第3話 花見

 天音にもキスされてしまい、後はもうされるがままになる。双子に完全に主導権を握られることとなってしまった。

 その後千鶴が作った豪華な夕食を振る舞われ、複雑な心境をどうにかする隙も無いまま、夜を迎えることとなる。

 ベッドは非常に大きくふかふかしていて寝心地が良いものであったし枕も良い香りを放っているおかげで興奮を抑えることが出来ないほどだ。しかし眠れないことに変わりは無く、ひたすら悶々としているうちにいつの間にか朝を迎えていた。自宅を開けたまま、夜を明かしたのであった。

 隣には当然とばかりに双子が美しい体をひけらかしながら眠っており、艶めかしさに圧倒されるとともに昨晩の出来事を思い出したことで顔を真っ赤にする羽目になった。こんな可愛い女の子たちと一夜を共にしてした背徳を覚えつつもどこか幸せだと感じる自分がいることもまた事実であるため、頭を悩ませることになっていた。

 ただでさえ色んなことが起こり過ぎていて頭が追いついていないにもかかわらず、彼女たちはオレに時間を与えないように目を覚ました。


「ふふ、たっぷり眠れましたね」

「お兄さんと眠れたからぐっすりだった!」




 あの日から一週間が経っても、余韻が忘れられない。彼女たちとの少し爛れた関係は続いている。キスをされたり抱きつかれたりはもう日常に組み込まれている。

 正直言ってこの状況に慣れつつある自分がいることに驚いている。慣れとは恐ろしいものだと思ってしまったよ。もちろん悪い意味でね。

 今日は土曜日ということで学校はない日となっている。そのためゆったり過ごす。両親は単身赴任でおらず、なかなかに広い家に一人で暮らしている。

 窓から外を除けばその広い家が女児向け玩具に見えるくらいの敷地を持つ神崎姉妹の邸宅が視界に入ってきており、そこに視線が集中していることに気付いたところで我に帰る。窓越しにこちらの様子を伺ってくる千鶴の姿があったからだ。

 目が合うなり笑われるものだと思っていたけれど違ったようで小さく手を振ってきた。

 ちなみに今日は姉妹に桜を見に行きたいと言われ、約束を取り付けられた日である。

 箱入り娘であった彼女たちはろくに外に出た経験が無く、当然桜も実物を見たことがほとんど無いという。車に乗っている最中にほんの一瞬見る程度だったと聞いている。それでは情緒もへったくれも無いのは確かだろう。今のうちにしっかりと目に焼き付けておきたいというわけらしいのだけれども。

 彼女たちに思い出を作ってあげたいという気持ちは強いもののやはり緊張してしまうことは否めないんだよなぁ……。

 絶世の美少女に愛される。厨二時代ならではのくだらない妄想をしていたことを思い出すよ……。本当に現実になるとは思いもしなったさ。今でも信じ難いと思っているところはあるかな? 着替えを終えた後に玄関へと向かうと既に準備を整え終えた二人がいた。


「おはようございます」

「おはよっ!」


 挨拶と共に綺麗なお辞儀を見せてくれた二人は同時に手を差し出してくる。オレは彼女達の手を取るとその柔らかい感触に包まれることとなる。すると二人とも笑顔を浮かべて喜んでくれたことからこちらも嬉しくなって頬が緩むことになる。


「健太くんのために私が着るお洋服を選んでいたら、少し時間が掛かってしまいましたね。待たせてごめんなさい……」


「あたしも! でもこれから行くんだよね!?楽しみだよ〜!!」


 千鶴の服装は白い肌に似合う薄いピンクを基調とした清楚系ワンピース姿であり、制服姿とは違う雰囲気を感じさせられたため見惚れてしまっていた。一方で天音の方は水色を基調としながらも所々白が入った爽やかさを感じさせるデザインとなっており活発的な彼女によく合っていると思った次第である。

 千鶴は恥ずかしそうにしているのに対して天音は全く気にしていない様子であることからも対照的な印象を受けた。

それにしても……なんなんだこの圧倒的な可愛らしさを誇る双子たちは……目のやり場に困ってしまうぞこれは。……っていかんいかん!! 煩悩退散!!!

 千鶴は大きな帽子を深々と被っており、表情を隠すようにして俯いているのだが顔を隠しても尚滲み出る美しさというものが存在していた。一方天音の方は快活な性格を前面に押し出すように、あちこちを走り回っている。

 こうして見ると双子とはいえ違う人間なのだということを実感させられるものである。

 まあ容姿は同じなので瓜二つであることに変わりは無いんだけどな。


「お兄さんとお花見楽しみなんだけど! とりあえず一緒に写真撮ろうよ! お出掛け記念!」


 天音はとにかく積極的に思い付き、行動に移すタイプである。彼女はスマホの画面を自分たち双子とオレに向け、シャッターを切った。パシャリとした音が鳴り響き、満足げにした彼女の手元にある画面には既に撮影された画像が表示されていた。そこには満面の笑みの千鶴と無邪気そうな天音の顔がある。

 彼女たちとは明らかに釣り合わない雰囲気のオレはただ苦笑いすることしか出来ずにいた。

 天音は車内に乗り込んだ後も自撮りをしている。どうやらギャル系雑誌を読み込んでいたようで、外界に疎くても覚えたんだそうな。

 それにはオレと千鶴も写しており、スリーショット写真として自分の鍵垢に上げまくっていた。鍵垢にしているのはこんだけオレとの思い出作りに貪欲な反面、妙にしっかりしているとこもあるからである。そういうところがまた彼女らしいと言える部分でもある。


「ほら見てみてー?」

「いい感じですね、天音」

「やった! お姉ちゃんに褒められた!」


 彼女たちの姉妹仲はかなり良く、そこらのカップルなど目じゃないレベルでイチャついているように見えるほどだ。そんな様子を見せられる度に羨ましいと思ってしまう自分がいることに最近気づいたけどね。

 車が走り出してすぐのこと。目的地に着くまではトークで盛り上がっていた。彼女たちはやはりオレの好みを知り尽くしており、当然とばかりにオタク趣味について理解があり、受け入れてくれているため話は弾んでいった。


「じゃあそろそろ着くし降りる用意しようか」

「はい、分かりました」


 話に夢中になっている間にあっと言う間に到着したらしく、車は駐車場へと停車したようだ。車を降りれば目の前には見事なまでの景色が広がっていた。それはまるで異世界に来たかのような感覚である。

 桜が咲き誇っている風景というのはこれほどまでに幻想的になるのかと思い知らされることとなったのだ。花びらが舞い落ちる様を見ていれば思わず溜息が出てしまうほどの光景が広がっている。

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