついただけや」
「そうだな、おなかいっぱいだ。さて、休んだらなんかする?」
「……する」
「またゲームだろどうせ」
「も、もうゲームはええ。なあ、食後の運動っちゅうことで、散歩いかん?」
「いいけど、汗かいたらどうすんだよ」
「また朝に風呂いったらええやん。明日は休みなんやし」
「それもそうか。ま、夜は涼しいしぶらっとするか」
「うん」
……よっしゃ。
ついでに荷物は部屋おいとこ。
また、ユウの部屋に戻ってきたいし。
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