第30話 ナンパって異世界でも変わらないんだね
ニューズレイトへ戻ってドロップ品を整理し不要なものを売却した後、街の刀鍛冶のところへ向かう。
武器鍛冶ではなく刀鍛冶というところがこのニホントウの面倒なところだ。やはり洋式剣とは何かが違うらしく(マイにはその辺りはよくわからない)、専門の刀鍛冶でないとメンテナンスできないらしい。
(こういうところ見ると、やっぱりここって
しかし、事実ここは現実世界なのだ。
ケガをすれば痛むし、連続して運動すれば息も上がる。
『緊急離脱』さえできれば、死ぬことはないかもしれないが、それでも意識を失ったり、一撃で即死してしまったら一巻の終わりだ。
マイが刀鍛冶へ向かって歩いていると、脇から冒険者風の男が2人現れた。
「ねえ君ぃ、俺たちとパーティ組まねえか? 女一人だとなにかと寂しいだろう? ちゃんと狩りの後のアフターサービスまでつけるからさぁ~。ねぇねぇ」
馬面と犬面の冒険者の二人組だ。
「ごめんね。私、ソロしかやんないから、間に合ってるから」
そう言って先を急ごうとするマイの前に二人が立ちはだかった。
(はぁ――。もう飽きもせずこういうのってどの世界にもいるんだよねぇ~。正直、うざいわぁ~)
「おいまてよ! つれない女だなぁ、ちょっと顔かせよ! 痛めつけてやるからよぉ――」
言うなり馬面がマイの手を引こうと右手を伸ばした。
しゅん――。
一瞬のことだった。
ちん――。
マイの腰から放たれたニホントウは目にもとまらぬ速さで弧を描くとすでに腰の鞘に収まっていた。
「これ以上私の邪魔すると、つぎはその長い顔が半分になるよ?」
馬面男の右手から鮮血がほとばしる。
「ぎゃあああ――! おまえ! 斬りつけやがったなぁ!」
「先に手を出してきたのはそっちでしょ。因果応報がこの世界の掟じゃなかったっけ? 腕が落ちなかっただけありがたく思うんだね」
「おらああ!」
犬面がマイの後ろから大鉈を振り下ろしてきた。
「って、ほんとに、死にたいの!?」
ギイイン!
犬面の手から大鉈が吹っ飛んでいく。次の瞬間マイの剣先は犬面の首元にぴたりと付けられていた。
「ひいいいい! ちょ、ちょとまったああ!」
「あのね、あんたたち、次他の人にこんな事したら死ぬかもしれないから言っといてあげるけど、私、ソロだって言ったよね? 一人でここにいるってことは、パーティ組んでここにいるものとは明らかに違うって、そんなこともわからないの?」
そうなのだ。
パーティで戦闘するのが基本的な戦闘方法の中、ソロでも同じレベルの敵と戦って生き延びているという事は、それは圧倒的にパーティプレイヤーより強いってことを表しているのだ。
「お、お前ら! 何やってんだ! この方は、『閃光』様だぞ!? 知らなかったのか!?」
揉め事を途中から見ていた冒険者の一人が、馬と犬に向かって叫ぶ。
周囲がざわつき始めた。
「おい、閃光だって――」
「うわぁ、アイツら殺されるぞ?」
「あーあ、俺しらねーっと」
「へ? あの、『閃光』? し、知らなかったんです、ゆ、許してください! こ、ころさないでぇぇ!」
犬と馬がフライング土下座を決める。
(いったい私ってどういうイメージになってんの? これじゃあ血も涙もない悪魔扱いじゃない、なんか私の方が悪者みたいな気がしてきたわ――)
「はぁ、もういいから消えて。二度とこんな勧誘するんじゃないよ!」
マイは抜いたニホントウを腰へ戻して去ろうとした。
その時だった。
不意に夕日に照らされ、反射する光がマイの目に飛び込んできた。
(な、なに? まぶしいわね――)
「お? おお! マイ? マイじゃないか! お前強くなったなぁ!」
その声を聞いた途端にマイは硬直した。この少ししゃがれた、なんかやたら元気な大声、間違いない「あの人」だ。
マイは反射する光の方を目を凝らして見やると、そこにはあのあまり趣味のいいとは言えない金ぴかに輝く鎧、背中には大盾、腰にロングソード――。
忘れもしない、思い焦がれたあの人の姿があった。
「『竜撃』――、キョウヤ、さん?」
「ああ、キョウヤだぜ。なんだかんだ久しぶりだなぁ。あれからお前どうしてた、ん? だぁあああ!?」
マイはキョウヤの目の前で腰から砕けてへたり込んでしまった――。
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