胸キュン戦隊イケメンジャー!

無月弟(無月蒼)

第1話

 私立西せいえい学園がくえん

 それは小学校から大学までを有する学校法人で、その敷地内には寮や研究機関も設けられ、巨大な学園都市を形成している。


 そしてその学園都市には、都市伝説があった。

 学園都市内には平和を脅かす悪の秘密結社が存在していて、その配下である怪人達が、生徒を襲うと言うもの。

 故に生徒達は怯え、不安で夜も眠れぬ日々を過ごしていた。


 しかし、この都市伝説には続きがある。

 悪の怪人軍団と戦う、ヒーロー達の噂が……。





「きゃー、怪人が出たわー!」

「た、助けてー!」


 悲鳴を上げながら逃げまとう人々を前に、私はポカンと口を開けて佇んでいた。


 ええと、まず状況を確認してみよう。

 私の名前は、披露院ひろういん桃子ももこ。なんやかんやあってここ、西映学園に転校することになった、高校1年生の女の子だ。

 で、今日から寮に入ることになっていて、学園都市にやってきたんだけど、そしたらこのおかしな騒動に遭遇したの。


 みんな何かに怯えたように我先に逃げてるけど、私には何が起こってるのかさっぱりわからない。

 さっきから怪人って言葉が聞こえてるんだけど、ひょっとしてアレのこと?

 みんなが逃げてきた先に目を向けると、西英学園高等部の女子の制服を着た生徒が、歩いてきてるのが見えた。


 だけど異常なのがその顔。ううん、正確に言うと、顔なんて見えないんだけどね。

 だってその女子生徒は、頭にバケツをかぶっていたのだから。


「ハハハハハーッ! 私の名は、水ぶっかけ仮面! みんなずぶ濡れにしてやるー!」

「「「ひぃぃぃぃ!」」」


 いや、水ぶっかけ仮面ってなに!?


 あまりにふざけた名前に唖然としていると、バケツ女はどこからか頭に被っているのと同じバケツを取り出し、その中に入っていた水を、周囲に撒き散らしはじめた。


「きゃー、濡れちゃうー!」

「やめてー、水かけないでー!」

「はははははっ! どいつもこいつもずぶ濡れになってしまえー!」


 辺りには水がぶちまけられ、阿鼻叫喚のプチ地獄絵図。

 な、何なのこれ!? 説明。誰か状況を説明して!


 訳が分からない私は、逃げていた1人の女子生徒を捕まえた。


「あ、あの。ちょっと良いですか?」

「何よこんな時に。早く逃げないと!」

「ごめんなさい。けどあのバケツの人、何なんですか? 西英学園には、ああいうのが普通にいるんですか?」

「えっ? 仮面イジワル女子怪人を知らないなんて、さてはあなた転校生ね」

「仮面イジワル女子怪人?」


 水ぶっかけ仮面と同じく、激ダサネーミング。

 何それ、ぜんっぜん知らないんだけど!


「あいつは悪の秘密結社の怪人よ。仮面イジワル女子怪人ってのは、少女漫画に出てくる意地悪女子のごとく、悪さをする怪人なの」

「何ですかそれ!? あ、でも確かにヒロインに水をかけて意地悪してくる悪役は、学園ものの漫画で見たことあるような……」

「でしょう。アイツは水ぶっかけ仮面の名の通り、気に入らない子に水をぶっかける、恐ろしい怪人なのよ!」

「はあ──っ!?」


 あのバケツの人が何なのかは一応わかったけど、混乱は余計に広がった。

 秘密結社とか怪人とか、まるで漫画かアニメの世界の話。


 だけど心の中でツッコミを入れる余裕は、すぐになくなった。

 水ぶっかけ仮面が、私達のすぐ前までやって来たのだ。


「次はお前達をずぶ濡れにしてやるー!」

「いやぁぁぁぁっ!」


 色々教えてくれた女の子が、悲鳴を上げる。

 いけない。このままじゃ、この子がずぶ濡れにされちゃう。


 私はその子を庇うように、水ぶっかけ仮面の前に立った。


「止めて! この子には指一本……ううん、水一滴触れさせない!」

「何だお前は? まあいい。邪魔をするなら、お前からずぶ濡れにしてやる!」


 水ぶっかけ仮面は、たぶんニヤリと笑っている。

 バケツをかぶっていて顔は見えないから、たぶんだけど。


 彼女の手に持っているバケツの中には、さっきぶちまけたはずの水が、何故かまた入っている。

 ど、どうしよう。つい勢いで前に出ちゃったけど、このままじゃ私がずぶ濡れにされちゃう。


 今になって、恐怖が押し寄せてきた。

 だけどその時──


「待てい! そいつから離れろ!」

「だ、誰だ! ま、まさか!?」

「行くぞみんな──イケメンチェンジ!」


 え、何? なんかまた、聞きなれない言葉が聞こえたんだけど!

 すると私と水ぶっかけ仮面の間に、色とりどりの、5つの影が現れた。


「お、お前達は!?」


 水ぶっかけ仮面が、驚きの声を上げる。

 そして私も現れた彼らを見て、心臓が止まるかと思った。


 だ、だってその人達。

 かっ、かっ……。


「格好いいー♡♡♡♡」


 まるで何かが、ズキューンと私の心臓を撃ち抜いみたい。


 だってだってだって、現れたのは今まで見たことないような、超絶に格好良い5人のイケメン達だったんだもーん!


 それは赤青黄緑白と、色とりどりのコスチュームを着た、5人のイケメン軍団。

 何これ、アイドルグループか何か!? ううん、その辺のアイドルよりも、ずっと素敵!


 5人とも特撮ヒーローみたいなスーツを着るけど、頭には何もかぶっていない素顔のまま。

 その服装はちょっぴりダサいんだけど、全員が全員それを補ってあまりありすぎるくらいの、イケメンオーラを出している。


 ひょっとして、私死んじゃったの? 死んでイケメン天国に来ちゃったんじゃ?

 もしそうだとしても、こんな見目麗しい方々を間近で拝められるのなら本望だよー!

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