第5話 お弁当
それにしても彼女とこの双子は共通点が多い。あの子も銀髪に赤眼だったし、千鶴みたいに敬語で話すところもあったりしてよく似ているものだと思っていたりするんだよなぁ……まさか本人ってことはあるまいだろうけれども、少し気になるところではある。偶然にしたって出来過ぎてるものだ。
「物思いに耽っている様子ですが、どうかしましたか?」
隣にいる双子の姉である千鶴に声をかけられて我に帰った。考え事をしているうちにボーッとしていたらしく心配をかけさせてしまっていたようだった。悪いことをしてしまったなと感じつつ苦笑いを浮かべながら何でもないと答えたものの、「本当に大丈夫ですか?」なんて聞かれてしまう始末で、かなり不安を与えてしまっている様子が伺えたために素直に打ち明けることにした。
「ちょっと昔のことを思い出しちまってさ。ほら昔近所に住んでた子と会ったことがあったろ?その子のことを考えていたんだけど、やっぱりそっくりそのままなもんでつい感慨深くなっていただけだよ」
「そうなんですね!それは良かったです!」
彼女は朗らかに笑ってくれていたのでホッとしたものだった。こうして笑ってくれるだけでも救われるというものであり、心の底からの笑顔というのはいつ見ても気持ちの良いものであるからだ。それが大好きな人なら尚更というものであって、自然とこちらも頬が緩んでしまうわけである。
彼女も彼女でマイペースにお茶を啜っており、桜の周りを無邪気に走り回っている天音のことを優しく見守っている。
「ふふ、相変わらず天音ははしゃいでいますね」
「元気なのは何よりだけど転ぶんじゃ無いぞー!」
「はーい」
昼になると桜に囲まれながらの昼食会。雲のように天を覆う桜が風に揺れる様を見ながら食べるご飯はとても美味しいものだと思う。しかも今日に限って言えばいつもよりもずっと楽しい気分になっていることもあって余計にそう感じられるというものである。こんな幸せな時間を過ごせるとは思っていなかっただけに有難い限りだ。
「凄く綺麗なお弁当だな」
「はい、じっくりと考えて作ってきました」
「あたしも手伝ったんだよ」
神崎姉妹共同制作の弁当は重箱に詰められた豪華な内容となっていた。唐揚げを始めとした肉料理を中心に様々な種類のものがバランス良く配置されており、彩豊かに仕上がっていて実に食欲をそそり立てるものとなっている。こういうセンスの良さに関しても、彼女たちは優れている。
早速食べてみるとこれがまあ絶妙なものになっていて箸が進む進むといった感じで、あまりのお味の深さに大満足の一食となったわけであるが、それと同時にこれは毎日食べたいなと思ったほどである。今度また何かの機会があればお願いしたいくらいのものではあったのだが……。
「やっぱ料理上手いな」
「そうでしょう? これからはご飯を作りに行っても構いませんよ」
さらりととんでもないことを口走る千鶴に対して若干困惑してしまう。いくらなんでもそういう訳にはいかないだろうと焦ったものではあったが、当人は至極当然と言ったような顔つきをしていた為何も言い返せなかったというのが正直な話だ。するとその横にいた天音もがんばったのをアピールするように胸を張っており、こっちもまた愛くるしさを感じずにはいられないものであった。
クール系が千鶴なら、可愛い系は天音である。天音は表向き誰に対しても明るく接してくれることから非常に人気がありクラスのマスコット的存在として絶大な支持を集めており、天候初日から男女問わず皆の人気者となっているのだ。裏ではオレ以外を羽虫と呼んでいるが……本人はそんなことなどおくびも出さずにオレや姉といる時はニコニコとしているのであった。
彼女たちの手作り料理は高クオリティの塊であり、
特に味付けに関しては最高級のレベルに達していそうである。元々良い素材を使っているということもあるが、それ以上に手際が良く丁寧であることが窺える。ここまで出来るようになるまでには相当苦労したんじゃなかろうかと思われるほどの腕前の持ち主なのだ。
「二人とも将来料理人になれるんじゃないか?」
冗談交じりに言ったつもりだったんだが、どうもその言葉を聞いた瞬間二人は急に押し黙ってしまい顔を俯かせてしまった。
「えへへ、それだけ褒められると嬉しいですね」
「お兄さんはあたしたちのツボを押さえた天才だよ」
ただし、千鶴たちのそれは照れ隠しだったようで、すぐにパッと明るい表情を見せてくれたため一安心することができた。
先程の言葉は本心から出たものだった。実際これだけの腕を持っているのであればプロの道を目指すことも可能だと思えるほどで、そういった意味ではこの子たちは将来の選択肢が増えたということになるのではないかと思う。
高価な食材を使っているそうだが、それだけで無くてちゃんと考え抜かれた上で作られたものであることはすぐに分かるレベルなのできっと舌が良い人が見れば一発で見抜くことが出来るに違いないであろう品々でもある。
「あら、湯呑みに花びらが、ふふっ」
千鶴は骨董品が好きで、この場にも自分の宝の一つだと自慢している湯呑みを持参しており、それを大事に持ち歩いているとのこと。その陶器の湯飲みについていた桜の花びらを摘み取り微笑む彼女の姿は何とも絵になっており美しいものがあった。こういった所作の一つ一つまで洗練されているように見えてくるから不思議である。ただ単に容姿端麗だからとかではなくて内面的なものも含めての魅力なんだろうなって思う。そして恐らく無意識のうちに行っている動作だからこそ余計に魅力を感じる部分もあるのかと思い知らされることとなった。
「ふう、やはり湯呑みを使うと落ち着きますね。もちろんそれだけではありませんがね」
彼女はうっとりとした表情でこちらにしなだれかかり、肩の上に頭を乗せてきたものだから思わずドキリとすると共に心臓が大きく跳ね上がってしまった。
艶のある銀髪からは甘い香りが立ち込めてきており、鼻腔の奥を刺激してきて堪らない心地になってしまう。更に密着してくることでお互いの距離はほぼゼロ距離となり、互いの体温が直接伝わってきているためにドキドキして仕方が無い。彼女の体温はやや低めで、ひんやりした肌触りではあるものの触れ合っている部分は温かく感じることが出来ていた。
桜が咲き乱れる中、美少女姉妹と一緒に花見をしているなんてとても贅沢なことだと思う。
「もう、お姉ちゃんばっかりずるいっ! あたしだって甘えたいんだからぁ〜」
隣に引っ越してきた双子美少女姉妹がヤンデレすぎる ヤンデレ好きさん @yandese-love
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