隅っこガールと始まりの片思い

 くじ引きで負けて図書委員になった一年生。

 早く家に帰りたかったのに帰れなくてイライラして声をかけてきた今私の好きな相手…永瀬くんと出会ったきっかけ。


 今は前向きに本読み放題じゃんって思って楽しんでいるけど、一年生の時の私は本当に酷かった。


「あの…」

「なんですか!」


 強制的になった図書委員の仕事が楽しいわけがない。

 私は声をかけてきた彼に八つ当たりのような形で返答した。


「や、やっぱり良いです」

「ご要件は?」

「いや大丈夫です」

「早く言ってくださいすみません私イライラしているだけなのでお気になさらず」

「結構気になりますけど」


 心配している様子で私を見てくるからイライラしてるのがアホらしくなって落ち着いてきた。


「探し物ですか?本の貸出の手続きですか?それとも返却ですか?」

「探し物であの…俺読書したことなくて俺でも読める本ってありますか?」


 私は一瞬目をぱちくりと瞬きさせて目の前の男子を見る。

 聞いた事ないんだけどおすすめの本ありますかってそれも読書初心者でも読みやすいって。


「分かりました…少し待っててくださいね」


 私は立ち上がって一番窓際の本棚に向かう。

 短編集みたいのなら読めるかなと思って数冊取り出した一冊だけ彼が借りるとしても私がこれ読むから多めに持っていっても構わない。

 ここの本棚にこの本がなくても誰もなんとも思わないだろうし、だってここの本棚にある本殆どの人が借りないんだから。


「この中から好きなのを選んでください」

「えっと…これは?」

「短編集ですこれならすぐ読める慣れてない人が長い小説読むの大変だと思うのでこれで慣らしてください」

「ありがとうございます!」

「どれを借りるか選んでください」

「全部は…ダメですよね」

「読み終わってからにした方がいいですよ」


 私がそういうと考える仕草をして彼は一冊の本を手に取る。

 あ、それ私の好きなやつだ。


「いいセンスしてますね、それすごく面白いんですよ」

「図書委員の君が言うなら本当だろうし俺読むの楽しみだよ」


 私はその彼の笑顔に一目惚れをした。

 ここから私の永遠に叶うことの無い叶えるつもりがない片思いが始まった。


 彼は月に数回図書室に来る、それも私が担当している曜日にだ。

 律儀に感想を言っていつも私におすすめの本ありますか?と聞いてくる。

 だからいつも私はカウンターから出て一、二冊彼に読んで欲しいなと思う本を準備している。


 来ない人は寂しいと思うほどに私の片思いは知らないうちに大きくなっていった。


 ただ一つ私は大きなミスをしていた。

 彼の名前を知らないのだ。

 名前を聞こうと思った日もあったが、コミュニケーションが苦手な私にはできない。


 そして気がつけば彼は図書室に来なくなった。


 二年生になる私は相変わらず図書委員としてカウンターで仕事があるまで本を読んでいる。


 私は自分の同級生に片思いの相手がいることを知った。

 クラスの女子が体育の時に隣のコートでかっこよくバスケでスリーポイントシュートをキメている彼に黄色い声を上げていた。

 永瀬遊馬というらしい。

 体育が合同で良かったと初めて思った。


 名前を知ったからって永瀬くんと話すわけではないし別に知ったところで私に突然勇気が湧いてきて告白することも無い。


 そして今高校三年生神様はイタズラが好きなのか同じクラスにしてきた。

 クラスメイトになっても私は彼をただ遠目から眺めるだけ。

 誰かと彼が結ばれよても泣かない自信があった。


 行動してない私が悪いんだから。


「ねぇ司書子ちゃん、遊馬にちゃんと伝えた方がいいよ」


 保健室で一限目だけ休んでモヤモヤする頭のまま私は何とか残りの三時間を乗り切りお昼休みになった私に、星野さんはお昼一緒に食べようと誘ってきて食べている途端そう言った。


「どうしてですか?」

「言わないと後悔しないそういうのって」

「する…らしいですね」

「らしいってそんな人から聞いたみたいに言って」

「はい本ですね」

「本じゃなくて私が聞いてるのは司書子ちゃんの気持ちだよ!」


 んもう!と頬を膨らませて星野さんは私を見る。

 私はフォークでリンゴを刺して星野さんに食べますかと質問すると不服そうな顔をしながらだべる!と言って食べた。


「司書子ちゃんはね…このリンゴうま…今の現状に満足しようとしてるって思うんだよね…あ、リンゴと私のぶとうと交換しない?」

「怖くないですか?少し仲のいいクラスメイトから気まずい関係になるの…どうぞ 」

「ありがと…気まずいって言っても仕方ないよ、もし遊馬が誰かに取られたらどうするの」


 どうすると言われても私は彼のクラスメイトなのだからどうしようもない。

 でも少しだけ胸が痛むのはどうしてだろう?


「そうですねぇ、少しは悲しいかも?」

「そうそれ!それなんだよ!それを解消するためにも伝えた方がいいんだよ!好きって感情をしまい込むのもったいないと思うから」






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