第12話 不審火

「これで四回目だよ」

 楠谷が少し苛立ちながら言う。その横には鴻ノ池が立っていた。

 

 二人が目にした光景とは、黒焦げになっていた自転車だった。

 二人が遭遇した件も含め、四回不審火の案件が舞い込んでいる。その四件とも共通していることとして、盗難届が出されている自転車が燃えていた。目撃者は多数いるが、どれも有益な証言は得られなかった。

 

 「誰だよ、こんなことをしてるのは」

 「そうですね・・・・・・。あっ」

 「どうした?」

 楠谷が鴻ノ池を見る。彼女は電柱に括り付けられていた防犯カメラを見る。

 「あの防犯カメラって、映ってますかね」

 「分からん。とりあえず、連絡をしてみよう」

 そう言うと、楠谷が携帯を取り出して捜査員に連絡をいれる。

 

 二人は現場を後にして、警視庁に戻っていた。

 四階へと上がり、楠谷が連絡を入れた捜査員と合流し、そこで現場の映像を確認する。そこに映っていたのは、一人の男だった。顔もばっちり映っていたことから、二人はその男を警視庁に呼び出すことにした。

 「どうして、自転車を燃やしたりしたの?」

 鴻ノ池が言う。

 「いや、だって・・・・・・」

 「だって?」

 「四件とも燃やされた自転車、僕の物だったんだもん」

 「え?」

 二人は思わず呆けた声を出してしまう。

 「そ、それだったら、燃やさずに取り返せば良かったじゃないの」

 鴻ノ池が言うと、高校生ぐらいの男性は横に振る。

 「いやだって、既に新しい自転車買って貰ったし、もういらないから燃やしちゃっても大丈夫かな~って」

 「え、えぇ・・・・・・」

 二人はまた呆けた声を出してしまう。

 「とにかく、四件ともたいした被害は出ていないから、すぐに釈放されると思う。ただ、反省はしろよ」

 「分かりました」

 男は肩をすくめる。

 二人は取調室を出て、伸びをする。

 「何だったんですかね、あの理由は」

 「さぁな」

 二人は廊下を歩いて行った。

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