楠谷刑事と鴻ノ池刑事シリーズ

青冬夏

第1話 悲しい嘘

白昼の街中でサイレンが鳴り響く。その車両には、二人の刑事がいた。

 

 六月十三日。午前十時にある通報が入った。その通報によれば、ある家にて女性が倒れていたとのことだった。被害者は辻村佳江。約束の時間になっても、待ち合わせ場所に来なかったことから知り合いの女性が自宅まで訪れた。そこに、倒れている被害者を発見し、通報に至ったとのことだった。

 

 「現場の状況は?」

 助手席に座る楠谷が言う。

 「何者かによって荒らされていたようです」

 運転席に座る鴻ノ池が言う。

 「なるほどね。強盗殺人というわけか」

 楠谷がそう言うと、二人は車から降り、現場に入る。

 現場は四階建てのアパートの一室のことだった。二人は現場の一室に入ると、玄関から既に荒らされていた。二人は足下に注意をしつつ、被害者が倒れていたというリビングまで向かう。リビングは殺風景な光景が広がっていた。

 「これはかなり荒れているな・・・・・・」

 「ですね・・・・・・」

 「被害者について、何か分かったことがあったのか?」

 楠谷がそう言うと、鴻ノ池が手帳をペラペラ捲る。

 「被害者は学生で、金銭に困っていたとか。最近だと、バイトをクビになっています」

 「なるほど・・・・・・」

 楠谷が顎を撫でていると、鴻ノ池がスマホを見せる。

「これが、被害者のSNSです。これを見る限り、被害者はかなりの精神的ストレスが溜まっているようですね・・・・・・」

 「そうか。『死にたい』『私はこの世から必要とされていない』、これだけ見ていると、精神的に追い込まれているのが分かるな・・・・・・。こりゃ、自殺だな」

 「そうですね」

 楠谷は周囲を見渡していると、部屋の隅に蹲っていた人を見つける。

 「大丈夫か?」

 楠谷が声を掛ける。その人物はゆっくりと顔を上げる。

 「・・・・・・大丈夫です」

 「なぜ、貴女はこんなところに?」

 女性は薄い唇を少しずつ、開けていく。

「私が、通報したからです」

 

 「少し、お話を聞かせてもよろしいでしょうか?」

 楠谷が優しく言うと、女性はコクリと頷く。

 「まず、改めて通報した経緯について教えてください」

 女性は少しの間黙った。

 「大丈夫ですか?」

 鴻ノ池の言葉に、女性はハッと気づく。

 「・・・・・・すいません」

 「何かいけないことでも?」

 女性は首を振る。

 「嘘をついてしまったんです」

 「それは、どういう?」

 楠谷は眉間に皺を寄せる。

 「佳江と待ち合わせをする予定だったんです。約束の時間まであと少しの時間で私は来たんですけど、その時間まで佳江が来なくて・・・・・・。電話を何回掛けても全然出てくれなくて。佳江の自宅まで行ったら、ドアが開いていて。リビングまで行ったら、佳江が倒れていました。すぐそばまで駆け寄ったんですが、手首から血を流していました。だけど、私は佳江が自殺をするはず無い、そう思って誰かが殺したという口実を思わず作ってしまったんです。途中で思いとどまって、止めちゃいましたけど・・・・・・」

 そこまで言うと、女性は涙を流し始める。鴻ノ池はハンカチを女性に差し出す。

 女性の泣き声が、風鈴の音とこだました。

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