第18話 勇者V竜 ①
通信水晶が光り輝いた。
不味いな、これは聖教国からの緊急連絡!
セレスが抜けてから不調が続き、連れ戻す事を願い出た。
だが、それは叶わず、聖教国が直接動いてくれる事になった。
もしかしたら、その連絡かもしれない。
きっと何か進展があったのかも知れない。
「はい!」
「ゼクト殿、ロマリス教皇様からの『お願い』を伝える」
お願いだと?セレスの事ではないのか?
一応、勇者は女神の使いとされているから『お願い』だが、これは命令『お願い』を断る事は実質出来ない。
そして、そのお願いは大変な事が多い。
「ローアンヌ大司教、お願いですか? 勿論、俺が教皇様の『お願い』を断る事などありません、安心して是非内容をお教え下さい」
「よくぞ申された」
嘘だろう、信じられない。
ローアンヌ大司教の話では、無数の竜が俺たちの方に後ろから押し寄せてきているそうだ。
その竜をやり過ごすのではなく、討伐しろ。
簡単に言えば、そういう無茶な内容だった。
「なぜ、そう言うことが起きているのですか? 竜が大量に移動するなど、今迄は聞いたことはありません。一体何が起きているのですか!」
「王国周辺で、英雄となられたセレス殿が、大量の竜を狩った。そういう報告が来ています。これはあくまで、噂ですが竜がセレス殿に狩られて、恐怖し逃げ出した。その結果、この様な事が起きている。まぁ眉唾ですがその様に言われています」
幾らセレスでも、それは無いな。
ガセネタで間違いが無い。
確かに彼奴なら竜は狩れるし、実際に竜を狩った事もある。
だが、竜が人を恐れる。
そんな事があるわけない。
一体どれ程の竜を狩ればそんな事が起きるんだ。
幾らセレスでもそんな数の竜は狩らないだろう。
「確かにセレスは凄い奴だが、流石にそれは無い」
「『確かに竜が恐れる』これは嘘の可能性が高いですが、セレス殿が大量の竜を狩った。これは事実です。竜が活性化しているこれも事実。そして、貴方達の背後から沢山の竜が迫っている、これも事実です。竜の進行先には大都市ブシヤがあります。貴方達が止めるか逸らすかしないと、その都市の人間が沢山死ぬ事になります…ご武運をお祈りします」
そんな嘘だろう!
今の俺たちは調子が悪い、どう考えても群れを成した竜など相手に出来ない。
嫌、本調子で、此処にセレスが居ても対処等出来る筈もない。
「流石の我々でも、そんな大量の竜等、相手に等出来るわけが無い」
「幾ら私でも1体なら兎も角、複数の竜等相手に出来ないな」
「攻撃魔法だって限りがあるよ」
「私は回復魔法専門、実質3人でそんな複数の竜種の相手は無理よ」
「そうでしょうか? 貴方達は『英雄』セレス殿を理由は兎も角追い出した。その人間が倒せた存在を倒せないのは問題では無いですか? それに果たして、あの『英雄』が同じ状況で出来ない等と言うでしょうか? 本当に出来ない事だとしても『ベストを尽くします』そう言う筈です。少なくとも、彼が居た時の貴方達は弱音等吐いたことは無かった」
確かにそうだ。
セレスがなんだかの作戦を立てて何度も窮地から救われた事はある。
だが、幾らセレスでもこの状況をどうにか出来るとは思えない。
「幾らセレスでもこの状況をどうにか出来るとは思えない」
「ハァ~これは言うかどうか迷ったのですが、今迄の勇者パーティの手柄は『全部セレス殿一人でたてた物を勇者パーティが横取りした』そういう者も多く居ます。私は貴方達がそんな事をしていない、そう信じていますが、セレス殿が勇者パーティを抜けた後の貴方達とセレス殿の手柄を比べたら、あながち嘘とも言い切れない」
「ですが…」
「自分達だけで無理なら『大都市ブシヤ』の領主と連携をしたり、冒険者ギルドや教会に行き力を借りて対処するのが当たり前では無いですか? 貴方は『勇者』なんですよ?何の為の特権なんですか?騎士団を借りる権利もあるし、貴族や教会に力を借りる権利もある。まさかと思いますが、それらを全部セレス殿に押し付けていたのですか?」
そうかセレスはそう言う事迄こなしていたのか…
「そんなことは無い」
「それなら良かった。良いですか?今回の危機は、沢山の命に係わる話です。直ぐに行動お願いします」
「解った」
◆◆◆
「なんだよ! この中に助力について知っている奴はいるか?」
「私、セレスの付き合いで教会に力を借りるのに同席したわ。その時は戦力じゃなくて特殊な薬草の援助だったけど」
「そういえば、私は前にセレスに付き添いで、貴族の館に行った事があるよ」
なら話は早い。
「マリアは教会、メルは領主、リダは冒険者ギルド、それぞれ手分けして助力を仰いでくれ。俺はメルと一緒に領主の所に行く」
「「「了解」」」
此処を踏ん張れば、きっと何かが変わる。
この時の俺はそう思っていた。
勇者だから直ぐに領主は会ってくれた。
「勇者ゼクト殿、賢者メル殿、事情は解った。騎士団も一般兵も好きなだけ貸そう。それでどれだけの騎士を出せば良い? 帯剣かそれとも槍を持たすのか? 兵の数は? 作戦は?」
俺には何の事か解らない。
「メル、お前に任せる」
メルの顔が真っ青になった。
多分、メルだって解らない。
すまない。
「ええと騎士は3万位? 槍を…」
領主の顔が落胆した顔に変わったのが解る。
「はぁ~都市とはいえ王都じゃ無いんですよ?騎士なんて千も居ませんよ。兵を全部集めて、冒険者まで動員しても精々が5千位です。もしかしたらゼクト殿たちは、指揮の経験は無いのですか?」
指揮?駄目だ。
そんな事を俺はした事が無い。
セレスに言われた事がある『本』を読めと。
戦略は勿論、マナー等について学べと言われた。
だが俺はそれをしなかった。
結局俺達の中で指揮が取れる存在が居なかったので、騎士団の指揮はブヤン伯爵。
教会の部隊は司教であり聖騎士の資格を持つアミル。
冒険者はギルドマスターのブランが指揮をとる事になった。
俺達は、彼らが戦う前に数を減らす先陣を受け持つことになった。
◆◆◆
「ゼクト、無茶だ!他の皆と一緒に戦おう」
「リダ、俺にだって意地がある!この先陣だけは譲れない!」
「「ゼクト」」
遠くの方から土煙が上がった。
暴走した竜たちが俺達の傍まで迫ってきていた。
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