第2話

 超絶イケメン達を目の当たりにして、本気で天国に来ちゃったのかと思ったけど、どうやらまだ死んではいない。

 さっきから心臓がバックンバックン鳴っている。


 するとイケメン様達の真ん中にいた赤い服の男の人が、クルリと私に振り返る。


「お前バカか? 何怪人の前に飛び出してんだよ」

「ふえ? ご、ごめんなさい。けど、どうしてもあの人を守りたくて」


 そう言って後方にいた女子生徒を見ると、彼女もこのイケメンさん達に骨抜きされたみたいで、「ぐへへ、眼福眼福」と、恍惚の表情を浮かべている。

 きっと私も、こんな顔してるんだろうなあ。


「友達か?」

「い、いいえ。さっき会ったばっかりだけど、親切に色々教えてくれたから」

「はあ? 会ったばっかりのやつのために、あんな危険な真似をしたのか?」

「す、すみません」

「お前、やっぱりバカか。けど……」


 赤い服のイケメンはニッと笑う。


「おもしれー女」


 ──はうっ!?


 妃労院桃子、15歳。

 人生初の、『おもしれー女』を頂きましたー!

 胸の奥がキューンってなって、このまま昇天しちゃいそう!


 すると、今度は青い服を着た真面目そうなイケメンが近づいてくる。


「レッド、お喋りもいいが、そろそろアイツの相手をするぞ」

「分かってるよ。おいお前、危ないから下がってろ」

「えっ、えっ?」


 今、相手をするって言ってたけど、もしかしてあの怪人と戦うつもり?


「水ぶっかけ仮面と戦うんですか? けど、危ないんじゃ」

「うるせー。お前は黙って俺の言うこと聞いてりゃ良いんだよ!」

「は、はいぃぃぃっ!」


 迫力に気圧されて、言われた通り後ろへと下がる。

 するとそこには、さっき怪人について教えてくれた女の子もいた。


「あなた、水かけられてない? けどもう大丈夫ね。彼らが来てくれたもの」

「彼らって。あの人達、いったい何なんですか?」

「そっか。転校生だから知らないのか。彼らはね、この学園都市を守る、ヒーローなの」

「ヒ、ヒーロー!?」


 よくよく見れば彼らの着ているスーツは、まるでテレビの特撮ヒーローみたい。


「怪人だけじゃなくて、この学校にはヒーローまでいるの? ここではそれが常識なんですか!?」

「まあね。よーし、さっき庇ってくれたお礼よ。彼らのことは私、追掛おいかけオタ子が解説してあげましょう!」


 追掛さんが張り切ったように言い、色とりどりの5人のヒーロー達は、水ぶっかけ仮面に向かって行く。

 そして。


 ドンッ!


「お前、悪さしてんじゃねーよ」


 さっき私に声をかけた赤い服の人が、水ぶっかけ仮面に壁ドンをした。

 すると、追掛さんが解説してくれる。


「彼こそがヒーロー達のリーダー、俺様系レッドよ! 」

「俺様系レッド!?」


 クイッ。


「やれやれ、あんまり手間を掛けさせるな」


 今度は青い服の人が、顎クイをしてる。


「いつも冷静沈着。鋭く冷たげな眼をしてるけど、その眼力で人々を虜にしてしまうあの方は、クールブルー! 」


 ぽんっ。


「そういう所も可愛いけど、ちょっとやり過ぎかな」


 あっ、黄色い服を着た優しそうな男子が、頭ポンポンしてる!


「爽やかな笑顔を浮かべる、優しさと清潔感溢れる、王子様イエローよ! 」


 興奮気味に説明する追掛さん。

 誰も彼もイケメン揃い。そんな人達に何故か胸キュン技をされている水ぶっかけ仮面が、羨ましくなってくる。

 お、今度は緑の服の、小柄な男の子が前に出た。


「覚悟してよね、おねーさん♡」

「あの身を屈めた状態で上目遣いしてる子は、ショタグリーンよ。幼く愛くるしく、それでいて時々攻めの姿勢を見せる年下の男の子に、お姉さんはメロメロ── 」


 ──バタッ!


 そこまで言うと、追掛さんは興奮して鼻血を出して倒れた。


「ちょっ、追掛さん大丈夫? 起きて、しっかりして! ヒーローはあと1人残ってるんだから、最後まで解説してよ!」

「うーん、少しは私の心配してよー。ハッ、でも確かに倒れてる場合じゃないわ。この後、お姉様がいるんだから!」


 お姉様?

 すると最後の白い服の人が、水ぶっかけ仮面に近づく。

 凛々しい顔をして背筋をピシッと伸ばした、気品溢れる人。

 他のメンバーと違って、ズボンでなくスカートを履いていて、大きく膨らんだ胸を持つあの人は……。


「え、ひょっとしてあの白い方は、女の人?」

「そう。彼女はメンバーの紅一点。宝塚ホワイトお姉様よ!」


 宝塚ホワイト!? 


 白いけど紅一点ってなんかアンバランスだけど、そこはスルーしよう。

 すると宝塚ホワイトさんは、水ぶっかけ仮面をひょいとお姫様抱っこして、微笑みを浮かべた。


「さあ、悪い子にはお仕置きをしないとね」


 はうっ! なんて色気のある笑み!

 むしろ私がお仕置きされたーい!


 そして宝塚ホワイトさんは水ぶっかけ仮面地面に下ろして、5人のイケメン達は整列する。


「俺様系レッド!」

「クールブルー!

「王子様イエロー!」

「ショタグリーン!」

「宝塚ホワイト!」


「天下御免の胸キュン戦隊、イケメンジャー!」


 胸キュン戦隊イケメンジャー。それが、彼らの名前?


 それぞれが名乗って、最後に俺様系レッドがグループ名を叫んだ瞬間、水ぶっかけ仮面に異変が起きた。

 なんと水ぶっかけ仮面はドーンと爆発して四散したのだ。


「えっ、えっ? 何で爆発したの?」

「それは、イケメンジャーの胸キュン技を食らったからよ。彼らの技を食らうと胸キュンして、キュン死にしちゃうの。彼らはこうして怪人をやっつけて、学園の平和を守っているの。」


 キュン死させて敵やっつけちゃうの? イケメンジャーすごい!


「キャー、イケメンジャーが勝利をおさめたわー!」

「素敵ー!」

「私もキュン死にさせられたーい!」


 いつの間にか周りには、さっきまで逃げてたはずの人達が集まって来ていて、イケメンジャーに声援を送っている。

 彼ら本当に、ヒーローなんだなあ。


 だけど、感心していたその時。


「おーほっほっほっ! 水ぶっかけ仮面を倒すとは、やるではありませんか」


 不意に仕業か女性の高笑いが響いてきた。

 はっ、あれは!?


 見れば道の先から、3人の女性が歩いてくる。

 真ん中にいるのは、ゴシックでゴージャスな黒いドレスを着た、ハデハデな人。そしてその両サイドにはこれまた黒いスーツを着た女性2人。


 そして彼女達は3人とも、仮面舞踏会でつけるようなマスクをつけていて、素顔は分からない。


「イケメンジャーの皆さん。わたくしの用意した仮面イジワル女子怪人を、ずいぶんと倒しているみたいですね。まあそうでなくては、わたくしも遊び甲斐がありませんことよ」

「「はい、その通りですレイお嬢様!」」


 な、何なのあの人?

 すると追掛さんが、すかさず囁いてくる。


「あの真ん中の人、秘密結社のボスよ。名前は、悪厄あくやくレイ。みんなは、悪厄レイ嬢悪役令嬢って呼んでるわ」

「あくやくれいじょう?」

「あと両サイドの二人は側近の、トリーとマッキー」


 トリーとマッキー。二人合わせて取り巻き?

 悪役令嬢に取り巻きって、何か笑っちゃう。


 すると、俺様系レッドが悪厄レイ嬢をにらんだ。


「お前、毎回毎回悪さばっかりしやがって。こんなことはもうやめろ!」

「おーほっほっほっ! それは無理な相談ですねえ。わたくしはこの学園の女王。気にくわない者は、怪人を使って排除するのですわ。おーほっほっほっ!」


 気に入らないから排除するって、そんな無茶苦茶な。


「イケメンジャーの皆さん、わたくしに逆らうアナタ達にも、いずれ鉄槌を下してさしあげますわ。もっとも、わたくしの元に来て、逆ハーレムを築いてくださると言うのなら、許してあげてもよろしくてよ」

「ふざけるな、誰がそんなことするか!」

「あらあら残念。後で泣いて謝ってきても知りませんわよ。では、今日はこの辺で。トリーさんマッキーさん、行きますわよ」

「「はい、レイお嬢様!」」


 言いたいことだけ言って、悪厄レイ嬢と取り巻きは去って行ちやった。


「ちっ、逃げやがって。仕方がない。俺達も帰るぞ」


 敵がいなくなったイケメンジャーも帰って行って、集まっていたギャラリー達も解散していく。


 胸キュン戦隊イケメンジャーか。素敵な人達だったなあ。

 いや待てよ。イケメンジャーの皆さんは良いとして、この学園には悪厄レイ嬢率いる秘密結社とか言う、おかしな人達もいるんだよね。私の常識が通用しない場所に来てしまって気がするんだけど。


 しかーし! 怖い秘密結社がいたとしても、イケメジャー達の魅力がそれを上回っている!


 これからこの学園に通うことに不安が全くないわけじゃないけど、それよりもイケメジャーにまた会えるかなーって、ワクワクが止まらないよ!

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