第14話 セレスSIDE 勇者は貧乏くじ

俺には前世の記憶がある…


だから解る。


多分この世の中で一番損な仕事、それが勇者だ。


だってそうだろう?


他の仕事と違い、勇者は転職が出来ない。


そして、魔王を倒すか、自分が戦えなくなるまで戦わされる。


魔王に勝てなければ死の運命が待っている。


もし命が運よく助かり、逃げ帰っても、恐らくは誰からも非難される。


そんな悲惨な運命しか無い人生、貧乏くじ以外の何物でもない。


だが、それだけじゃない。


旅その物も地獄の旅になるだろう。


途中から、その生活は恐ろしく悲惨になる。


魔王城に行くには 魔国に入らなければならない。


つまり、魔族の領地に入らなければならない。


土地勘も無く地図も無く、全てが敵の場所を何か月も彷徨い歩く事になる。


その国では魔王が正義であり、勇者が悪だ。


誰も勇者に食料や支援物資を与えてくれない、だからやる事は決まっている。


『勇者やそのパーティは盗賊になるしかない』


しかも奪った後には口封じに相手を殺す、最悪の盗賊だ。


魔族相手に追いはぎや強奪、魔族の殺害、その生活は悪人の様な生活になる。


相手は魔族とはいえ、罪人の様に、殺し奪う生活を続けていくしかない日々。


そんな悪とも正義とも言えない生活の中、戦いから逃げる事は出来ない。


その戦いの行きつく先は、魔王との決戦。


勝てる確率は五分五分これ程、酷く悲しい人生は無いだろう。


俺は、そんな人生に関わりたくなんて無かった。


だが、ジムナ村の人達に俺は恩義がある。


俺は早くに父親を亡くして母と二人で生きていた。


その生活を助けてくれたのがジムナ村の人々だった。


更に母が死んだあともジムナ村の人は優しく俺を助けてくれた。


孤児の俺が困らず生きてこれたのはジムナ村の人々のおかげだ。


お金を掴んで可笑しくなってしまったが、俺の子供の頃は、ちょい悪親父みたいで悪い事(女遊びや博打の話)を俺に良く吹き込んだゼクトの父親のセクトール。


同じくゼクトの母親で、初恋で母親みたいに思っていた静子。


兄の様に思っていたリダの父親のカズマ。


姉の様に思っていたリダの母親のハルカ。


人付き合いが出来ないが勉強を教えてくれたマリアの父親シュート


同じく母親の様に優しかった、マリアの母親のミサキ。


頑固おやじの様なメルの父親カイト。


同じく母親の様に愛情を注いでくれたメルの母親のサヨ。


そして爺ちゃんの様に可愛がってくれたナジム村長たち。


そんな人たちから『息子や娘を頼む』そう言われたら、逃げる事など出来なかった。


四職でも無いのに、俺は魔王と戦わなくちゃならなくなった。


鍛えれば鍛える程、俺には絶望しか無かった。


今の俺は恐らく、かなり強い、毎日死ぬ程体を鍛えて、大物を狩り続けていた。俺は、別れた、あの時点では、もしかしたらゼクトより、下手したら4人を一緒に相手にしても引けを取らない位の実力はあったかも知れない。


だが、多分、それが俺の限界。


簡単に言えば1日16時間勉強して東大に入れる秀才、それが俺だ。


それに対して、1日僅かに勉強すれば東大の医学部に楽勝で入れる天才、それがあいつ等だ。


たしかに、やり方は褒められたものじゃないが、俺としては追放されてホッとしていた。


だからこそ俺は


『今度会った時は笑って話そうな...世話になったな。四人とも幸せに暮らせよ!』


その言葉を贈れた。


もし、ゼクト達にもう一度会うとしたら魔王の戦いの後だ。


その時に、死んでいるか、再起不能になっていたら『笑って話せない』


道は違えど、幼馴染に不幸になんてなって欲しくは無い。


『魔王に勝利し笑っているあいつ等と話したい』


それだけだ。


『大人しく村に帰って田舎冒険者にでもなるか、別の弱いパーティでも探すんだな』


ゼクト、お前は馬鹿にして言った言葉だが…その人生の方が『勇者パーティ』なんかより俺には遥かに楽しく幸せに感じるんだ。


『お前達は世界を救えばいいんじゃないか』


俺はそう言ったよな。


頑張って強くなって世界を救えよ!


それしかお前達に生きる道は無いんだ。


お前達が、魔王を無事に倒した、その時には幾らでも羨ましがってやるからな。


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