09 ザックの手作りおやつ
ザックの家はこじんまりとしていた。大男が住むには窮屈なのでは、と思うほど。が、その実、不便さを感じていないかのように、ザックは家の中を動き回っていた。
案内された部屋には長方形のテーブルが置かれていた。席が決まっているのか、迷うことなくラナが腰をかける。次いで、妖精たちもテーブルの上にちょこんと座った。テオはラナが座った椅子に寄り添うように丸くなる。
アルフレッドもザックに勧められるままに、ラナの斜め向かいの席に腰かけた。
奥へと引っ込んだザックが、両手に何かを携えて戻ってきた。
目の前にお目当てのものが置かれるや否や、妖精たちは歓喜の声を上げる。
心なしか、ラナの目も輝いているように見えた。そういうところは、同じように楽しみを感じられるのだなと、アルフレッドは無自覚に安堵のため息をついていた。
「おやつ!」
「おやつ!」
妖精たちがおやつを頬張る。ザックが用意してくれたお菓子は何種類かあり、その中でもまず妖精たちはクッキーに手を伸ばしていた。
一口にそんなに食べられるのかと思うほど、大きな口を開ける。頬袋でもあるかのように、もしゃもしゃと頬を膨らませて食べている姿は、何とも愛らしい。
ラナはというと、妖精たちとは正反対に、ちびちびとおやつを食べていた。食事をするのもスローペースらしい。案の定というか、ここでも期待を裏切らないというか。
その下で、テオは眠っているのか、おやつパーティに混ざることはなかった。
「兄ちゃん、どうかしたのか?」
「え、あ、いえ。彼は一緒に食事をしないのかと思いまして」
「テオ食べない」
「テオ、ご飯しない。食べてるとこ、見たことない」
1個目のおやつを食べ終えたのか、リネットとエリーが答えた。
どういう意味かと問う前に、二人は2個目のおやつに手を伸ばす。アルフレッドよりはおやつが優先だ。それは致し方ない。
「しばらく、
「えぇ、その予定です」
さっさと出ていけ、そんなことを言われるものだと思っていた。
が、続くザックの言葉に、アルフレッドは首を傾げる。
「それなら、もう少しパン多めに焼いときゃよかったな」
「パン?」
「ラナのご飯だよ。森の中で調達できるものなんて限られるからな。たまにここに来た時に持たせるんだよ。兄ちゃんは食事のことはどうするつもりだったんだ?」
「あまり考えていませんでした。数日程度なら大丈夫かと……」
(数日程度でここを出られればいいが)
アルフレッドの甘い考えを見透かしたように、ザックが声を上げる。
「そんなんじゃ、いざって時に動けなくなるぞ。ちょっと、待ってろ。追加で何か作ってくるから」
「ザック、これおかわりはあるのかしら?」
ついでと言わんばかりにフェリルが口を挟む。
気に入ったものがあったのか、「まだたくさんあるぞ」と返ってきた言葉に、満面の笑みを浮かべていた。
ザックは追加のおやつを妖精たちの前に置いてから、調理場へと向かった。
何でも、妖精たちが今食べているお菓子も、ザックの手作りだという。人は見た目で判断してはいけないが、何とも……
ラナの食事については疑問に思うところがあった。何を食べて生活しているのだろうかと。森の中にある果物にも限りはあるだろうし、それだけでは栄養も十分ではない。生き物は……おそらくラナは食べないだろうし。
ザックがたまに支援物資を配布しているということなので、納得した。安心もしていた。
ザックが戻ってきた。焼き上がるまで待てとのことだ。
あっという間に下準備を終わらせて戻ってきたことに、アルフレッドは驚いていた。アルフレッドは料理をしたことはないが、そんなに早くできるものなのだろうかと首を捻る。
「ラナ、うまいか?」
ラナは静かに頷く。
ザックは顔をくしゃっとさせて笑った。
二人の様子を眺めていたアルフレッドは、疑問が再燃するのを感じた。
「ザック殿は彼女と付き合いは長いのですか?」
「ん? あぁ、ラナがここに来てからの付き合いになるな。それがどうかしたのか?」
「いえ……彼女に親しい間柄の人間がいたことに、正直驚いていまして」
「ラナ、ザック、クマ」
リネットが相変わらず、カタコトで話す。
どういう意味かわからず、無意識にエリーの方へと視線を向けていた。
「ラナ、初めてザック見た時、クマと間違えたの」
「がははは、そんなこともあったな」
ザックは大きな口を開けて笑っていた。ラナはというと、相変わらずの無表情だ。
ラナの気持ちもわからないでもなかった。知らずに森の中でザックに遭遇していたら、クマと見間違える可能性は高いと思った。だからこそ、笑ってもいいものだろうかと戸惑う。
いつ、ラナがザックを人間だと認識したのかはわからないが、懐かれてしまい、そのまま今のような関係に発展したとのことだった。
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