VI 約束
49 ひと段落して
「さて」
竜が去り、宰相も拘束され場が落ち着いたところで、謎の男性がフェリルに向かう。
「フェリルはどうしてこんなところにいるのかな?」
声色こそ穏やかなものだったが、その口調は明らかに怒気を含んでいた。
フェリルはひくついた笑みをつくる。いつもの余裕は感じられない。
「お久しゅうございますわ、妖精王様。お変わりないようで」
「森はどうした? お前には代理を任せていたはずだが?」
「それは……リネットとエリーが担ってくれていますわ」
言い訳すらできないフェリルに、妖精王と呼ばれた男性はため息をつく。
「これでは、言いつけを守るどうこうの話ではなかったな」
妖精王の目がラナの方へと向く。目があったラナは、小さくお辞儀をした。
「数時間ぶりだな」
「妖精王様だったのですね」
話題が変わったことをこれ幸いと思ったのか、単に驚いたのかはわからないが、フェリルが大きな目を見開き、ラナと妖精王を見比べる。
「二人は顔見知りだったのですか?」
「あぁ、まぁ、さっきな」
妖精王は横目でフェリルを見た。その目は何やら物言いたげに見えたが——フェリルも妖精王の意図を読み取ることはできたが——そこには触れずにいた。
「妖精王様こそ、どうしてこちらに?」
「……王都に不穏な空気が流れていたのでな。様子を伺っていたんだよ。そしたら彼女がやってきて、捕われているというから、どうしたものかと観察していたというわけだ」
誰よりも早く雲行きが怪しいことを察知していた妖精王は、王都に入りこみ、調査を兼ねて様子を伺っていたとのことだった。いざというときには尽力しようとは考えていたようだが、それがあのタイミングだったというわけだ。
そんな話をしていると、ひと段落ついたのか、ルイが輪に入ってくる。
「森の妖精王。初めてお目にかかります、私は……」
「この国の王太子殿下であろう? 堅苦しい挨拶などせずとも知っている」
横柄な物言いにルイは嫌な顔一つせず、むしろ珍しいものでも見るかのように表情を緩ませた。
反対に妖精王は眉間にシワを寄せる。
「宰相の思惑はお主も気づいていたのだろう? なぜ、国王に告げなかった?」
「お恥ずかしながら、陛下……我が父は宰相に絶対の信頼を預けておりました。私が宰相について何かを言ったとしても、聞く耳持たなかったでしょう」
「それは、怠惰というものでは? 何かを言う前から結果がわかっていると? お主は頭がいいのかもしれないが、少々傲慢がすぎるように思うぞ」
「耳が痛いです」
ルイは眉を下げ、気まずそうに笑った。
周囲の者がチラチラと妖精王たちの様子を伺っているが、妖精王は表情を変えることなく言葉を続ける。
「国王陛下の対応はどのように考えている?」
「然るべき処置を、と。このような結果になってしまった手前、私どもが何か申し上げずとも、ご自分の処遇はご自分で判断されるとは思いますが……と、これも思い上がりでしょうか?」
苦笑いを浮かべるルイに、妖精王は何も言わなかった。
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