第9話 まずは軽くお使いクエからはじめよう!



 というわけで、やっと、ついに!

 今日から俺たちは冒険者だ――!(見習い、だけど)


 初めてのクエストは初めてのお使いと言う(言わないと思う)。


 クエストとは冒険者ギルドに依頼されているお仕事だ。冒険者というのは異世界風の呼び名だ。日本で言えば、「便利屋」とか、「何でも屋」とかになる(たぶん)。


 依頼は掲示板に掲示される。

 この世界には携帯端末とか無いから、もちろん掲示板というのは文字通り、壁に掲げられた板だ。

 掲示板は冒険者ギルドの1階ホールにあるので、まずはそこへ向かう。そして、掲示板から依頼を物色して好きなものを選んで申請する。申請が通れば依頼開始だ。あとは依頼完了後にギルドへ戻って終了報告を済ませると、その場で報酬がもらえるという極めてありきたりなシステムだ。

 何度も言うが、この世界に携帯端末はないので、決済時にもらえる報酬はその場で現金でもらうことになる。冒険者はたいていこれを預り所に預けておくのが一般的だが、熟練の冒険者になると、自分の家などを購入してそこに金庫のようなものを設置しているものもいるらしい。

 ただ、ここはあくまでもリアルな世界なので、コンピューターゲームのような「ストレージ」とかいう次元を無視した何たらポケットのような便利システムはない。預り所だけが特別仕様なのだ(なぜなのか? これは開発者にしかわからない)。

 

 とにかく、今日は初クエストを達成して、ちょっと町の外にも出てみたい、そう思う二人であった。


「おい、ケンジ。これなんかどうだ? 『収穫物の運搬作業(収穫作業込み)。受注可能クラス:見習い以上、報酬:20s』。つまり畑から引っこ抜いて運ぶだけの仕事だろうな……。搬入先は商人ギルド、依頼主はケルンの北の農場だって。ケルンってこの町の名前だろ? すぐそこじゃないか?」

マモルがその依頼書を指さす。


「うん、いいかもね、20sというのがどうなのかわからないけど、二人で分けると10sずつだね。飯代くらいにはなるかな? はは」

ケンジはそういって軽く笑う。


「最初は何だってそんなもんだぜ? むかしむかしやってた初めてのお使いとかいうテレビ番組なんか、お使いしてもお駄賃なんか出なかったんだから、もらえるだけいいじゃん」

マモルはとにかく何でもいいのだろう。とりあえず「クエストを達成して報酬をもらう」。これこそが冒険者(つまり便利屋)の本分だ、とでもいうつもりだろう。 


「ん、まあいいんじゃね? 収穫作業ってのがちょっと気になるけど。最初の最初だしな」

ケンジも賛同した。


「じゃあ俺、さっそく申請してくるよ――」

そう言ってマモルは受付窓口の方へ走って行った。


 ケンジは掲示板を何となく眺めている。

 『手紙の配達――20s』、『行商の護衛――150s』、『フォレストウルフ討伐――200s+α』、『ダンジョン探索:コレジオ炭鉱――報酬は歩合制』などなど、まあいろいろとお仕事が並んでいる。一番多いのはやはり雑用仕事のようだ。『配達』『運搬』『作業補助』などの文言がよく目につく。


「ケンジ! 申請許可下りたぜ! 俺たちの初仕事だ! いくぞ!」

マモルは依頼受注完了書(依頼内容の詳細が書いてある書面)を振りながら、もう依頼が終わったかのようなはしゃぎ様だ。


「マモル、まだ何も終わってないんだ、気を引き締めていこう。これは仕事なんだぞ?」


「わかってるって。えーと、依頼主の農場は、と。ピオネーロ中央通りを北へ進んで、しばらく行った郊外地域にある青屋根の農場、依頼主はテンドルさんだってよ? これだけで分かるのかな? 北ってどっちだよ?」


「そう書いてるからわかるんだろうさ。中央通りってこの通りのことだから、これを北、つまり、今はまだ朝方で、太陽はまだ東にあるはずだから、影を見れば、わかるんじゃね? えっと、あっちだな――」


「なるほどなぁ――さすがケンジ。そういうところは頼りになるなぁ」


「うるせーよ。ってことはこの通りは南北にまっすぐ伸びてるってことなんだろうな、多分――」


 ようやく行くべき方角を決定した二人は、その方向へと歩き始める。


 中央通りはこの町のメインストリートだ。冒険者ギルドはこの通りの南北のちょうど真ん中少し北あたりに位置している。今二人が向かっているのと逆方向に行けば、中央交差点があり、その少し南に「はじまりの酒場」があるのだ。はじまりの酒場、つまり預り所のことだ。この酒場の正式名称は、「リノズバル(リノの酒場)」というらしい。まんまじゃないかと突っ込みたくなる。


 しばらく通りを進むと、左右の街並みが変わる。町中から、郊外へという感じで、左右に牧場やら畑やらが散見されるようになる。民家の感覚もかなり開いてきた。


「けっこうあるなぁ――、青い屋根、まだ見えないな――。まさか逆に進んだとか、ないよな?」

マモルがやや不安そうに漏らす。

「方角は間違ってないと思うよ、この世界も時間の流れとか種族の違いはあっても、太陽も月も一つだし、重力だって普通にある。そういうところは地球と同じだって、たしかケイコさんが言ってた――」

ケンジが答える。


「お? あれか? あれ青い屋根じゃね?」

マモルが指さす方を見ると、なるほどたしかに、青い屋根が見える。

「かもな――」


「よっし、みつけたぜ! ケンジ、急ごうぜ、ちゃっちゃと終わらせて、次の依頼また受けるんだよ。はじめての日なんだから、少し豪勢に食事してぇじゃねえかよ?」

そう言うと、マモルは走り出した。




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