第15話 狙撃たれる(うたれる)
歓声が広がる野球場。天気は晴天。大久保地方議員は地方で行われる始球式に参加していた。彼は投球台に立ち、ボールを構える。すると、何かが彼の頭部を直撃し、恰も無く彼の頭が無くなっていく。その異変に気づいた観客たちは、それまであげていた歓声が悲鳴へと変わっていったー。
「被害者は大久保雅良で、年齢は六十四歳。この地方の議員らしく、事件当時は始球式のために参加していたことでした」
「そうか」
楠谷が車から降りると、鴻ノ池も降りる。
二人は現場入りすると、規制線で貼られた野球場へと入る。遺体は既に運ばれており、被害者が倒れていた場所は紐で置かれていた。
「状況は?」
楠谷は近くの捜査員に訊ねる。
「被害者は何者かによって頭部を撃ち抜かれ、そのまま跡形も無く頭部が吹き飛ばされ、亡くなった模様です」
「凶器は?」
「ここから一キロ先に離れた、病院の屋上駐車所にそれらしきものを発見したとのことでした」
「ほお」
「その凶器って、何ですか?」
鴻ノ池が訊ねる。
「レールガン、とのことでした」
「レールガン?」
楠谷がそう言うと、捜査員が頷く。
「まあともかく、被害者の人間関係を洗った方が先決かもしれないな」
「そうですね。地方議員となると、恨んでいる人たちは色々とありますでしょうし」
「そうだな」
「ところで、楠谷さん」
「何だ?」
「あの野次馬たち、何でしょう」
鴻ノ池が規制線の外に立つ野次馬たちを指でさす。
「あぁ、確か、この地域では政府主導のメガソーラーに反対している方々かもな」
「メガソーラー?」
「何だ、知らないのか?」
「私、あまりニュース見ないので・・・・・・」
鴻ノ池は頭に手を添える。
「まあ良い。とにかく、あの反対住民から話を訊くことにしてみるか」
二人が規制線の前まで歩き出す。
「どうかされましたか?」
楠谷が慇懃深く言う。
「何って、賛成の大久保議員が殺されたから見に来たからここに来たに決まっているだろ」
「そうですか。念のため、お名前を」
楠谷がそう言うと、反対住民のリーダー格であろう人物が話し出す。
「緒方孔林と言います」
「孔林さん、今日の十二時から今まで何をしていらっしゃっていましたか?」
鴻ノ池が訊く。
「俺は、反対住民の仲間と昼食をしていたよ。その後、みんなで反対運動をしようと思っていてな」
「なるほど。ちなみに、その場所はどこで?」
「この近くのそば屋だよ」
「分かりました。ありがとうございます。では最後にもう一つだけ、被害者に何か変わった様子とかは見受けられませんでしたか?」
「分かる訳ねえよ」
「分かりました。ご協力、感謝致します」
そう言うと、二人は規制線をくぐり抜け、車の中へ戻っていった。
野球場の近くのそば屋に行き、反対住民らのアリバイを確認した後、無線から報告を受ける。どうやら、被疑者の候補が固まったようだった。報告を受け、二人は署に戻っていった。
「被害者の人間関係はどうだった?」
捜査会議の取り仕切る係長が言うと、別の捜査員が立ち上がる。
「被害者には不倫関係があったらしく、その相手はジャーナリストの古賀真莉愛。本人に直接お話を訊こうと尋ねましたが、既に亡くなっておられました。死因は失血死のことでした」
「失血死?」
係長が眉間に皺を寄せる。
「はい。確認したところ、真莉愛さんは妊娠をしていたとのことでした。恐らくは卵管が破裂してそのまま亡くなったかと」
「そうか。他は?」
係長がそう言うと、先ほどまで発言していた捜査員の隣の人が立ち上がる。
「一点、 気になる点があったのですが」
係長が発言を促す。
「その不倫相手の妹、最近になってから失踪したとのことでした」
「怪しいな・・・・・・。その線、楠谷と鴻ノ池で探ってみてくれ」
「分かりました」
そう言うと、二人は手帳にメモをする。
やがて捜査会議が終わると、二人は会議室を出てそのまま車に乗り込む。
二人は古賀真莉愛の自宅を訪れていた。署から車で一時間ぐらい掛かった。
「うーん、特になさそうな気がしますね」
「確かにな。事件に関係するようなものはなさそうだし」
「楠谷さん、パソコンがありますけど」
「そうか、少しいじってみてくれ」
「分かりました」
白い手袋をした鴻ノ池がパソコンをいじる。すると、彼女から声をかけられる。
「何か出たか?」
「一応。何かの音声ファイルみたいですけど」
「再生してくれ」
「分かりました」
鴻ノ池がダブルクリックで音声ファイルを開くと、音声が流れる。パソコンから流れる音声はどうやら、どこかのセミナー会場に思える音が流れてくる。その後、誰かの罵声が聞こえた。
「誰だ、この怒鳴っている人は」
「聞いたことはありませんけど、机のメモによれば、大久保議員の音声みたいですね」
「そうか」
「あと、その後のすすり泣く人の声は誰なんですかね」
「さぁな。とりあえず、上に報告するしかない」
「そうですね」
再びパソコンと向き合った鴻ノ池を見た後、楠谷は隣の扉を見る。その扉を開けると、そこには真莉愛の妹と思われる部屋だった。会議の話によれば、真莉愛の妹と同居をしているとのことだった。学生で、周囲からは天才と呼ばれていた理系女子だとか。
「ふむ・・・・・・。どうやら、妹はかなり被害者のことを憎んでいたようだな」
壁には穴だらけの記事があった。それらは全て、大久保議員に関する記事だった。
「楠谷さん、ちょっと来て下さい」
「何か見つかったのか?」
「これ、見て下さい」
そう言うと、鴻ノ池はパソコンを操作して動画を再生させる。そこに映し出されたのは、煙をあげた後、大きく穴が開いたトタンの映像だった。
「これ、レールガンのせいなのか?」
「分かりません。ただ、その可能性は大いにあると思います」
動画を閉じると、次にテキストを表示させる。
「これは?」
「どうやら内容的には、遺書のようです。真莉愛さん自身は妊娠に気づいているようだけど、その後大久保議員に見捨てられたとか」
「なるほど。とにかく、失踪する動機や殺害動機はあるようだな」
「そうですね」
「一旦署に戻るぞ」
そう言うと、二人は部屋を後にした。
署に戻り、会議室の捜査員から訊かされた内容は、真莉愛の妹、美利阿が出頭してきたことだった。
二人は取調室に入り、既に取り調べを行っていた二人の刑事と入れ替わる。
「あなたが、古賀美利阿さんですか?」
楠谷が椅子に座って言う。目の前の女性はコクリと頷く。
「では、お訊きします。あなたが被害者を殺したのですか?」
「はい。そうです」
美利阿があっさりと答える。
「なぜ、出頭を?」
美利阿が一息入れて口を開く。
「・・・・・・もう、自分のやるべきことは終わったからです」
「そうですか。あなたはどのように被害者を殺したのです・・・・・・大丈夫ですか!」
楠谷が次の質問に移ろうとした瞬間、美利阿が突然倒れる。床には血が広がっている。
「鴻ノ池、救急車を!」
「分かりました!」
そう言うと、鴻ノ池は取調室を急いで出る。楠谷は美利阿の出血した部分を必死に抑える。手首からだった。
「何で、手首を」
「言ったでしょ。もう、自分のやるべき事は終わったって」
「馬鹿を言うな。お前のやるべき事は終わっていない」
「・・・・・・具体的に、何を?」
楠谷は一瞬頭の中を駆け巡ったが、すぐに答えを出す。
「お前の姉に、お前の未来を見せてやれ」
「何を、言っているの?もう、姉はいないじゃない」
「いいや、いるさ。お前の心に」
楠谷がそう言うと、美利阿が一筋の涙を浮かべる。だが、その直後美利阿の手首がだらん、と垂れた。
「結局、被疑者死亡で事件の幕を引くことになった」
係長からそう言い渡される。
「二人には感謝しているよ。勿論、他の捜査員にもね」
そう言うと、係長が会議室を出て行く。
「ちょっと、外に出てくる」
楠谷はそう言うと、会議室を出て廊下の壁にもたれる。
そして、むせび泣く。
会議室にいる鴻ノ池、廊下にいる楠谷、その両者とも涙を流したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます