隣に引っ越してきた双子美少女姉妹がヤンデレすぎる

ヤンデレ好きさん

第1話 双子姉妹

 ある日、オレ、三山健太の住む家の隣にある豪邸に引っ越す二人の美少女がいた。

 挨拶に来た彼女たちの姿はどこか緊張した面持ちで、その表情には期待と不安が入り混じっているようにも見えた。


「あの……よろしくお願いします。この度隣に越してきた神崎千鶴と申します……なんて、言う必要はありませんでしたか?」


 そう言って頭を下げたのは神崎千鶴だった。艶のある長い銀髪をストレートに、背中まで垂らしている少女だ。彼女は見るからにお淑やかであり、所作の一つ一つが細かく、とにかく礼儀正しい。


「お兄さんのお隣だね! あたしは神崎天音! あたしのことも知ってるよね!」


 千鶴に瓜二つな妹の天音は姉とは対照的に快活であり、元気一杯といった感じの少女であった。腰ほどまであろうかという長い銀髪をツインテールにしている姿はまさに可愛らしいという言葉がよく似合うだろう。彼女たちは双子だけあって共通して胸が大きく、顔立ちもよく似ていた。

 違うところは性格や髪型くらい。同じ髪型になって黙ってしまえば見分けるのは至難の業だろう。


「は、はい、でもオレたちは結局あれ以来会ったことが無いじゃないですか」


 オレたちは数年前に初めて出会ったが、それっきりの関係であった。


『お姉ちゃん、怖いよぉ!』

『父以外の男性には初めて会いましたが、こんなに恐ろしい人ばかりなのですね……』


『なんだこの娘たち、すっげえ美人じゃん』

『君たち、今から俺たちと遊びに行くんだけど一緒にどう?』

『やっべ、しかも瓜二つじゃん。まさか双子? 双子で美少女とかマジモンのレアを掘り当てた気分だよ』


 彼女たちはいわゆる箱入り娘であり、世間から隔絶された世界で過ごしてきた。魔が差したのか、使用人たちの目を盗んで屋敷から出て街中に来て未知の雰囲気を堪能していたのも束の間、不良たちに絡まれてしまったのだ。

 彼らは十人くらいの大人数でか弱い二人の少女を取り囲んでおり、恐怖によって身動きが取れなくなっていた少女たちを助けに入ったのが当時中学三年生になったばかりの頃のオレだったというわけなのだが……。

 ちなみにその時はまだ普通の学生だったので喧嘩の経験などあるはずもなく、むしろ怖気づいて何もできず、二人の手を取って逃げてしまったというのが実情だったが、結果的に二人を助けたことで気に入られてしまい、今この展開に繋がったのだと思われる。


「もうお兄さん、どうして敬語なの? らしくないよ」

「はい、健太さんには似合わない口調です」

「だからさ、もっと普通に話してよね」


 彼女たちはオレと親密になりたいようであり、二人は積極的に話しかけてくるようになったのだが、やはりまだぎこちなさがあったようだ。それにしても普段からあまり敬語は使わない方なので違和感を持たれていたようである。

 とはいえ初対面に近い相手にいきなり砕けた話し方をするのは中々難しいものであると思う。まして相手はこの国を代表する財閥の娘でもある。粗相をしでかしたらと思うとやばいと身構えてしまったが、他ならぬ彼女たちがそんな扱いを望んでいないようだ。


「あ、ああ……分かったよ」


 オレは彼女たちの意見を受け入れ、それからはいつも通りに話すことにした。

 しかしそれでも距離感がまだ掴めず少し戸惑っている様子を見せていると、天音がジト目をしながらこちらを見つめていることに気づいた。何かまずかっただろうかと思っているとその視線は徐々に下の方へと移動していき、そしてあるものを見た瞬間にか頬がほんのり赤くなる。


「ふふ……」


 意味深に笑っている天音。釣られてか千鶴もニヤニヤ笑っている。ちょっと怖かったけど、オレには彼女たちがなんで笑っているのか分からず、ただただ困惑するしかなかった。


「あと、贈り物はここで開けてみてください」


 間髪入れずにそう言われ、断る意味も無いオレは彼女たちに従うがままに贈り物の包みを開ける。


「これは……」


 中身は不揃いなクッキーであり、どう見ても彼女たちの手作りだ。見た目はかなり不格好であったがとても美味しそうな匂いを放っていた。食べてみると味はとてもよく、思わず笑顔になってしまうほどだった。


「ど、どうでしょうか」

「お兄さん、どう?」


 自信無さ気に訊ねる千鶴に対して、オレは無言のまま首肯することで答える。すると彼女達はパァっと明るい顔を覗かせ、嬉しさを隠しきれないと言ったような態度を見せた。

 ただそれだけなのに、何故かドキッとした自分がいたことに気づいてしまった。その理由はよく分からないけれど、心臓の音が激しく高鳴っていたことは間違いなかった。

 これが俗にいう恋という奴なのかと思ってしまう程に心拍数が上がってしまい、自分で自分を制御できない感覚に陥ってしまう。

 今まで経験したことの無い不思議な感情を抱いて動揺してしまう自分に落ち着けと言い聞かせながらどうにか平静を保ちつつ返事をすることに成功する。

 その後、彼女たちは家に上がり込んでは即座にオレの部屋に入ってきた。


「学校に行くまでの間、時間がありますし、私達とお喋りしてくれませんか?」

「うん! というよりそれが目的だし!」


 彼女たちは不思議とオレの好みを把握しており、オレの好きな話題を振ってきた。趣味嗜好が似ているようで会話は非常に弾んだ。時折変なことを聞いてくることもあったがそれも愛らしさを感じさせてくれるものであったため嫌ではなかった。

 学校ではあまり他の女子と話したことが無いこともあってかなり新鮮な気持ちを抱けた。


「なんでオレの好きなアニメのことを知っているんだ」

「そりゃ、お兄さんの好きなものは把握しているもの」

「はい。私たちは何でも知っているんですよ」


 不自然な程に弾む会話。本当になんでも知ってるみたいだった。オレが好きなものは当然とばかりに把握していて、その知識量は計り知れないものを感じる。もしや盗聴器なんかを仕掛けられているんじゃないだろうなと思いながらも疑う理由は無いためにそのまま受け入れることにする。

 まるでハーレムのような状況であるにも関わらず全然悪い気がしないどころか寧ろ心地良いと感じてしまっていることに驚いている。一体何があったというのだろう。


「そろそろ学校に向かう時間ですね」


 彼女たちは制服を着ている。その制服はオレの通う学校が指定しているものとそっくりそのまま、というか全く同じである。


「今日来る転校生ってまさか……」




「今日は転校生を紹介するぞ」


 舞台は学校に移り、先生が廊下で待機している転校生に招集をかける。扉が開くと、今朝見たばかりの美少女が二人、悠然とした佇まいで入室してきた。間違いなくあの双子の姉妹であった。


「神崎千鶴といいます」

「神崎天音だよーっ」


 改めて見ると双子だけあり、性格は真逆なものの顔立ちは全く一緒である。彼女たちは各々の名前を黒板に記す形で簡単に自己紹介をすると、他のことは語らずに自分達に用意された席へと向かった。その際、チラリとこちらを見てウインクをしていたように見えたが多分錯覚だと思う。きっとそうだと信じたいところではあるが。

 ホームルームが終わると早速質問攻めに遭うことになった彼女らだが、淡々と答えるだけで感情は篭っていないように思えた。

 一見フレンドリーだけど、裏ではみんなを見下しているようなそんな気さえしてくる。特にオレ以外の男子に関してこの傾向は強く見られていていた。

 授業が始まると流石は名家の令嬢といったところで二人して非常に優秀な態度で臨んでいる一方どこか退屈そうであることもまた事実であった。


「健太くん、お昼一緒にどうかな」

「お兄さんと一緒に食べたいな」


 昼休みになると、すぐさま千鶴たちが弁当を持ってオレの元へやってきた。

 彼女たちはオレに対しては全てを曝け出しているようであり、完全に信頼している感じがひしひしと伝わるほどだ。


「いいぜ。どこへ行く?」

「お外で食べよう?」


 天気も良いことだから中庭でも行こうという話になり、三人揃って外へ出たのだが……。


「えへへ〜♪ ここなら誰にも邪魔されずゆっくり出来ますね。私たちだけの空間で……♡」

「うん、あぁんもう我慢出来ないよぉ」


 二人はそれぞれ左右から抱きついてきて密着度を高めてくる。胸を押し当てるようにしているため意識しないようにしてもどうしてもそこに目が行ってしまうわけであって……。

 彼女たちは明らかにオレに向けて好意を抱いている。童貞の妄想だと思いたいが、こうも露骨だと現実逃避など到底出来るはずもなく受け入れざるを得ない。


「おっぱい大きいでしょう? ほら触っても構いませんよ」

「こっちだって負けないもんねぇ〜」


 屋上にて両側から柔らかなおっぱいで挟み込まれてしまい、天国にいるオレ。彼女たちはおそらく女性にとって恥ずかしいはずのことを、むしろ自慢げに見せつけてきているのだ。こんなにも大胆なことが出来るなんて信じられなかったが同時にドキドキさせられていた。

 このままではまずいと本能的に悟ったのか無意識のうちに逃げようとしていたが、彼女たちが二人がかりで引き戻しに来た。


「私たち、貴方のためにお弁当を作ってきたのですよ」

「だから逃さないよ」


 そう言うなり彼女たちは自作のお弁当を差し出しては、箸を使って口元まで運んでくれた。まるで恋人関係みたいになっている双子姉妹との近過ぎる距離感に、どうすればいいか分からなくなると同時に頭が混乱する。

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