隅っこガールは知りたくなったから変わり始める

 ワタシスミッコニンゲンドクショダイスキ。


「ねぇ司書子ちゃん!何呼んでるの?」

「あ、えっと恋愛小説…です」

「漫画とかは読まないの?」

「読んだこと…ないですね」


 生まれてこの方漫画は読んだことがない。

 物心ついた時から私は活字の虫になっていた。

 皆が外で遊ぶ中私は暇があれば読書をしていた。


 そのおかげで私の文系科目の成績はすごくいい…その代償なのか理系科目はてんでダメだし運動もできない。

 それと会話が苦手になった。


 本を読むことが私にとっての生きがいになっていた。

 本の世界は優しいものばかりで現実と比べ物にならないくらい素敵なものだった。

 だからこそそれとのギャップで人が怖くなった。


「じゃあ私の持ってる漫画貸すよ、少女漫画で良い?」

「え、いいんですか?」

「いいも何も私が読んで欲しいと思ってるから貸すんだよー」


 変わった女の子だ。

 読んで欲しいから貸すってなんとも心の広い人だ。

 私と友達になりたいと言った時も思ったことだが、本当に変わっている子だと思う。


「ねぇ司書子ちゃん」

「はい」

「もしかして…私のこと怖い?」

「ど、どうしてそう思うんですか」


 なるべく平静を装って私は返した。

 頑張ったつもりだが、ダメだった。


「話してる時に目があんまり合わないから?目合わせようとしたら避けられてる気がして」


 確かに目を合わせるのが怖くて若干下を見ていたのは事実だがバレることある?

 私これで結構上手いことやってきたんだけど。

 嫌な思いをさせていたのなら申し訳ない。


「…すみません」


 私が深く頭を下げると、星野さんは慌てていた。


「頭上げて!謝らなくてもいいから!」

「私、あの日図書室で貴方たちに注意なんてしなければ良かったって思ってたんです。なんなら次の日いじめられるとか思ってたくらいですし」

「そ、そんなことしないよ?!」

「だからこそ私は謝らないといけないんです星野さんたちに失礼なことを思っていたから…本当にすみませんでした」


 私は先程よりも深く頭を下げる。


「こんな私と星野さんが友達になるなんていけないことですこんな…ひん曲がった心を持っている私と友達だなんて」

「そんなことないもん!」

「そんなことあるんですが…」

「ないったらない!この話はおしまい!私は司書子ちゃんとズッ友なの!」

「なんかやけくそになってませんか?」


 うるさいうるさい!と言って星野さんは私の左手を包み込むようにして握った。


「なってないやい!」

「なってますね」

「なってないもん!」

「いやな「ってません」

「…」


 一生このやり取りしそうになる気がしてすぐやめた。


「とにかく!私は一生司書子ちゃんと友達なんです!」

「えーっと…」


 どうしたらいいか分からず私は次の言葉を考える。


「諦めた方がいいよこの人決めたことは変わらないから」


 そんな私たちの様子を楽しそうに目を細めて眺めながら永瀬くんは言った。


「いいこと言うじゃん遊馬ー」

「うわ…なにその言い方、田辺さんにドン引きされてしまえ」

「そういうの言ったらいけないと思いまーす!司書子ちゃんと私はズッ友だからそんなことで友情崩壊しませんー!」


 べーっと舌を出して星野さんは永瀬くんに言う。

 子供みたいなやり取りを見ていて私は我慢ができず吹き出してしまった。


 私のその様子を見て二人は固まってしまったことに気がついたときにはもう私は大爆笑していたので手遅れだった。


「ご、ごめんなさい!馬鹿にしたつもりはなくて!」

「いや…良いんだけどさ田辺さんってそんな風に笑うんだね」

「変でしたかね…不快な思いをさせたならすみません」

「遊馬最低」

「違うって!ただ可愛いなって思っただけで!」


 か、かわ…いい?!

 好きな人にそう言われると嬉しくて頬が緩んでしまうのと同時に恥ずかしくて顔が熱くなる。


「遊馬にしては見る目あるじゃん、司書子ちゃんいいと思うよ、可愛いし今みたいにギャップ萌えの宝庫だし」

「お前は田辺さんのなんなんだよ…?」

「大親友さっ」


 方目をつぶって可愛らしいポーズをして星野さんは言った。

 可愛い女の子は何をしても可愛く見えて仕方がない。


「田辺さん嫌だったら言いなよ」

「大丈夫です」


 この人たちと話しているうちに興味が湧いてきた。

 私は本以外の世界に興味がなかったでも彼らのことを見ていたら外側がどんなものなのか人と関わることがどういうことなのか知りたくなってしまったのだから。

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