第2話 窃盗症
サイレンが鳴り響く夜の繁華街。そこに、楠谷と鴻ノ池の姿がいた。
二人が向かっている現場、つまり事件とは、一昨日から続いている窃盗事件だった。通報者によれば、全身黒づくめで、痩せ細った男性のこと。その男性が盗んだ物とは、水筒のこと。今日もまた、通報があったので二人がそこへ向かっていた。
「状況は?」
「またいつも通りですよ。あの男は何も落としていません」
「なるほどな」
楠谷が近くの捜査員に礼を述べ、被害者に近寄っていく。
「警視庁の楠谷です」
「同じく、警視庁の鴻ノ池です」
二人は警察手帳を被害者に見せる。被害者は、華奢な体つきをしており、か弱そうな感じが出ていた。
「犯人の特徴は覚えていますでしょうか?」
「犯人は、全身黒の服装で・・・・・・」
被害者は楠谷と鴻ノ池が聞いた犯人の特徴を述べていく。
二人は被害者に礼を述べ、車の入り口まで戻っていく。
「どうします?これ」
「うーん。一昨日の事件と昨日の事件を洗うしかない」
「この場ですか?」
「まあ、それでもいいけど」
楠谷がそう言うと、鴻ノ池は手帳を取り出す。
「犯人は、全身黒づくめ、痩せ細った男性。私のメモとしては、このぐらいかな」
「被害者の特徴は?」
「あ、やばっ」
鴻ノ池が舌を出して謝る。仕方なく楠谷が手帳を取り出す。
「被害者の特徴として、全員女性で、華奢な体つきをしておりか弱そうな人。盗まれた物は全部水筒。でも何で水筒なんだ?」
楠谷が鳥の巣となっている頭を掻いていると、鴻ノ池が「あっ」と声に出す。
「どうした?」
「被害者の職業って、全員確かOLでしたよね?」
「あぁ、それが何か?」
「犯人がその被害者たちの職場の人間だった、とか」
鴻ノ池のピンと指を立てる。
「一応その線も調べてみるか」
二人はもう一度被害者に駆け寄る。
「すみません。・・・・・・てか、誰ですか?」
鴻ノ池がそう言葉を掛けた人物は、被害者の女性ではなかった。そこにいたのは、二人が聞かされていた犯人だった。
その後、二人は男を署に連行して取調を行っていた。
「どうして、盗みなんか働いたりしたんだ?」
楠谷が男の顔を覗き込む。男は真っ直ぐ向いたままだ。
「だって、やめられなかったんだもん」
「やめられなかった?」
楠谷が眉間に皺を寄せる。
「身体の奥から、盗みたいという欲が溢れて出るんだから仕方ないんだよ」
「はぁ?」
楠谷が男を睨む。
「じゃあ、最初に盗みを働いたきっかけって何?」
鴻ノ池が机に手を置いて訊く。
男は少し黙ったが、次第に口を開く。
「最初の頃はただ、悪戯のつもりで兄の物を盗んだだけでした。その時は親に怒られただけで済みましたけど、その時の盗んだ感覚が忘れられなくて、何回も兄の物を盗むようになりました。次第に、それだけではなく、見知らぬ人の物やコンビニの物まで盗っていくようになってしまいました・・・・・・。次第に、職場の女性の水筒を盗んで、性欲を満たすようになっていきました・・・・・・。今となっては、馬鹿らしい話ですよね」
男が嘲笑っているのを、呆れた顔で楠谷と鴻ノ池は見る。楠谷は立ち上がると、「今日はもう家に帰れ。だが、その前に精神科に行け」と言い残し、取調室を出る。鴻ノ池は「それでは」と言って楠谷を追いかける。
「精神科って、どういうことですか?」
歩きながら鴻ノ池は楠谷に訊ねる。
「あぁ。あの男は窃盗症だ。窃盗症はクレプトマニアと言うのだが、あの男もそうだ」
「具体的に窃盗症の治療ってどのようにやるんですか?」
「さぁな。でも、俺の友人に精神科医がいるから少し訊いたけど、通院とデイナイトケアを行ったり、再発防止の為のリラプスプリベンションを行ったり、自助グループいわゆるクレプトマニアクス・アノニマスという、クレプトマニアの人達を集めて問題解決を図ろうとするグループで治療していくらしい」
「へぇ~。楠谷さんって詳しいんだね」
「まあな」
楠谷は自慢げに鼻を鳴らす。
二人の姿は、廊下に伸びる光へと消えた。
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