第16話 猥褻れる(さわれる)

 少ない電灯で照らされる夜道。そこに仕事帰りの女性がいた。彼女はふんふん、と鼻を鳴らして歩いていた。その後ろに、怪しい黒ずくめの人がいた。その人は女性にゆっくりと近づき、真後ろに立った時に女性の腰にスタンガンを押しつける。女性はスタンガンの衝撃で倒れ、気を失う。その人は女性の服を脱がし始め、そっと女性の肌を触っていったーー。

 

 「で、事件現場はどこだ?」

 楠谷が歩きながら言う。

 「あそこです」

 隣の鴻ノ池が指を指して言う。その先には、規制線が貼られた現場があった。

 「これで何件目だよ。余程犯人は女性の身体を触りたいのか?」

 楠谷は規制線をくぐりながら愚痴を溢す。

 「そうですね。私だったら、合気道で触ろうとしてきた男を倒します」

 「合気道?」

 「そうです!私こう見えて、人の関節を軽々外せますよ!」

 鴻ノ池が満面の笑みで言うと、楠谷は苦笑する。

 二人はその場にいた捜査員に話を聞き、被害者に直接話を訊くことになった。

 「すいません。こんな時間に」

 楠谷が言うと、被害者の女性は首を振る。

 「では、失礼ながらお話を訊かせていきます。今晩あなたは何のために、ここを歩いていたのですか?」

 「・・・・・・帰宅しているところでした」

 「そうですか。何か、犯人の特徴とかは言えますでしょうか?」

 女性は横に振る。

 楠谷はありがとうございます、と言ってから立ち上がり、手を頭にやる。

 「なあ、確か、これで五件目だったよな」

 「はい。それが何か?」

 「四件目と五件目の期間が今までの中で短い。ということは、犯人の欲求が高まっている

ということだ。それに」

 「それに?」

 「これ以上犯人を野放しにしては、被害者がもっと増える恐れがある。もしくは、忽然と犯人が消えるかのどっちかだ」

 「その恐れを消すのが、我々警察の役目ですね」

 「ああ」

 楠谷は右口角を上げると、鴻ノ池が頷く。

 「あっ、あそこ見て下さい」

 突然鴻ノ池が電柱の先についてある監視カメラを指す。

 「監視カメラか。一応調べてみるか」

 

 数時間後。

 都内で発生していた連続猥褻事件の犯人が捕まった。犯人はなんと、若い女性だった。

 「何で、同性の人ばかり狙った?」

 楠谷が低く言う。

 「良いじゃないですか。そんなこと」

 「は?」

 「女性の身体ばかり触って、何が悪いんですか!私の欲求を叶えられて、私はそれで良いと思った・・・・・・」

 「悪いよ!」

 そう声を挙げたのは、鴻ノ池だった。

 「同性どうしが触ることは別に良いよ。でもそれは、友達だったらの場合。見ず知らぬ女性に触ったら、それは猥褻と同じことなのよ!」

 鴻ノ池の顔が興奮して紅潮する。

 女性は顔を俯かせると、取調室の机に頭を何回か頭突きした。

 

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