38 こういう時に邪魔が入るのはお約束です
森を出て数日が経った。
地道に進んだ甲斐もあり、人里が近くなったのか、人と遭遇する機会も増えた。そのことに満足したのか、もしくはザックのおやつ効果かはわからないが、移動速度についてフェリルが不満を漏らすことはなくなった。
それでも何かを話していないと落ち着かないのか、フェリルは口を閉じているときの方が少ない。
「ラナは竜に襲われたことはあるかしら?」
「竜? ……ないと思うけど、どうしてそんなこと聞くんだ?」
「ラナが竜には嫌われてるって言ってたから」
すぐには思い当たることがなく、テオは記憶をたどるように黙り込む。
考えることに集中しているため、必然的に歩みが遅くなる。完全に足を止めないのは、無意識にフェリルのことを気にしているからだろう。文句を言われないための自己防衛とも言える。
脳内の探索を始めたテオは、すぐに思い当たる節にぶつかった。けれど、はっきりとはしない。まるで記憶の中にモヤがかかっているようだった。それは遠い記憶のために鮮明に思い出せないためか、その理由はわからない。
ところどころに赤が見える。赤と言っても鮮やかなものではなく、黒みがかっていると言った方が正しい。それが血であると認識できたのは、少し時間が経ってからだった。
竜に襲われたことはないと言ったが、それは自分の勘違いだったのだろうかと、テオはさらに記憶の奥の方へと探索を進める。
『なぜこんなところに?』
突然声がした。テオの脳内に低く響くような唸り声だった。
『ここは
怒気のこもった声で威嚇され、ラナを抱えたままテオはその場を立ち去った。
フェリルたちの森にたどり着くまでに、竜の巣に紛れ込んでしまったのだ。そのとき、ラナに意識はなかったと思っていたのだが、竜の声を聞いていたのだろうか。
テオはそう結論づけると、納得したように頷いた。
「あの時か……」
「何? やっぱり襲われてるの?」
「いや、それはない。あと、竜に嫌われてるってのもラナの勘違いだよ」
「勘違い? それってどういう……」
人の気配がして、フェリルの言葉は最後まで行きつかなかった。
複数人いると見られる。気配を隠そうとはしていないことから、反対に警戒心が煽られる。
テオたちの目の前にぞろぞろと——とは言っても三人ほど——黒い軍服を着た騎士が立ちはだかる。
そのうちの一人が一歩前に出ると、「テオルーク・アーバスノット殿ですね?」とテオに向かって訊ねた。
「その軍服……二番隊か。何の用だ。黒騎士の差金か?」
「我々は王太子殿下の命にて動いております。あなたを城までお連れするように、と」
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