第3話 うちの気持ち
♥
「なに自分の顔見てうっとりしてんねん。ナルシストは嫌われるで」
「ち、違うって。なんでもないよ」
「ま、ええわ。早よかえるで」
「はいはい」
うちは大阪出身の両親の影響もあって、関西育ちやないのにもろな関西弁が身に染みてもうた。
せやから言い方もどっちかいうたらきつめに聞こえるし、はっきり言えばかわいげなんて一切ない。
今やって、内心ではユウと一緒に帰れるってだけで心臓がバクバクしとんのに、そんな乙女な部分は一切見せられへん。
ていうか、ユウの好きな人って誰やねん。
うちが好き勝手夜に暴れとった間に、こそこそ他所の女と会いよったんやろか?
……気になる。
「なあユウ、最近夜は何してん?」
「え、別に何も。京香が夜出歩かなくなったから安心して家でゲームしてるけど」
「ほんまに? うちに内緒でこそこそ単車乗り回したりしてへん?」
「してないって。ていうか走りに行くとき、俺はいつも後部座席だったろ」
「ま、まあせやけど。ユウも運転してみたいって言うてたやん」
「まあ、あの頃はな。今はそんなことない。自転車で十分だよ」
ユウはうちと違って真面目。
そんで、自分では全く自覚がないんか知らんけどめっちゃイケメンなんや。
うちが惚れてるから、とかやない。
実際、中学の時かて何人もの女子にユウを紹介してくれって頼まれたりしたし。
やけど、ずっとうちが一緒やったから。
みんなあきらめてっちゅうかうちが怖くてユウに近づいてこんかった。
うちもうちで、それをわかっててユウの傍から離れんようにしとったし。
せやからユウは自分のこと、モテへんって思とるみたいやけど。
……でも、こんなことならもっとべったり一緒におればよかった。
「じゃあ京香、三十分後にアパートの下でな」
「う、うん。ユウ、今日の晩御飯は?」
「まあ、仕送り入ったばっかだしなんか食べにいってもいいけど」
「ほんま? ほなうち、ラーメン食べたい」
「はは、京香はラーメン好きだよな。いいよ、それじゃあとで」
「うん」
アパートについて、先に隣の部屋に入っていくユウを見送るのがいつも辛い。
すぐに会えるとわかってても辛い。
この間にどこの女と電話しとるんやろかって考えるだけで、変な汗が出る。
「……嫉妬深い女なんて、嫌いやろなあ」
誰にも聞こえないような声で呟きながら部屋に戻る。
そんで、すぐに制服を着替えてから化粧を整える。
高校生やし、派手なメイクはせんしすぐ風呂に入るわけやけど、好きな人とおる間はおめかししたいのが乙女心っちゅうもん。
……今日声かけてきとった篠宮っちゅう女、絶対ユウに惚れとったな。
可愛いし、女の子っぽい感じやし、ああいう女がやっぱりモテるんやろか。
うちみたいなガサツで木刀振り回して暴れとった女なんか、やっぱり好きにならんよなあ。
……治らへんかなあ、この性格。
鏡で自分の顔を見る。
それなりに整った顔立ちであることはもちろん自覚しているし、実際美人だってよく言われてもきた。
ただ、不良まがいのことをやってると寄ってくる男もそんな連中ばかりで。
口を開けばやらせろとばかり。
もちろんうちはずっとユウ一筋やから断ってきたけど。
肝心のユウからやらせろって言われたら、外でもどこでもすっぽんぽんになっちゃるのに。
そういう目で、ユウは見てくれてへん。
大事にしてくれてるのはわかるけど、それは女としてやなくてあくまで幼馴染として。
昔っから面倒見がええし、うちの親とも仲がええからほんま保護者みたいにうちに付き合ってくれてるってだけで。
それにうちもユウとおったら素が出てまう。
粗い言葉遣いも、態度も、いっつもユウの前でさらけ出してまう。
ほんまは学校でやってるみたいにお淑やかな自分を演じたいのに。
できへんねんなあ。
「はあ……ラーメンてなんやねん。可愛くハンバーグとかって言えばよかった」
鏡の前で後悔しながら、やがて時間が来た。
外に出ると、先に着替えたユウが外で待っていた。
「お、今日はジャージじゃん」
「あ、しもた」
「はは、いいっていいって。中学の時なんて真っ黒のスウェットで徘徊してたし」
「そ、そんなん忘れてえな。うち、もう不良ちゃうし」
「はいはい。でも、別に風呂行くだけなんだからかしこまらなくてもいいだろ」
「……まあ、せやけど」
ユウはなんやかんやうちの全部を許してくれる。
それが嬉しいんやけど、甘えてしまうんもある。
こんなんやから、いつまでたっても女として見られへん。
……風呂から出たら、切り替えよ。
「じゃあ自転車で行くか。ていうか京香もそろそろチャリ買えよ」
「いやや、自分でチャリ漕ぐんなんてダサいやん」
「まあ、別にいいけど。じゃあ行くぞ。捕まってろ」
「うん」
ほんまはな、ユウ。
チャリ、おかんが買うてくれるって言うてたん、断ってん。
なんでかなんて、いうまでもないやろうけど。
「……ユウ、背中おおきなったなあ」
「なんだよ今更。まあ、背は伸びたけど」
「うちより小さかったのにな」
「はは、小学校の時の話だろそれ」
「うん。昔っから、ユウのことはずっと知っとるから」
こうやって、ユウの背中にもたれかかって二人で移動してる間が。
死ぬほど幸せやねん。
ちょっとケツ痛いけど。
そんなん気にならんくらい、ずっとこうしてたい。
もっと銭湯が離れたとこにあったらええのになって。
思いながら、いつもの道をユウの自転車で進みながら。
夕方の風を浴びて、火照った顔を冷ましていた。
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