08 ザックに会いに行こう!

 目的の場所へと向かう間、フェリルはアルフレッドの肩の上に乗っていた。

 リネットとエリーが羽根を羽ばたかせ、自分たちで移動しているところに、フェリルは同じものを持っているにもかかわらず、面倒くさいと言わんばかりに、アルフレッドの肩の上で足を組んでいる。

 ラナもまた、テオの背に乗せられていた。おかげで、ほとんどいつもと変わらないペースで歩けていた。


「フェリル様が、この森を統べられていらっしゃるのですか?」


「えぇ、そうよ。あたし、森の妖精の女王なの」


 胸を張り、顎をくいっと上げて、ドヤ顔を決める。

 アルフレッドが言葉を返すより、リネットとエリーが口を開く方が早かった。


「代理」

「フェリル、妖精王代理。いや、むしろ補佐」


 あっさりばらされたことに、フェリルは怒るでもなく、聞こえていないフリをしていた。

 それはそれで、新しいかわし方だと思う。




 驚くべきことに、ザックは人間とのことだった。

 何を驚くことがあるのか、と思われるかもしれない。だが、思い出してほしい。ザックという人に会いに行こうとしているのは、あのラナなのだ。人との関わりを絶ち、動物たちと生活している、あのラナなのだ。


(いや、人との関わりを絶っているかどうかは勝手な想像で、その域を超えないのだが)


 アルフレッドのように会いに来たわけではなく、自らの足で赴くというではないか。

 アルフレッドは説明を求めたかったが、ラナはまだ半分寝ているような目をしていたし、テオには聞けない。リネットとエリーはザックの『おやつ』とやらに心を奪われ、フェリルは先ほどのことに気まずさを感じているのか、アルフレッドの相手をしてくれそうにもない。

 誰にも聞くことができないアルフレッドは、なされるがままにきたる時を待つことを決めた。


 ちなみに、タシャルルは留守番だ。湖の近くに留めてきたので、心配はないだろう。


 ザックの家は森の麓にあるとのことだった。アルフレッドが入り口として森の中に入り込んだ地点から、ちょうど真反対の場所にポツンと一軒、家が建っているとのこと。


 家が視界に入るのと同時に、何やら大きなものがアルフレッドの目に映った。

 アルフレッドがその正体を知るよりも前に、リネットとエリーが前に飛び出す。フェリルも続きたい気持ちがあるのか、アルフレッドの肩の上でそわそわしていた。


「ザック」

「ザック、来たよー!」


 大きな山のようなものが動く。

 振り向いたその先には、満面の笑みを浮かべた顔があった。山のようなものは人だったようだ。

 恰幅のいい男性で、遠目にも背丈もかなり高いことがわかる。アルフレッドでさえ、見上げなければならないだろう。

 ゴツゴツとした手を振り、ラナたちを迎える。

 堀の深い顔に浮かべられた笑顔は柔らかく、それだけで人の良さが窺えた。


「よく来たなぁ。リネットもエリーも。ラナも、テオもお疲れさん」


「ザックさん、こんにちは」


「こんにちは」

「ザック、こんにちは」


「はい、こんにちは」


 皆、愛想よく挨拶を交わす。

 そこに混じって、『あたしもいるわ。来てあげたわよ』とフェリルが、相変わらずの態度を取っていた。アルフレッドの肩の上に乗ったまま。

 誰が相手でも『フェリル様』はご健在ということか。


「おぉ、フェリルも来てくれたのか! ……って、そこのイケメンはどちらさんだ?」


「アルよ。あたしが連れてきたの」


 正確な答えにはなっていないが、なぜか自信満々に胸を張る。

 ザックはフェリルの扱いに慣れているのか、「おぉ、偉いなぁ」と頭を撫でていた。フェリルの頭を撫でるのに、ザックの人差し指だけで事足りた。


 ご満悦のフェリルから目線だけを外し、ザックがアルフレッドの方を見たので。アルフレッドは反射的に姿勢を正す。


「アルフレッド・デラクールと申します。数日前から、こちらにお邪魔しております」


「俺はザックだ。よろしくな」


 ザックは目線を動かし、アルフレッドを頭の先から足先まで見つめた。


「兄ちゃん、騎士かなんかか?」


「え、えぇ。騎士団に所属しております」


 声に威圧感が含まれていることに、少しドギマギした。

 けれど、ザックはそれ以上追求することはなく、「そうかそうか」と笑っていた。


「ザック、おやつ!」

「フェリルも楽しみにしてたの」


「ちょ、バラすんじゃないわよ!」


 フェリルの顔が、服と同じ色に変わる。

 やっぱり楽しみにしていたんだな、と温かい眼差しをフェリルに向けていた。

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