V 災厄

39 異変

 状況が変わる時に、穏やかに時間が流れるということはほとんどない。

 流れ星が瞬く間に消え去ってしまうように、それはあっという間にやってくる。


 前兆のようなものはなかった。

 もともと薄暗かった空間がさらに暗さを増す。光を放つ謎の男性が消えたわけではない。となれば、外が暗くなったということなのだろう。

 夜が訪れたというだけでは、ここ、地下に影響は来ないだろう。何より突然、暗闇が訪れたように思えた。

 外の様子はわからない。見る術はない。それでも、外から流れ込んでくる気配は感じ取ることができた。ネズミたちも、異様な空気にざわついている。


『何か来た』

『大きな何か』

『怒ってる』

『大きな何かが怒ってる』


「外の様子はわかりますか?」


『わからない』

『わからない』


 何一つ状況が把握できない現状に、戸惑いがこの空間を支配する。

 ざわつく中、舌打ちが聞こえた。ただ一人、落ち着き払っている謎の男が落としたものだ。


「何と愚かな……」


 そう呟くや否や、突然光が消えた。男性がいなくなったのだとラナが理解する前に、慌ただしい足音が複数近づいてくる。暗くなった空間に、まばゆいほどの明かりが灯された。


「ラナ・セルラノ、外へ」


 鉄格子の鍵が開けられ、重たい金属が擦れる音を出しながら、ラナと外側の空間を隔てていたものがなくなる。

 突然現れた白い軍服の騎士は、説明もなく、外に出るよう促す。有無を言わせぬ雰囲気を漂わせていた。


 目隠しもないまま階段を上がり、促されるまま外に出る。

 久しぶりに外に出たというのに、明るい空を見ることはできなかった。真っ黒な雲に覆われた空は、朝なのか夜なのか時間を示すことはない。

 ネズミたちの話の通り、ラナのいる場所は王城のようだった。今、ラナの目の前には大きな城がそびえ立っている。


 地下から出されたラナは、騎士たちの案内のもと再び城内へと入っていく。人気のない通路を歩き、また建物の外に出る。

 黙々と進む騎士たちの歩く速度は速い。背後に配置している騎士が、鈍足なラナを急かすように迫り来る。ラナは精一杯速く歩いた。それはほとんど走っているのと変わりなかった。

 途中、騎士の一人がラナに気遣いの声をかけるが、ラナは自分で歩けると返答した。

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