第6話 一緒に一夜を過ごしたいけど
「おい、もう遅いからそろそろやめろよ」
いつもなら夜の十時を過ぎたあたりで「眠いから帰るわ」と解散するのに、今日の京香はゲームをやめない。
まあ、それもただ興が乗ってのことであればやめさせれば済む話なのだけど。
明らかに眠そうなのに、必死にかじりつくように格闘ゲームをやり続けている。
「……はっ! う、うちはまだ寝てへんで?」
「いや、怪しかったぞ。ていうかそんな無理しなくても明日もやりにきていいから」
「そ、そういう話ちゃうねん」
「なんだ、今いいとこなのか?」
「いいとこ……せやな、いい感じやねん」
「じゃあ、きりのいいとこまで待ってやるから。早くしろよ」
「(……なんでそない早よかえってほしそうにするんよ、アホ)」
「ん、なんだって?」
「アホ」
「な、なんだよ急に」
「アホ、マヌケ、タコ。知らん、勝手に先寝よれ」
「……まあ、そうさせてもらうよ」
先にベッドに入り、部屋の灯りもついたままゲームの音も響く中、目を閉じる。
まぶしいしうるさいから寝れないかと思ったが。
さすがに夜も遅い。
眠気がすぐにやってきて、だんだんとゲームの音が遠くなっていった。
♥
「……寝たんか。ユウの鈍感め」
ユウの寝息が聞こえ始めた瞬間に、セーブもせずにゲームの電源を落としてテレビを切る。
ほんでベッドを見るとユウの寝顔が。
いつぶりやろか、こうやって寝顔見んの。
「……かわらへんな、ほんま。そういう鈍いとこも、ユウのええとこやけど」
ほんまは、「遅くなったから泊まるか?」って聞いてほしかってん。
別にやらしいこと期待してないけど、昔みたいに一緒に寝たりしたいなって、思ってもうたんやからしゃーないやん。
「……こんまま、寝落ちしたってことで言い訳してもええかな」
ユウの隣にそっと寝転ぶ。
顔を近づけると心臓が張り裂けそうになるから、少し距離をとって。
でも、そこにユウがいるってことがわかる距離に寝てるだけで、やっぱり心臓は破けそうなほどうるさく鳴る。
「……寝不足なったら、ユウのせいやからな」
呟いて、電気を消す。
真っ暗になった部屋で一人、自分の心臓の鼓動を感じながら目を閉じて。
やっぱり、寝付くまでにしばらく時間がかかってしまった。
♠
「ん、朝か……っておい」
目が覚めた。
そして体を起こすと横で京香がすやすやと眠っていた。
「……寝落ちしたのか? 全く、何時までゲームしてたんだよ」
しかしゲームの電源は切られていた。
疲れて休んでいたらそのまま寝てしまったってとこか。
「……起こさないとまずいな」
俺の部屋に京香が泊まるなんて、昔ならしょっちゅうだったけど。
さすがに中学にあがったころからはなかった。
当たり前だけど、付き合ってもない男の部屋に泊まるほど、京香はだらしない女じゃない。
「おい、起きろよ」
「……ん。あ、おはよ、ユウ」
「寝ぼけてんなまだ。顔、洗って来いよ」
「…………え、ここどこ?」
「俺の部屋だよ」
「え、うそ、あれ、まじ? や、や、いやや、みんといて!」
寝起きのむすっとした顔をよほど見られたくなかったのか、顔を隠しながら京香はそのまま洗面所へ走っていった。
そしてバシャバシャと顔を洗う音がしたあと、タオルで顔を拭くようにして顔を隠して京香が戻ってきた。
「……おはよ」
「ったく、そんなに嫌ならちゃんと自分の部屋で寝ろよ」
「ち、ちがうねん、ほんまはうちのほうが早起きして……やなくって、ええと」
「まあ、いいけど。で、風呂はどうする?」
「……行く。着替えてくるから待っといて」
「はいはい」
すぐに部屋に帰っていく京香を見送った後、彼女が寝ていた場所の布団の乱れを直そうとすると、ほのかに彼女の体温が残っていて。
すこし気まずかった。
同衾、というのとも少し違うのだろうけど。
ここで京香と一緒に寝ていたって考えるだけで。
朝から心臓がうるさく高鳴っていた。
♥
「あー、もう最悪や」
朝からやらかしてしもうた。
ほんまやったらユウより早よ起きてさっさと部屋に帰るつもりやったのに。
寝顔、みられてもうた。
それに勝手に隣で寝てるんもバレてもうたし。
淫乱やとか、思われんやろか……。
「まあ、風呂入って切り替えよ……って最近ずっとこんな感じやな」
風呂に入って体の汚れや疲れを洗い流しても。
心の疲れや悩みまでは流れてくれない。
気休めにもほどがある。
こんなもやもやは自分でなんとかせなあかんて、わかっとるのに。
「ユウの顔見たら、付き合うてくれとか、言えんよなあ」
好きな人を前にして、堂々と告白して求愛できる人はほんますごいと思う。
うちのおとんとおかんも。
ユウのおとんとおかんも。
そうやって一緒になったんやと思うけど、ほんまどうやったんやろ。
うちには無理や。
ヤンキーっぽいことして見栄張ってきたけど。
うち、ビビりやもん……。
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