第17話 セレスSIDE ギルド婚と過保護


俺は静子さんと一緒に冒険者ギルドに行った。


何か起きた時に連絡が取りやすくする為に静子さんの冒険者登録とパーティ申請をする為だ。


「これはセレス様、今日はどういったご用件でしょうか?」


こういう所はSランク、待たずに応対して貰えるから得だ。


「冒険者の登録とパーティ申請をお願いしたい」


「そちらの女性とですか? 失礼ながらもうロートルも良い所じゃないですか? セレス様ならもっと」


静子さんの顔がドス黒い顔になった気がした。


「うふふっ、確かにもうおばさんですわね…ですがセレスくんと組むなら、そうね『元の方が良いわ』登録じゃなくて資格復活申請の方にするわ」


「静子さん、冒険者だったんですか?」


「ええっ、だけどその事は元の旦那も息子のゼクトを知らないわ、結婚する時には辞めていたからね、まぁ二人ともプライドの塊だから黙っていたのよ」


「そうですか? なら此方に少し血を頂けますか? まさか血液登録のないDランク以下って訳じゃないですよね!」


「うふふっ調べて見れば解るわよ」


「はぁ~」


何だか溜息をついていて態度が良くない気がする。


流石は静子さん、こんな状況でもニコニコしている。


血液を採り、暫く待った



「それで私の復活申請は大丈夫かしら?」


「嘘ですよね!『黒髪の癒し手』...だなんて」


え~と何それ!


「『黒髪の癒し手』って何? 」


どこかで聞いた気がする。


「セレス様、静子様...大変失礼しました!静子様は元A級冒険者で、まさか回復師(ヒーラー)として右に出る者は居なかった『黒髪の癒し手』の字をお持ちの凄腕の方でした、本当に失礼しました。同じA級として再登録させて頂きますのでお許し下さい」


「うふふっ構わないわ」


「本当にすみませんでした。」


静子さんの復活申請は簡単にすんだんだが、此処で問題が起きた。


どうやら、俺はまだ勇者パーティに籍があるようだ。


「勇者であるゼクトと話して円満離団となった筈なんだが」


「ギルド側としましては、リーダのゼクト様とセレス様の両者の署名の離団届けが出されていませんので、そのまま籍が残っていますね、口座管理は別だし、干渉は無い感じですから、別にそのままでも良いんじゃないですか? 弊害は無いでしょう?」


「弊害が無いなら別に構わないよ、多分ゼクトと会う事も無い可能性があるんだけど、それでも問題は無い?」


「この状況なら全く問題は無いですね」


「ですが俺、静子さんとパーティを組む予定なのですが問題はありませんか?」


「ちょっと待って下さい!  問題無いですね…『希望の灯』の別動隊扱いになってますよ、特に問題はなく別動隊としてパーティは組めます」


「それだと、静子さんの扱いはどうなるのですか? ゼクトと話をする必要がありますか?」


「別動隊のリーダーはセレス様だから問題はありませんね、公の肩書としては『希望の灯別動隊 リーダー セレス』『希望の灯別動隊 メンバー 静子』となります」


そうなると、勇者パーティの特権は残る事になるのか。


「勇者パーティの特権はどうなりますか?」


「勇者パーティの特権はそもそも、一度でも所属すれば、そのまま通用します! 通常は勇者パーティから抜ける時は、死ぬか、戦えなくなる時です。そんな方から特権を奪う事など国もギルドもしません」


確かに五体満足で勇者パーティを抜ける存在なんてまず居ないよな。


「それだと私も勇者パーティ所属となるのかしら?」


「正確には別動隊の所属ですね、本隊とは関係なく、セレス様の部下という扱いが一番近いかも知れません」


「ゼクト達の近況について情報はありますか?」


「ゼクト様が亜竜のワイバーン、リダ様が同じくワイバーンを単独で狩って持ち込んだ。そういう情報ならありますよ」


「へぇ~あのゼクトがワイバーンをね、少しはやる様になったじゃない」


「幾ら親しくても相手は勇者様です『様』をつけた方が良いですよ!遊撃隊扱いなのですから」


「静子さんはゼクトの母親なんだ、だから構わないと思うんだが、どうかな?」


「勇者様のお母さまでいらっしゃいますか? 重ね重ね失礼しました!はい? ですが静子様はセレス様の奴隷ですよね?」


受付嬢のお姉さんがペンを落とした。


「そうね、うふふふっ恥ずかしいけど、恋人でもあるわ」


「セレス様…これはどういう事でしょうか?」


今日会ったばかりの受付のお姉さんに、なんで話さないといけないのか?


そう思ったが、此処迄話したならしっかり説明した方が良いだろうな。


仕方なく、今迄の経緯を話した。



「その親父、女の敵ですね! 事情は解りました。ギルドとして何か出来る訳じゃありませんが、記録にしっかり残して置きます。それでですね、二人に提案があるのですがそういう仲なら『ギルド婚』なさいませんか?」


「そんな、私、おばさんなのに恥ずかしいわ」


静子さんは知っているらしい。


顔を真っ赤にしてクネクネしている。


可愛いからいいんだけど。


だけど、ギルド婚ってなんだ?


「ギルド婚って何でしょうか?」


「結婚の事ですよ!ギルドに『結婚しています』そういう届けを出すシステムですね、結婚と言えば教会が主流ですが、最近では利便性から冒険者の方はこちらを選ぶことも多いです、何かあった時の連絡や口座の管理も凄く便利になりますよ」


静子さんは顔を真っ赤にしているし、もう既にお嫁さんにしたつもりだから、けじめとして良いかも知れないな。


要は前世でいう『籍を入れる』のと同じような気がする。


「静子さんさえ良ければ『ギルド婚』しないか?」


「あの、本当に良いの? かなり私は年上だし、これは正式の物なのよ、後悔しない?」


「後悔なんてしないよ! 先に好きになったのは俺だから!」


「そうね、うん、私とギルド婚して下さい」


「喜んで」


勢いで結婚してしまったが、まぁ別に良いよな。


「おめでとうございます! 心から祝福します。それで登録料としまして銀貨2枚頂きます、それとお揃いのリングは如何ですか?いま冒険者の間では流行りなんです。こちらはペアで金貨1枚です」


前世で言う結婚指輪だな。


商魂たくましいな。


静子さんが欲しそうにしているから良いか。


「それじゃリングも貰おうかな」


「ありがとうございます、それじゃお互いに付けてあげて下さいね」


おずおずとお互いに手を出し合ってリングを嵌めた。


簡単な魔法が掛かっているのかリングは丁度良い大きさに自動的に変わった。


「おめでとうございます、それではこちらの書類にサインをお願いします」


「それじゃ俺から書くね、はい」


「それじゃ今度は私ね」


お互いにサインをすると『結婚』した。


そんな気がこみ上げてきた。


何故か酒場や受付している冒険者が無言でこちらを見ている。


何故だ?


「もし宜しければ、酒場で皆さんに奢ってあげては如何ですか? エール一杯奢る位で、皆さんから祝福して貰えますよ!銀貨5枚です」


この受付嬢、本当に商売がうまいな。


静子さんが喜んでいるんだから断れないだろう。


良いやトコトンやってやる。


「みんな~!俺はエール1杯なんてケチな事は言わないぞ!今日一日好きなだけ飲んでくれ、金貨5枚置いていくからな!お姉さん頼むよ」


「皆、セレス様と静子様のおごりだよ~今日は貸しきりだ祝ってやってあげて~」


「「「「「「「「「「おめでとう」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「幸せに成れよ~この色男っ」」」」」」」」」」


「「「「「「「「「「「静子さん、セレスさんご結婚おめでとうございます」」」」」」」」」」


皆に祝福されながらギルドを後にした。


受付嬢に乗せられてしまったが、腕を絡めている静子さんが嬉しそうだから…うん安い物だ。




◆◆◆


「セレスくん!いい加減私にも働かせてよ!」


とうとう静子さんに言われてしまった。


前世の記憶持ちの俺としては静子さんに専業主婦をしていて貰いたかったんだけどな。


まぁ、そろそろ良いか、準備は整っているから。


「別に構わないよ…それじゃ今日は装備を取りに行って、明日から狩りに一緒にいこうか?」


準備も整ったし、そろそろ良いかも知れないな。


「セレスくん…良いの?」


まぁ準備が出来たから構わないな。


◆◆◆


武器屋に来た。


「セレスくん!この装備は一体」


「この装備は『女神の癒しの杖』のレプリカに水霊の羽衣…本当は杖も本物が欲しかったけど、流石に手に入らなかったからミスリルで作って貰ったんだ、一応王都一の名工に作らせたから、かなり本物に近い筈だよ」


幾らA級とはいえ、結婚して村人生活をしていたんだからブランクがあるかも知れない、調子を戻すまで時間が掛かる。かといってゴブリン辺りからスタートしたんじゃ、静子さんの名誉に関わる。


そう考えたら、最低でもオークやオーガからスタートしないとならない。


足元を掬われない様に、そのギャップを埋める装備が必要。


俺はそう考えたんだ。


それを埋める装備を作る時間が欲しかった。


静子さんの性格からして、そろそろ限界が近い、そう考えていた。


「セレスくん…この装備、まさか魔王と戦うとか言いませんよね?」


「ブランクもある事だし、無理をしないでオーク位から始めない?幸いお金には余裕があるし、ゆっくりで良いんじゃないかな? 個人的には大きな目標なんて要らないから『楽しく暮らす』それは目標にしたい」


「『楽しく暮らす』セレスくん、それ凄く良いわ!」


「それじゃ、明日からは一緒に狩りに行こう」


「うん」


装備も整ったし、もう安全も確保した。


これなら一緒に狩りに出かけても何も問題ない。


◆◆◆


「王都周辺の竜種が狩り尽くされているだと!それはまさか…」


「はっ! セレス殿が理由は解りませんが狩りまくっていたようです」


「報告を…」


何だ…この戦歴は…


火竜の上位種である炎竜が6体…1体だけでも騎士団の大隊が必要なのに…それを6体。


地竜の上位種の岩竜が4体…


水竜の上位種の水氷竜が3体…


風竜の上位種の風王竜が5体…


そして、通常の竜種やワイバーンを狩った数は百を超える。


最早この近辺で竜種を見ることは殆どないらしい。


「それをたった1人でセレス殿が行った…そう言うことかの…それで…」


「はい…もう王都周辺には竜種はおりません。狩られるのを恐れたのか竜種が逃げだし、竜その物を見ることも無い、そう聞いております」


なんだ、その強さは…一体倒せば『ドラゴンスレイヤー』の勲章が貰える。その竜種を狩り尽くす…存在。


本当に4職より劣るのか?


こんな存在が勇者や魔王に劣るのか?


そんな訳あるか!


余には信じらない。


「オータよ…余は頭が可笑しくなったのか…勇者より魔王よりもセレス殿の方が強い…そう思えてならぬ」


「今後は解りませんが…今現在の戦力で言うなら、勇者たちは単独でワイバーンを狩れる程度。しかも、最近は不調でオーガキングに苦戦しているという話も聞いております。そこから一つの悪い噂がございます」


「噂じゃと」


「はい、実は勇者パーティは本当は弱く、その実績の全てがセレス殿の手柄なのではないか? そういう噂でございます」


「流石にそれは無かろう」


「ですが、前はワイバーンを狩れた存在がオーガキングに苦戦しているその事実があります、時期的には、弱くなったのはセレス殿が外れてからでございます」


セレス殿を獲得する。


それ以上の優先事項は無いのかも知れぬ。



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