第2話 双子に好かれて

 彼女たちの料理はかなり美味しい。箱入り娘と聞いていたから多少の侮りはあったにはあったが、予想を大きく上回るものだっただけに驚いたものだ。味わっている最中に二人の顔を見ると頬を赤らめていて、恥じらいつつも嬉しさを隠しきれていない様子を見せていることが可愛らしく映ってしまい思わず見惚れてしまう。


「お兄さんにあたしたちの料理を食べてもらえて、嬉しいですぅ」

「はい。もっと召し上がってくださいませ」


 彼女たちと一緒に食事をしていると、絶えない熱が体を熱病のように狂わせ、脳髄の奥深くにまで侵食していくようだ。ただでさえ女の子に囲まれるというシチュエーションだけでも興奮してしまうのに相手はこの世で最も美しいと言ってもいいほどの美貌の持ち主なのだ。心臓が爆発しそうなくらい高鳴っていたとしても何らおかしいことはないはずだろう。

 彼女達は何かを期待していそうな雰囲気を放っており、オレはそれに応えなければならないと、何も言われていないにもかかわらず強要されているような気分になってくる。

 これが俗にいうカリスマ性というものだろうか。この姉妹は何もかもが最上級のスペックであり、その姿を見せるだけで誰も彼もが

虜になってしまうこと請け合いであろう。実際問題としてクラスメートの男共からは嫉妬の目線が飛んできて痛かったりするんだよね。

 それに双子ならではの息のあったコンビネーションを見せつけられてますます心を奪われそうになるもののどうにか耐え抜きつつ食事を終えた後教室に戻ったまでは良かったんだけど……何故かその後の授業中ずっと落ち着かなかった。

 彼女たちの白過ぎる肌にこちらの全てを見透かしたように透き通っている赤い目、誘うようなゆったりとした言葉の運び方、どれを取っても完璧だった。何より恐ろしいまでに整った容姿をしているために目を離すことが出来ないだけでなく視線すら釘付けになるばかりであった。


「お兄さん、一緒に帰ろ!」

「健太くんのためにお迎えも用意しているのですよ」


 放課後になると即座に双子に捕まり、そのまま手を引かれるまま校門を出る。

 校門前の道路には千鶴の言った通り、迎えのリムジンが来ている。流石はお金持ちだけあり、この程度のことは朝飯前らしい。そして乗り込むや否や隣同士で座って腕を組んできたため身動きが取れなくなってしまう。


「ふふんっ、これから楽しい時間の始まりですね……」

「そういや、友達は作らないのか?」

「興味無いですね。それより今はこうして健太くんと一緒にいる方が大事です」


 千鶴はとても落ち着いた雰囲気を持っており、いつも優しい微笑みを浮かべているために大人っぽい印象を受けることが多いけど実は結構甘えん坊なんだなって思うようになった今日この頃、他人のことについて語る千鶴の目は冷たく、まるでゴミを見るようなものであった。


「他のやつなんて知らない。あたしたちにはお兄さんだけがいれば良いの」


 天音も千鶴と同様、あまり他人に対して関心がないようである。彼女は見た目だけなら人懐っこく誰に対しても優しく接してくれるタイプではあるが、やはり底知れぬものを感じさせる。時折見せる寂しげな表情もまた魅力的であると言えなくもない気がしないでもない。

 彼女たちはおそらく、外に出て最初に味わった対人イベントが暴漢に襲われるという苦々しいものであったのが災いし、他人を信用するのを拒絶するようになったのではないかと思われる。そのせいもあって二人ともオレ以外には一切心を開かず、警戒して壁を作っている節がある。

 そんなことを考えながら窓の外を見てみると、どんどんと景色が移り変わっていくのが分かる。

 周りにあるビル群よりも一際高い建物が見えて来たところで目的地に着いたようで車が止まる。明らかに自宅から離れた場所だ。

 そこは一見すると普通の高層ビルに見えるのだが入り口に入るとそこには受付があり、黒服のお姉さまたちが待ち構えており、丁重に出迎えられた。エレベーターに乗って最上階へと向かう間、緊張していたこともあって何を話せば良いのか分からない。

 彼女たちはとにかく高貴に見え、気安く話しかけることなど許されないのではないかと思えてくるほどだ。それはさっき乗ってきた車の中でも同じことであったけれど……。


「お嬢様方、お客様、到着致しました」


 ドアが開かれるとその先に待っていたものは高級ホテルのような内装が施された空間が広がっていた。明らかにオレの自宅とは違う環境であるため戸惑いを覚えずにはいられなかった。まずインテリア雑貨からして次元が違い、大理石でできた台座の上に花瓶が置かれてあって綺麗なお花の香りを楽しむことが出来るようになっているところとか、映画館やバーもある。もうね……庶民的な生活を送って来た人間にとっては未知の領域だよホント。


「あれ、家に帰るんじゃ……」

「サプライズです」

「お兄さんとお姉ちゃんとあたし、三人きりで楽しみたかったの!」


 オレは部屋に入るなり双子にソファまで連れて行かれ、左右を固められるようにして座り込んだ後にメイドらしき人が飲み物を持って来て目の前に置いてくれる。


「はぁ、良い匂いですね」

「英雄さんの匂いはこんなに安心するものなんだ」


 両手に花ってこういうものなんだと、改めて思い知らされたよ。それから少しの間歓談した後に映画を見ることとなり、早速始まったわけだけど……正直言って退屈極まる内容であったと言えるかもしれない。というのも内容が双子と付き合うラブストーリー系のものばかりで、それを延々と繰り返している。どんなに高評価なものだろうと、似たような内容を繰り返されては流石に飽きてしまうものだ。それでも最後まで見たのだから偉いと褒めて欲しいくらいのものだと思う。

 双子ものと言っても修羅場ではなく、二人を愛するという内容で統一されており、片方が蔑ろにされているシーンは全く無かった。


「はぁ、面白かったです」

「えへへ、まるであたしたちみたい」


 二人は似たような内容にもかかわらず一本一本をそれぞれベタ褒めしており、満足そうな様子を見せていた。

 映画を見た後の余韻を味わっている頃、二人は警戒心や羞恥心などを感じさせない、べったりとした触り方でオレに接し、さらには身体を押し付けて来るのだ。特に胸元辺りに押し付けられることになるもので柔らかい感触を覚えると共に理性が崩壊しそうになったりと大変困ったものとなる。しかもそれだけに留まらず手を重ねてきて指先を絡められた時にはドキドキしてしまう。

 二人ともDカップくらい胸があり、胸はオレの肩に安易と乗っており、密着度が高いことから心臓の音を聞き取られてしまいそうであると思ったものの案外気にしていないらしく平然としたものなのでこちらも恥ずかしくなる必要が無いことが唯一の救いだろうか?それにしても本当に双子の仲の良さというのは異常とも言えるレベルであり、喧嘩の一つも無い。オレを取り合って修羅場になることは今のところ無かった。


「お兄さんとずっと一緒にいたいなあ〜」

「私も同じ気持ちですよ」


 二人の言葉を聞いて思わずドキッとしてしてしまいそうになるものの、何とか冷静さを保とうとする。

 

「はぁ……あなたと天音以外は虫ケラみたいなものです。あの時はっきり分かりました」

「お兄さん以外みんな見て見ぬふりをして、誰も助けてくれなかった」


 彼女たちの瞳は暗く澱んでいて、まっすぐにオレを見つめている。オレ以外何も映っていないように思える程濁っていた。


「喉、渇いていませんか」


 千鶴が重たい空気を切り裂くように両手を合わせ、飲み物を勧めてくれる。ちょうど飲みたいと願うタイミングであったためにありがたく頂戴することにした。

 飲み物はオレンジジュースだった。それも市販のものではなく、高級なオレンジをふんだんに使用したものであるようだ。甘酸っぱくて美味しい。そういえば最近飲んだ記憶が無かったためとても新鮮味を感じることが出来たと思う。ただ、あまりにも高級品すぎて口に含む度に申し訳なさを感じてしまっていたけどね。

 その後しばらく雑談をしたのちに風呂に入ることを勧められる。そして案内された先は大浴場となっていて一人で入るには広すぎるスペースを有していた。また、浴室内には大きな鏡が設置されており、自分の姿がはっきりと映し出されていた。

 髪を洗い終えると次は体を洗うことにして石鹸を手に取り泡立てていく。


「お兄さん、一緒に入ろ」

「あなたとお風呂、ふふっ」


 そこへあまりに白い肌を有した裸の双子が入って来てしまったことで慌てて目を瞑った後すぐに背中を向ける形で座ろうとするのだが何故か止めに入られてしまう。そのせいもあってか後ろを振り向かずにいるしかなくどうすればいいのか分からなくなってしまう始末である。当然のことながら女性経験なんて皆無なのだから。


「どうして目を合わせてくれないのです?」


 耳元で囁かれる甘い声によって背筋がくすぐられる。さらに彼女はそのまま腕を前に回してきたことにより柔らかさが直に伝わることになってしまう。そんな状況に耐えられず前屈みになって逃げようとするも腰に手を当てられて引き寄せられてしまったために逃げられない状態にされてしまった挙句、背後からは抱きしめられてしまっているという何が何なのかわからない状態に陥ってしまうことになった。

 彼女たちの豊満過ぎるバストは柔らかく、まるでマシュマロのように包み込んでくるような感覚に陥る。


「私たちのことを好きになれないですか?」


 千鶴の問いかけに対して否定の言葉を口にしようとした瞬間唇を奪われてしまう。それは濃厚かつ情熱的なものであって何度も口付けを交わしてくる。それが繰り返される中で抵抗する気力が薄れていき、ついには完全に奪われることになってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る