見習い冒険者よ生き延びろ
第8話 異世界と言えばやっぱ冒険者でしょ!
「いらっしゃいませ~。ボードゲームカフェ『ダイシイ』へようこそ~。あら、マモルさんとケンジさんじゃありませんか。今日もバウガルドですか?」
ケイコ君の声が店の玄関口の方で聞こえた。
ああ、その二人は最近バウガルド旅行を始めた二人組だったかな。たしか、高校の同級生だとか言ってたような……。
「ケイコさん、ちっす。もっちろん、バウガルドですよ!」
とマモル。
「やっと、見習い冒険者登録出来たんで、今日から早速、町の外に出てみようと思ってるんです――どんな魔物に出会うかめっちゃ楽しみなんですよー」
とはケンジだ。
なるほど、たしか今回が3回目だったかな。前回の
私は早速『バウガルドの酒場』を一つ棚から出そうとレジ裏の椅子から立ち上がった。
「あ、店長さん! ちわっす。店長さんに薦められておっかなびっくり始めて見たんですけど、めっちゃヤバいっす、バウガルド! 俺たち高校生なんで、部活のない日しか来れないのが残念なんですけど、少しずつランクやレベルを上げて楽しもうと思ってますんで、今後も宜しくです!」
マモルが私を見つけるなり声をかけてくれた。
こういう反応は素直にうれしいものだ。
「むこう時間はこっちの10倍だから、少しずつでも充分に進められるから、無理しないように気を付けるんだよ?」
そう言って二人を諭しながら、テーブルの上に『バウガルドの酒場』をおいて案内した。
「はい、死んだら終わりですからね。充分に帰還魔法も練習したし、まずは近隣の危なくないところあたりで戦闘訓練をやるつもりです」
とケンジが答える。
「OK、じゃあ、準備ができたら出発です――。いいですか? バウガルドへ行ってらっしゃいま――せ……」
――――――――
ケンジとマモルはダイブするなり、酒場のテーブルから立ち上がり、預り所へ向かった。
カウンターにはリノセルフさんがいて、こちらに気付くと軽く会釈をする。何回見てもこのリノさんと、『ダイシイ』の店長さんは同じ人に見える。しかし、周囲には見たこともない人たちががやがやと話し込んで酒をあおっているので、明らかにここは自分たちの住んでいる世界とは別の世界だと気づかされる。
二人は預かり所のいつもの場所で着替えを済ませたあと、鍵をもってカウンターへ戻った。鍵はリノさんに預ければいいというのは前にダイブした時に聞いている。
マモルは上下皮の冒険者用スーツを着込み、腰にはショートソードを帯刀している。
一方のケンジは藍色のフード付きで丈の長いローブをまとい、腰には短杖を差している。
二人はこの世界に来た時に冒険者になるためにはどうすればいいかと酒場の店員、エルフのフィーリャさんに質問したのだ。
答えは簡単にもらえた。
冒険者ギルドに行って登録するだけでいいというのだ。そうすれば見習い冒険者の前段階、訓練生として登録されたうえ、冒険者ギルドで基本職のレクチャーを受けることができるらしい。
このレクチャーを一日4時間を3日、つまり、合計時間にして12時間受けることで見習い冒険者に昇格し、「依頼」受注資格がもらえるのだ。
二人はダイブ一日目に早速、冒険者ギルドへ行き、冒険者登録を済ませた。登録料として50シルバー取られたが、代わりに今着ている職種に応じた装備セットが付与される。装備を自分で露店で用意した場合の登録料は30シルバーだ。そう考えれば、50シルバー装備セット付はとてもお得である。
そうして、基本職選びの時点で、マモルは剣道部だったので迷いなく、戦士をチョイス。その加減で、ケンジは魔法士を選択した。ちなみにケンジは将棋部だ。
そうして、早速一日目のレクチャを終えた二人は一旦酒場に戻ってその日を終えた。バウガルドから『ダイシイ』へ初めて帰還した時は興奮が冷めなかった。
次の来店の時には、今日でレクチャを卒業するという目標を立ててバウガルドへ旅立った。バウガルドの時間は日本のちょうど10倍のスピードで進行している。バウガルドの1日は現地時間で24時間、つまり、日本での1日はバウガルドで10日経っていることになる。しかし、バウガルドの人々は基本的に超長寿で文明が進むこともない。毎日同じことを繰り返しゆったりと時間が流れている感じだ。
どうしてそうなのかなんて考えても仕方ないことだ。誰しもが人間と同じ速度で生きているわけではないのだ。バウガルドという世界はそうなのだと割り切っていい。
『ダイシイ』の営業時間は午後1時から午後9時までだ。そして、バウガルド時間で朝10時から14時までがレクチャの時間となっている。一日が60分×24時間で、1440分。だとすれば、日本時間で144分でバウガルドの一日が終わることになる。つまり、レクチャが終わった後、いったん日本へ帰還して、再度120分後にダイブすれば、むこう時間ではレクチャが始まる午前10時になっている計算だ。実際には移動時間などがある為、帰還後100分ほどたってからダイブすれば充分余裕をもってレクチャに参加できるはずだ。
2回目のダイブは日曜日に開店後すぐだった。現地時間はうまく9時ごろだったので、すぐに冒険者ギルドへ向かった。その日のレクチャが終了して、二人は酒場に戻って一旦帰還する。
ケイコさんと店長に断りを入れ、一旦食事休憩を取ることにした。次のダイブは100分後とすれば、1時間半ほどで『ダイシイ』に戻ればいい。
二人は予定通りに3回目のレクチャを終了し、見習い冒険者にクラスアップし、その日のダイブは終えた。
そして今日が、冒険者としての第一歩になる日となった。
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