第15話 【閑話】王国SIDE 英雄

「オータよ、その後のセレス殿の様子はどんな感じだ!」


「はっ! 最近は、王都を拠点に冒険者として活躍しております」


これは凄く都合が良い…王都に居るのであれば…呼び出して会う事も可能だ。


「そう言えば、最近、大量のワイバーンや竜種の素材が出回っていると聞くが、それはもしや…」


「その殆どはセレス殿が狩っていると思われます」


本当に欲しい…このまま王都に住み着いてくれれば、それだけで経済効果が高い。



近くのワイバーンや竜種を狩ってくれるだけでも流通は安全になり、貴重な素材が出回るから、良い事ばかりだ。


「やはり、セレス殿は優秀じゃな、それでまだ追放にはなってないのか?」


「はっ、未だに籍はそのままのようです」


「そうか…外れた瞬間が勝負じゃ…引き続き気に留めて置くように」


折角、勇者達との切り離しに成功したのに…思うようにいかぬものじゃ。


「はっ…それで、もしこの先接触する機会があった場合どのように交渉を」


「それが問題なのじゃ…金銭という事であれば、セレス殿は既にかなりの財産を得ておる、爵位という事であれば、まだ勇者のゼクトにも与えていない以上体面的に授ける事は出来ぬ、婚姻もマリンを勇者ゼクトの婚約者候補にしてしまったから適齢期の者が親族におらぬ…」


「王よ…それなら、第一王女のマリアーヌ様がいらっしゃるでは無いですか?」


「オータよマリアーヌはバルダ国に嫁いで国が滅びた故に戻った、いわば出戻りじゃ、しかももう年齢も28歳…褒賞どころか、もし縁談があるなら、持参金を払う必要すらある身じゃ…どう考えても15歳位のセレス殿じゃ無理じゃ…お前も知っておるだろうが!」


何を考えておるのじゃ、見方によっては押し付けた様にみえるじゃないか…


「それが、今現在、セレス殿には大切にしている恋人がおりますが、マリアーヌ様より年上でございます!」


「本当か?」


「はっ」


マリアーヌはもう良い歳で出戻りじゃが、元は王国の宝とも言われた美女だ…あの歳の女で良いなら、我が娘ながら器量よしじゃ…さらに第一王女地位はマリンより上じゃ…問題は無い。


「そうか…ならば、交渉にマリアーヌとの婚約も盛り込むのもありじゃな」


これは良い縁談になるやもしれぬな。


◆◆◆


「お父様、私に何かようでしょうか?」


「喜べ、マリアーヌ…お前の婚約者候補が決まったぞ」


「あの、お父様…私はもう28歳です…どなたかに、下賜されるのでしょうか? 相手はどの様な方ですか…経産婦ですからどの様な方でも文句は言いませんが、せめて優しい方をお願いしますわ」


「相手はこれから打診をする段階じゃがセレス殿の予定じゃ」


「お父様、そんな事はおやめください、親子程歳の離れた縁談など恥さらしになりますわよ」


普通はそう思うはずじゃが、今回は違う。


「それがな、セレス殿はオータの話では小さい頃に母を亡くしたせいか年上の女性が好きなようなのじゃ」


「そんな…見目麗しい、ドラゴンスレイヤーの少年がですの?」


「余も信じられなかったが、今の恋人は、お前より年上じゃ」


「本当なのですか…もし本当なら私に異存はありませんわ…」


「あくまで打診じゃが、進める方向で良いな」


「あの寡黙な美少年の妻になるなんて、出戻りの私には勿体ない位です…宜しくおねがいしますわ」


◆◆◆


俺達の住処の前にユニコーンの馬車が止まっていた。


ユニコーンの馬車はザマール王家専門の馬車だ。


正直言えば関わりたくない。


だが...


トントン…


やはり来た。


「はい、どうぞ」


俺はドアを開けた。


「セレス殿、国王ザンマルク4世の使いで参りました、同行をお願い致します」


流石にこれは断れないな。


◆◆◆


「よくぞ参られた、セレス殿」


嫌な予感は当たったようだ。


宰相のドーベルに腹心のオータまで居る…そしてその傍には王女まで居る。


この状況で…無理難題じゃない確率は低い。


「はっ、ザンマルク王にはご機嫌うるわ…」


「良いよい、今回はセレス殿の活躍を称える為に呼んだのじゃ、無礼講で良いぞ」


機嫌は良い。


これなら…そう無理難題を押し付けられる事も無いだろう。


「ありがとうございます」


「それでな、セレス殿、本来ならドラゴンスレイヤーの称号は勲章と一緒に渡すのじゃ、王都に来たので、勲章を渡そうと思ってな…」


「有難き幸せ」


王が態々玉座から降りてきて俺の胸に勲章をつけてくれた。


普通はドーベル宰相がつける筈だが…自ら付けにくる。


これは…何かあるのか…


「しかし、凄い戦歴であるな…竜種を百以上、しかも上位種まで含むとは獅子奮迅の活躍じゃ、貴族の間でも『王国の守護者』とセレス殿を呼ぶ者も多い」


「それは…そう偶々でございます」


「セレス殿、謙遜することは無い、王の言う通りだ、その活躍は宰相の私の耳にも入っております…人によっては『真の勇者』そう呼ぶ者も多くおりますぞ、なぁオータ殿」


「私も聞いた時には驚きでした」


「それでな余は考えたのじゃ…此処迄活躍をしている者にジョブが魔法戦士だからって何も『称号』が無いのも如何なものかと」


嫌な予感がする…


「そこで、この国にはその昔ジョブとは別に称号を与えた者が少なからず存在した…その称号の名は『英雄』生まれながらのジョブに関係なく、国や民に尽くし活躍した者に与えらえた称号じゃ…今のセレス殿の活躍…ドラゴンスレイヤーでも足りぬ、故にこの古の称号『英雄』を与えるものとする」


「そんな大それた称号頂く訳には参りません」


「セレス殿、王は何時も、其方の不遇を憂いでいたのだ…あれ程の活躍や勇者と共に戦い、活躍をしながら支援金も貰えず…正当な評価をされないセレス殿を…貴方は四職以上の活躍をした、ならばと四職と同等とされる『英雄』の称号を与えようとしたのです…お受け取り下さいませ」


「ドーベル宰相様…その称号を持つと何かあるのでしょうか?」


「それは余が話そう…その称号はジョブでは無いが4職と同等…つまり『勇者にも逆らえる』そしてザマール国においては有事の際に余や余の家臣、貴族に直接協力を頼める…簡単に言えば、手続きを一切踏まずに余や貴族に会いに来て、協力を頼めるという事じゃ」


王や貴族に何時でも会えて、協力を頼める…破格だ。


まるで、そう勇者の権限すら越えている様に思える。


「その様な称号…」


「良い、余は其方に期待しておる、働き次第では王女との婚姻、貴族位の授与も考えておる…これからも励むが良い」


可笑しい…マリン王女は魔王討伐後にはゼクトとの結婚が決まっている…他に姫は居ない筈だ。


「その様な…」


「セレス殿、これは王ばかりでなく私も含むこの国の貴族全員の同意を持って決めた事です」


これを蹴ったら…もうこの国には居られない。


「有難き幸せにございます、謹んでお受けいたしますが、マリン王女は勇者ゼクトの妻になる予定…問題になるのでありませんか?」


「其方が活躍した際にとらす姫はマリンではなくマリアーヌじゃ、セレス殿の女性の好みは把握しておる…これからのセレス殿の活躍期待しておるぞ…『英雄』よ」


「セレス殿…これで貴方は4職と同等、頑張り次第では勇者以上の厚遇を手にするチャンスが手に入ったのだ…このドーベルも期待しております…困った事があったら何時でも私を訪ねて下さい」


そうだ、活躍しなければ良い…


そうすれば『英雄』の称号だけで終わる…


それが良い…


呆然とする俺を尻目に…話は終わってしまった。

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