IV 思惑

24 戻った先に

 アルフレッドはタシャルルを走らせていた。

 ただならぬあるじを察したのか、戻ってきた時よりもさらに速く駆けているようだった。休む時間はさほどなかったにもかかわらず、タシャルルの足取りは軽い。アルフレッドがタシャルルのもとにたどり着いた時にはすでに起き上がり、アルフレッドを待っていたところから見ても、アルフレッドへの忠誠心を感じる。


 城に戻った時と同じ順路をたどった。

 そこに向かうのが正しいのかすらわからない。が、アルフレッドには根拠のない自信があった。その自信がへし折られることを望んでいたわけだが。

 アルフレッドは、ただ真っ直ぐにそこまでの道のりを、タシャルルとともに走っていた。


 幸か不幸か、森にたどり着くまで誰にも遭遇しなかった。時間が時間だということもあるが、人っ子ひとり出会うことはなかった。


 森に近づくにつれ、焼けた匂いが鼻をかすめた。

 アルフレッドは嫌な予感に胸をざわつかせたが、森に火の気はなく、胸を撫でおろす。が、周辺には焦げた跡があり、何かあったのだと悟る。

 急いで無事を確認しなければ、と森に踏み込んだ矢先、アルフレッドの目にはフェリルたちの姿が映った。


「フェリル様!」


 タシャルルから飛び降り、そのままフェリルたちのもとへと駆ける。

 フェリルの目がアルフレッドを見据えた。その瞳が濡れているような気がしたが、アルフレッドは気づいてないフリをした。


「何があったのです? ラナは?!」


「あなたもご存知のはずでは?」


 フェリルの声は冷たかった。アルフレッドを見下ろす目も、これまでにないほど冷ややかで、突き放すようなものだった。

 それでも、気丈に振る舞おうとしていることが見て取れた。声もほんの少し震えているように感じる。

 言葉の意図がわからず、アルフレッドは頭を捻る。森を見渡してみるが、やはりラナの姿はない。妖精たちに混ざって、見知らぬ男性が一人いることを気にしつつも、アルフレッドは視線をフェリルの方に戻した。


「連れて行かれたわ」


「連れて行かれた……? 一体誰に? テオ殿は? テオ殿はどうしたのです!」


「目の前にいるじゃない」


 顎でさす。刺々しい言葉に首を傾げながらも、アルフレッドはフェリルが指し示す方向へと目を向けた。

 フェリルが指した先には、アルフレッドよりも少し背の高い男性が立っていた。先ほど、アルフレッドが認識した見知らぬ男性だ。

 白髪はくはつの中にところどころ黒が混じった髪は、月明かりに輝く。薄いグレーの瞳は、まつ毛の影が落ちて、ほぼ黒にしか見えない。

 アルフレッドはテオを探していた。フェリルが示した方向には、その見知らぬ男性しかおらず、テオの姿はない。

 フェリルに視線を戻すが、フェリルはそれ以上何も言わなかった。


「まさか……あなたがテオ殿なのか……?」


 男性は何も答えなかった。

 が、俯くその表情が答えを物語っているようで。


「どういうことだ? テオ殿は人間にされてしまったのか……?」


 フェリルがガクッと肩を落とす。


「アルって意外と天然なのね……」


「天然」

「アル天然」


「いや、そうじゃなくて。というか、今はそれどころじゃないでしょ」


 先に現実に戻ったフェリルが呆れたようにため息をつく。

 アルフレッドは何が何だかわからないといった様子で、目を丸くしていた。


「ラナは誰に連れて行かれたのです?」


「あなたのお仲間じゃなくって?」


「仲間……?」


 その言葉がアルフレッドを強く突いた。

 刹那、考えていた最悪の状況に陥っていることを察し、立ちくらみしそうになる。

 テオを責めたい気持ちも全くなかったわけではない。けれど、自分にも非がある現状に何も言えずにいた。


「私は城に戻ります。ラナは必ず助ける」


 アルフレッドはそういうや否や、タシャルルに乗ると、森をあとにした。

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