第16話 知らない幼馴染

「ゼクト、このままでは絶対不味い!いかなる犠牲を払おうとセレスに戻って貰おう!」


リダが切羽詰まった顔で俺に詰め寄ってきた。


それは俺も充分解っている。


だがどうしろ?と言うんだ。


「だが、それには教会を説得しなければならない!それは、何かと立場的に不味い」


「もう体裁なんて気にしていられない!二人じゃ後衛のマリアやメルを充分に守りきれない。このままじゃ近いうちにマリアかメルどちらかを失うかもしれない。そうなればもう詰みだ、私のせいにして良いから、この通り頼む!」


そう言うとリダは俺に深々と頭を下げた。


「私からもお願いするわ」


「このままじゃもう無理だよ」


リダに続いてマリアにメルも俺に頭を下げた。


俺にもそれは解る。


三人が頭を下げなくても痛いほどにセレスが必要なのは解る。


攻撃をするのが勇者の俺と剣聖のリダ、後ろから魔法で支援するのが聖女のマリアに賢者のメルだ。


今迄はセレスが後衛の二人を守ってくれていたから、俺とリダが周りを気にせず思いっきり戦えた、そしてマリアとメルも周りを一切気にせず魔法が使えた。


だが、今はどうだ!


二人が魔法を使う間、俺かリダが守らないといけない。


その為二人分の攻撃が一人分になり敵に充分な攻撃が出来ない。


更にリダも俺も守る事に慣れていないから、手薄になりがちだ。


この間などは、オークアーチャーの矢がメルとマリアに刺さった。


幸い致命傷ではなく、マリアのハイヒールで事なきを得たが、急所に当たっていたら最悪失っていたかも知れない。


他の人間を入れたりもしてみたが…役には立たない。


セレス程強く、俺達の事を知って連携を取れる存在など居ない。


他の人間では連携が上手く取れず、メルの魔法の邪魔やマリアの回復の邪魔になり全く使えなかった。


今となってセレスの重要性が良く解るようになった。


俺達の状況を見ながら前衛に加わったり、危ないと思ったら後衛の防御に入る。


彼奴こそが、冒険者にも滅多に居ないオールラウンダ―だった。


しかも幼馴染だから、俺たちの癖や行動パターンも全部知っている。


まさに『俺達の為に存在する仲間』それがセレスだった。


冒険者ギルドや教会で聞いても、それが出来そうな存在は何処にも居なかった。


もし、同じような存在が居ても、俺達とセレスのような連携が取れるまで何年掛かるか解らない。


そんな事を今になって知った。


だが、更に先に進んでしまった俺達が、引き返す事を教会や王国が許してくれるだろうか?


答えはノーだ。


戦果も碌に上げていない俺達の我儘を許すわけが無い。


◆◆◆


「どうしても、セレス殿を連れ戻したいと言うのですか?」


前に他の教会では命がけで司祭やシスターに止められた。


此処でも、きっと止められる。


「皆…」


俺は三人に目配せをした。


「「「うん」」」


例え、土下座をしようが絶対に引かない決意だ。


「その件なら、教皇様から通信が入っております」


「ロマリス教皇様から?」


なにやら様子が可笑しい。


教皇からの通信等まず来ない。


「はい、勇者様が来られたら繋ぐように言われております」


教皇様となど、此処の所活躍が出来てないから、話したくないな。


だが教皇様からの連絡はバックれる訳にいかねー。


「解りました」


渋々、俺は通信水晶に出た。


「勇者ゼクトよ久しぶりですね…最近活躍が芳しくないと聞きましたが、やはりそれはセレス殿の影響でしょうか?」


教皇様の耳まで入っているのか?


誤魔化しは効かないな。


「はい、その通りでございます。セレスの影響です。彼奴は俺達にとって必要な戦力だったんです、彼奴が居ないと、連携が上手くいかない、そんな貴重な存在を俺は、自分のエゴの為に手放してしまった」


「私達にはセレスが必要なんです!」


「教皇様、セレスを連れ戻す許可をお願いします!」


「どうかお許し下さい」


此処は引くわけにいかない。


「うむ、セレス殿は大した存在だと私も聞き及んでおります。ですがそう簡単に連れ戻せるのでしょうか?」


「それはどういう意味でしょうか?」


「セレス殿の今迄の活躍に対してザマール王国が正式に『英雄』の称号を授与しました。そして今後の活躍次第じゃ、第一王女マリアーヌとの婚約や貴族の地位を約束したという話を国王自らが私に報告してきました」


「「「「「それは…まさか…」」」」


「ザマール王国において、セレス殿は四職、いや勇者と同等に扱う、そう言うことです。それだけじゃなく『追放した者に対し籍をそのままにして別動隊扱いのままに捻じ曲げているのはどういうことだ』そういう抗議がきています」


「それじゃ、もう連れ戻す事は無理!そういう事ですか?」


「いや、そうは言わないですが、恐らくこれが最初で最後のチャンスになる、そう思って良いでしょう。頑張って下さい!」


そうか、もう差し出せる物を全部差し出してでも戻って貰うしか無い。


「それでは、セレスを迎いにいく事はお許し頂けるのですか?」


「教会としても聖教国ガンダルとしても竜種を楽に狩る、セレス殿は必要な戦力です。魔王討伐にも必要な存在、是非連れ戻して下さい」


「「「「はい」」」」


「それでですが、こちらからの支援ですが、『先の聖女セシリア様』との婚約を活躍次第で考えるという事、聖教国においても活躍次第で爵位を与える。この二つを交渉の材料にして下さい」


聖教国から、俺達は爵位は貰えない。


勇者や四職が既に宗教国家において爵位並みに地位が保証されているからだ。


実際の権力は教皇様より下だが建前上は『女神の使い』として同等以上に扱われる。


だが、一つ気になる事がある。


『セシリア様』だ。確かにセシリア様は『女神の生まれ変わり』と言われ、金髪の物凄い美女で、各国の王や貴族が取り合ったと聞いた。その争いを憂いたセシリア様は恋を捨て、誰とも添い遂げないと修道女になった。確かに誰もが知る『世界の三大美女』と言われていた。


だが、それは大昔の話だ。今となっては20代後半、誰も見向きもしない年齢だ。


※この世界の寿命は50歳から60歳位を想定しています。


そんな年齢の女性、幾ら元美人でも持参金でも貰わなければ貰う気になれない筈だ。俺の母親に近い歳なんだからな。


「爵位は兎も角、何故、セシリア様なのでしょうか? 確かに高貴な方ですが、自分の母親に近い歳の人間を婚約者に貰っても馬鹿にされた。そうとられますよ?俺なら持参金でも貰わなくちゃ…」


なんだ、急に教皇様の顔が曇った。


「もう良いです!貴方達ではきっとセレス殿を連れ帰る事は出来ないでしょう!本当に幼馴染なのでしょうか?」


「俺は小さい頃からセレスと過ごしてきました。彼奴の事は誰よりも知っています」


「私だって同じです」


「私も」


「私もです」


「それでは、何故4人とも彼がどの様な女性を好むか知らないのですか? はぁ~此処迄人間関係が希薄だとはガッカリです。交渉は教会、聖教国で行いますから旅を続けて下さい。貴方達よりは我々の方が余程セレス殿を把握しています、セレス殿の事は我々に任せて旅をお続け下さい」


教会が『セレスの何を知っている』って言うんだ。


だが、そんな事を俺たちは言えない。


「「「「お願いします」」」」


それしか俺たちは言えなかった。


◆◆◆


勇者であるゼクト殿はセレス殿の事を何も把握していなかった。


小さい頃からの幼馴染で、友達であれば『異性の好み』位は把握していて当然でしょうに…


母親を幼い頃に亡くしたセレス殿は、恋人に母性を求める。


『母親程歳が離れた女性』それを好むという情報を聞きました。


それすら解らない友人等、私には考えられません。


王国に出遅れましたが、こちらも交渉に出ないとまずいですね


『英雄』と言われるその力失うには惜しいですから。



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