第19話 勇者VS竜 ②

爆煙をまき散らし無数の竜たちが来る。


俺は聖剣デオルフを抜いた。


聖剣は俺の期待に応える様に青く輝きだした。


勇者とは勇ましい者の事を言う。


剣を使えば剣聖に負ける。


魔法を使えば賢者に敵わない。


回復魔法は聖女に敵わない。


だが、勇者の俺にだけある物がある。


それは『勇気』だ。


どんな強敵も恐れない心を持つ者、それがこの俺勇者だ。


仲間に希望を与え敵には絶望を与える存在、それがこの俺勇者だ。


「うおぉぉぉぉー―――――――っ」


俺は風の様に走り出し、1人竜の群れに突っ込んだ。


素早く突っ込み、聖剣を振るい先頭を走る地竜を斬り伏せた。


そして、その地竜を踏み台にし、空に飛びあがり、ワイバーンを勢いのまま斬った。


だが、落ちてきた俺をそのまま岩竜が飲み込む、だがそれで俺は終わらない。


岩竜の喉を切り裂き、血にまみれながら俺は再び竜の大群に聖剣を構えた。


だが…その時俺が見た物は…


◆◆◆


俺は目を疑った。


「うわぁぁぁぁー――来ないで、来ないでくれー――ー-っ」


リダ?


一体彼奴は何をしているんだ?


何時も横を駆け抜け風の様に敵を斬り伏せる『剣聖リダ』


それがまるで子供の様に泣き叫んでいた。


その美しい剣技がなりを潜めただ棒を振る子供のように結界の中で剣を振るっていた。


俺は目を疑った。


だがそれだけでは無かった。


その横でひたすらマリアが…


「ホーリーウオール、ホーリーウオール、ホーリーウオール、ホーリーウオール、ホーリーウオーー――ル」


まるで狂ったように結界魔法の呪文を唱えている。


しっかりと結界ははれている、重ね掛け等本来は不要だ。


「たたた、助けてー――もう嫌だよ、怖いよー-っ助けてー――っ」


恐らく焦げているから数発は魔法は撃ったのだろう…傍に地竜が1体倒れていた。


マリアのはった結界の中で、三人が泣き叫んでいた。


如何に竜とてマリアの結界呪文を簡単に壊せるわけはない。


実際に、攻撃出来ないと見ると、避けて進軍していく。


嘘だろう。


誰も俺に続かない。


なんだよ、これ?



これが…俺のパーティ?


嘘だよな…


孤立無援のなか、数体の竜を倒した俺も限界が近づいてきた。


「ハァハァもう駄目だ」


どれだけの竜を葬ったのだろうか、目がかすれ、手足に力が入らない。


マリアが回復呪文を唱えてくれれば、メルが支援魔法を使ってくれればまだ、戦える。


だが、泣き喚いているあいつ等に、頼むのは無理だ。


そのまま、俺は横の茂みに飛び込み意識を手放した。


◆◆◆


どの位時間がたったのだろうか?


すっかり夜になり空には月が昇っていた。


そうだ…三人は…傍に居た。


マリアのはった結界の中で狂ったように『助けて』を連呼していた。


もう辺りに竜は居ない。


この様子では恐らく竜種が通り抜けて数時間は余裕で経っている筈だ。


「おい、リダ、マリア、メル….」


「「「いやぁぁぁぁー-っ」」」


結界の中でひたすら泣き叫ぶ三人にどうやら俺の声は聞こえないようだ。


結界の中に居る限り、三人は大丈夫だ。


そのまま大都市ブシヤの方に俺はゆっくりと歩き出した。


そこは地獄が広がっていた。


その光景は余りにもひどく俺は吐いた。


「うぷっ…うげええぇぇぇぇー-っ」


見渡す限りの場所に死体が所狭しと転がっている。


炎で焼かれ顔すら解らない者。


体が食いちぎられ下半身が無い者。


真面な体の死体など殆ど無い…


一言で言うなら『無残』その一言に尽きる。


そのまま、歩いていくとブシヤが見えてきた。


都市は破壊尽くされ、至る所から炎が上がっている。


もう、都市としては機能していないだろう。


入口付近には騎士団や冒険者、疲弊した兵士が居た。


その中から、ギルドマスターのブランが人々をかき分け出てきた。


「ゼクト…領主のブヤン伯爵は死んだよ…アミルもな」


「そうか…」


その知らせを聞いていると頭に痛みを感じた。


石? 俺にだれが投げつけたんだ。


目で追った先には泣いている子供が居た。


「僕の母さんを返せー――っお前なんて勇者じゃない悪魔だー――っ」


「痛っ、なんで石なんて投げるんだー――っ、この糞ガキがぁぁぁー-っ」


俺は、お前達の為に戦ったんだぞ…なんでだよ。


「待て、こんな奴でも勇者だ、止めるんだ」


こんな奴でも?


俺が何をしたっていうんだ。


「でも…」


「やめるんだ」


「…」


なんでだ、なんでそんな目で俺を見る。


憎しみの籠った顔で俺を見るんだ。


「なぁ、ゼクト…お前に聞きたい…何故戦う選択をしたんだ」


そんなの解りきっているだろう?


「相手は竜種だ、戦うしかないだろう」


「その竜達だが、今こちらで調べた所、逃げ出している途中だったとの事だぜ。今更だが、一旦この都市を全員で離れ非難して、1日後に戻れば、通過した場所は破壊されたかも知れないが、死人は1人も出なかった可能性が高い」


そんなの俺は知らない。


「だが、教会から俺は…」


「教会に聞いたよ。教会は戦えなんて言っていないとよ!ふざけんな糞野郎―――っ」


嘘だ…教会は俺に…


思い出せ…なんて俺は言われた…?


何て言っていた?


確かに倒せと聞いた…違うのか?


思い出せ…正確に。


ああっ…あああああっー-


『竜の進行先には大都市ブシヤがあります、貴方達が止めるか逸らすかしないと、その都市の人間が死ぬ事になります』


『倒せ』なんて言っていない…


『止めるか逸らすか』そう言っていたんだ…


正面切って戦えなんて誰も言ってなかった。


そんな重要な事を俺は聞き逃していたんだ…


「まぁ良いや!お前は勇者だ!だが、もうブシヤには来るな!お前に悪意は無いのだろう!泣いている、その顔を見れば解かる。だが身内が死んだ人間は納得は出来ねー――んだよ…なぁ、俺だって懸命に抑えているんだ。妻と子が死んだ…早く行ってくれ、そして二度と此処にくるな!」


「すまない…」


俺はその場から立ち去るしか無かった。


◆◆◆


三人の所に来た…


マリアは結界をはり続け、今も三人は泣き叫んでいる。


「いい気なもんだな…お前ら…いい加減結界を解きやがれー――っ」


俺は結界を殴りつけた。


拳から血が出てきたが構わねーよ。


「行くぞ!ほら行くぞ、早く結界を解けよー――っ解けー-っ馬鹿野郎」


骨が砕けるのもお構いなしに俺は殴り続けた。


そんな俺達を月がただただ照らしていた。


◆◆◆


勇者パーティとは言えこの間までは只の『村娘』だった。


そんな存在にこの恐怖に立ち向かえと言うのは酷なのかも知れない。


もし、あと1年先でこの様な事に遭遇したのであれば違ったのかも知れない。


今はまだゼクト達には経験が足らなすぎた。


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