第35話 勇者ゼクトのやり直し② 奴隷商オルド商会




「流石元勇者だな…今日もワイバーンか?」


「まぁな」


結局俺にはこれしかない。


冒険者だ。


これでも俺はS級冒険者ではある。


竜種の群れと戦った時に感じた手ごたえ。


あそこで俺は少し成長したようだ。


ワイバーンや地竜なら狩れるという自信がついた。


竜を狩っていれば『ドラゴンスレイヤー』の称号が貰える。


セレスが持っている称号。


今の俺はまずは、そこを目標に頑張ろうと思う!


そう決めた。


だが問題は部屋だ…物凄く汚い。


足の踏み場もないとはこの事だ。


まるで汚部屋だ。


ガルバン帝国で活動し始めて1週間、早くも部屋が足の踏み場も無い程汚くなっている。


昔はセレスが小まめに掃除をしてくれていた。


三人の幼馴染も俺も掃除は下手だから…な。


今考えると、セレスはパーティとしてばかりでなく『嫁』の仕事もこなしていた。


勇者パーティに三人女は居た訳だが、彼奴らは殆ど何もしないし、出来ない。


実質4人の世話をセレスが1人でしていた。


セレスは家事にも精通していて料理も掃除も出来る。


稼げるだけじゃ無く家事も出来る。


母さんが女になるわけだ。


『仕事をしっかりこなし家事を手伝う優しい男』


それが村の女たちの理想の男だ。


『そんな女の理想みたいな奴はいない』


そう父さんと話していたが…例外が1人居たじゃないか。


セレスだ。


それはさておき、この状況をどうするべきか?


今の俺には部屋を掃除してくれる人間が必要だ。


ギルドの子供冒険者に頼むか、あるいは奴隷を買うかだ。


自分が仕事で居ない間、子供とはいえ、しょっちゅう出入りされるのは余りな…


そう考えたら『奴隷一択』しかないな。


◆◆◆


近くの奴隷商に来た。


ガルバン帝国には奴隷商は3つあり、どの奴隷商も帝国公認。


それ以外の奴隷商は無い。


もし裏で奴隷販売しようものなら牢屋行きだ。


俺が来たのはオルド商会。


3つの商会のうち一番安い奴隷を扱う商会だ。


ちなみに残り二つは一軒が貴族や王族が使うような高級店。


もう一軒は割と裕福な商人が使う店。


最も、それは線引きでなく『あくまでそういう金額設定』のお店というだけだ。


お金さえあれば、一番高級な奴隷店でも家事奴隷も購入は出来る。


ただ、目が飛び出る程高い。


俺の稼ぎなら高級店でも買う事は出来る。


だが、俺は『愛玩奴隷』が欲しいわけでない。


だからオルド商会で充分なんだ。


あくまで身の回りの世話をする人間が欲しいだけだ。


ただ、おばさんは駄目だ。


セレスと母さんを思い出して気持ち悪いからな。


「これは、これは勇者ゼクト様、当会には貴方に相応しい様な奴隷はいませんぞ」


此処は庶民的な奴隷専門店。


男なら犯罪奴隷や鉱山送りになるような価値の無い奴隷やただの村人みたいな戦力にならない者しかいない。


女なら所謂普通の女、家事奴隷になる様な存在しかいない。


まぁ、性処理に使える事は使えるが美人ではない。


そういう事だ。


「嫌味な奴だな…もう元だよ! 別に愛玩奴隷が欲しい訳じゃ無い! 家事奴隷だ…料理が出来て若けりゃそれで良い」


これなら大丈夫だろう。


「成程、それなら当店が適任ですな、私はてっきり3人と別れたものですから、そちらかと、言い過ぎですな…この店は2つに分かれていて左側の扉の奥が女性の奴隷の部屋です。ご自由にご見学下さって構いません」


「ありがとう」


俺は勧められるまま奴隷の部屋に入った。


やはり、安い奴隷の専門店だけあって環境は良くない。


臭いし、最低限のマナーである『話しかけてこない』は守っているが…逆に自分を売り込もうとさえしてこない。



酷いもんだな。


母さんが凄く良い女なんだと実感した。


こんな環境じゃ仕方ないのかも知れないが、ポリポリ尻を掻いたり、横になったままこちらを見てくる奴しか居ない。何となくやる気も無いのが解る。


しかも、高齢の女性が多く、殆どが母さんと同じ位かそれより高齢だ。


若い子が居ても、どうもピンとこない。


美人で無くても良いし、並みで充分。


そう思ったが、流石にこれは、難しい。


暫く見ていると急に奴隷商が声を掛けてきた。


「どうです? 気に入った方はいましたか?」


俺は正直に思った事を言った。


「そりゃ、そうですよ…此処はオルド商会です…他の国ならいざ知らず、帝国ではその用途に別れて、商会が仕切っているんですから」


「確かに…その通りみたいだな」


「はい、多少でも見栄えが良い奴隷が欲しいならゼス商会に行かれたら良いかと思いますよ、更に上ならエース商会がお勧めです」


この辺りはしっかりとお互いに決まっているのかも知れない。


「確かにそうかもな」



俺は勇者だから、気配を察知するのは常人よりかなり上だ。


奥の部屋から息遣いが聞こえる。


「所で、奥の部屋にも人がいるようだが、あそこに居るのは売り物じゃないのか?」


「ああっ、あそこでございますか? 廃棄する奴隷がいますが、気になるなら見ますか? かなり気持ち悪いですが」


気持ち悪いのか…まぁ見世物感覚で見させて貰うか。


「一応、見させて貰おうか」


その部屋に居たのは…簡単に言うなら真っ白な少女だった。


セレスの白銀とは違い本当の白髪に真っ白な肌…色白な肌は綺麗と言うが、そんな物じゃない…本当の真っ白、雪みたいな白い肌だ。


そして彼女の眼は真っ赤だった。


「これは…まさか人間なのか?」


「少し前までは半魔と呼ばれていて魔物と人間のハーフなのではとか言われていましたが…最近のアカデミーの話ではアルビノと言って色素が少ない人間という事が解かったそうです。ですが、その村では未だに半魔という話が根強く残っていてまして、処分を頼まれたのです。最初に言っておきますが、奴隷商にとっての処分は=鉱山送りで殺す事ではありません。ですが体も弱く日焼けにも弱いらしいので値段はつかない品です」


髪と体が白いのと目が赤いのを除けば、美少女と言えなくもない。


「少し話しても?」


「構いませんよ」


「初めまして…」


「初めまして…冷やかしはお断りよ!」


「話がしたいだけだ…客だ!」


「どうせ、私が化け物みたいだとかいうのでしょう? だから話す意味は無いわ!優しく話しても冷たく話しても、私を嫌うのは皆同じ…だから、私は冷たく話すのよ!貴方も同じで買わないでしょう?」


マリアはスレンダーで結構痩せていたが、それより痩せている。


背はメルよりは少し高い位。


恐らく真面に食事を貰っていなかったのか『やせっぽち』というのが一番近い印象だ。


それより、気になるのが彼女の雰囲気が『何もかも諦めた目』をしている。


なんだか、少し前の俺に似ている。


まるでマモンに捕まっていた時の俺みたいな目だ。


「なら、俺が買ってやれば、優しい対応をしてくれるのか?」


「はぁ?!馬鹿なの? こんな化け物買うの?冗談でしょう? いい加減にしないと怒るわよ!」


俺の周りは静かな奴ばかりだった。


この位騒がしい奴の方が良いかも知れないな。


「この子買うよ…それで幾らだ」


安いのは確実だ。


金額を聞く必要は無いだろう。


「値段は銀貨5枚(約5万円)です、帝国は奴隷の値段の下限は決まっていて銀貨5枚以下には出来ない決まりです。あと奴隷紋の刻み賃が銀貨3枚ですので合計銀貨8枚です」


安いな。


これで汚部屋から解放されるなら充分だ。


「良し、買った」


「ありがとうございます」


「貴方…本当に私を買うの? 物好きね!」


これで少しは健康的な生活が送れる筈だ…良かった。















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