第13話 画鋲

ある日の昼。二人は現場の家の中にいた。

 

 二人が捜査していた事件とは、短絡的な殺人事件だった。通報者の妻は夫が倒れていると通報し、夫は病院に搬送されたが死亡が確認された。その後の調べで、夫は何者かによって中毒死されていることが判明。そして、夫の身体には小さな穴があったことが確認されており、そこから毒物を入れられたのではないか、と捜査を担当していた二人は考えていた。

 

 「短絡的な事件ってことは、何か揉め事があったということですよね」

 鴻ノ池が手帳を見つつ、家の内装を見渡す。

 現場の家は広く、いかにも金持ちが住んでいそうな家だった。実際、夫は巨大IT企業の社長に勤めていたそうだ。

 「そうだな。犯人は妻だって確定しているし、恐らく夫婦喧嘩じゃないのか?」

 楠谷がそう言うと、鴻ノ池が頷く。

 「しっかし、凶器を見つけなければ、あの妻に対し逮捕状を請求出来ないからな~」

 「被害者に、小さな穴ですよね」

 「そうだ」

 「そうなると、身体に小さな穴を開けられる物・・・・・・」

 鴻ノ池は部屋を見渡す。すると、壁際に飾られている物に目線が行く。

 「楠谷さん、これ」

 「どうかした?」

 「ここのボードに刺さっているいくつかの画鋲のうち、一つだけ血がついている物があります」

 「すぐに鑑識に調べさせろ」

 「分かりました」

 

 その後、二人は鑑識からの報告を受け取調室に戻っていった。

 楠谷は犯人である妻と向かい合わせに、鴻ノ池はパソコンの前にそれぞれ座る。

 「よし、今から取調をするぞ」

 楠谷が言うと、妻はコクリと頷き、小さく唇を動かす。

 「・・・・・・すいません」

 「え?」

 「すいません、私が夫を殺しました」

 「そうですか・・・・・・」

 楠谷が一息入れる。

 「なぜ、貴女は夫を殺したのですか?」

 「・・・・・・我慢出来なかったからです」

 「何に?」

 「夫の、女遊びに、です」

 「それはいつほどから?」

 「確か、二年前ほどぐらいかな・・・・・・?最初はああそうなんだって思ってすぐにやめるだろうって思ったんですけど、全然止める気配が無くて・・・・・・。日数が重ねていくごとに、段々とエスカレートしていって、それで我慢が出来なくなったんです。もう、女と遊ぶのは止めてよって。夫ははいはい程度で、全然止める気配を感じなかったんです。そのことを追及したら、夫は逆ギレしてしまって。そしてついに、離婚話が持ち込まれて・・・・・・」

 妻は手で涙を拭う。

 「そうですか。凶器に使われた毒物って、どこから入手してきたんですか?」

 「私の職場です。薬品を扱っていますし、そこで毒物も扱います」

 「なるほど」

 楠谷がそこまで言ったとき、妻は顔を伏せて泣いてしまう。

 彼はその姿を一瞬見たが、椅子から立ち上がって取調室から去ってしまう。鴻ノ池もその場を後にして、彼の後を追う。

 「どうしたんですか?」

 「ああいう時は、一人で泣かせた方が良い」

 そう言って、楠谷は廊下を一人歩く。

 取調室から漏れて聞こえる泣き声は、廊下を伝って鴻ノ池の鼓膜を揺らした。

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